第163話「選ぶ側」
守ると決めた時、人は立場を選ぶ。
選ばないという選択も――また一つの選択だ。
昼下がり。
蒼月亭の裏手に、主要な面々が集まっていた。
ローク、ミレーヌ、レン、リディア、レオン、カイ、そしてレンファとルナ。
少し離れて、ルミアとカリナもいる。
「状況を整理する」
ロークが口を開く。
「偽物ポーションの流通。これは“商売”だ」
「で、昨夜のは?」
レンが聞く。
「別口だ。腕はいい。だが様子見」
「……目的が違う」
リディアが短く言う。
「混ざってるにゃ」
ルナが腕を組む。
「どっちも紅陽見てる」
「だろうな」
ロークが頷く。
「で、だ」
少し間を置く。
「こっちがどう動くか決める」
ミレーヌが腕を組む。
「あたしとしてはね、客に被害が出るのはダメだよ」
「同意だ」
レオンが言う。
「放置はできない」
「だが動きすぎても、正体を見失う」
ロークが続ける。
「……つまり?」
レンが聞く。
「線を分ける」
ロークが指を二本立てる。
「流通の方は追う。オルフェン経由で潰す」
「昨夜のは?」
「泳がせる」
「……は?」
レンが眉をひそめる。
「いいのかよ」
「いい」
ロークは即答する。
「向こうは“見に来てる”だけだ」
「なら、見せてやればいい」
「……」
リディアが静かに頷く。
「餌になる、か」
「そういうことだ」
ルナが口を開く。
「来るなら来ればいい」
少しだけ声が低い。
「今度は逃がさない」
その一言だけ、空気が変わる。
レンファが横で苦笑する。
「やりすぎないでよ」
「加減はするにゃ」
すぐに柔らかい声に戻る。
「多分」
「多分って」
「大丈夫大丈夫」
軽く笑う。
だが、目は笑っていない。
ミレーヌが手を叩く。
「じゃあ決まりだね」
「流通は潰す。もう一つは様子を見る」
「忙しくなるねぇ」
「元からだろ」
レンが笑う。
その時。
「……一つ、よろしいでしょうか」
ルミアが静かに口を開いた。
全員の視線が向く。
「昨夜の者ですが……」
「“狙い”は個人ではない可能性があります」
「……どういう意味だ?」
レオンが聞く。
「紅陽そのもの、あるいは“機能”を見ている」
「宿、武器、ポーション、流通」
「全体です」
「……」
ロークが目を細める。
「拠点としての価値、か」
「はい」
カリナが補足する。
「単なる襲撃ではなく、評価・観察の段階かと」
「……なるほどな」
ロークは小さく笑う。
「ずいぶん“いい場所”になったもんだ」
ミレーヌがため息をつく。
「褒められてる気がしないね」
「実際、そういうことだろ」
レンが肩をすくめる。
ルナがぼそりと言う。
「見るだけならいい」
一拍。
「手出してきたら、終わりだけど」
静かな声。
だが、はっきりしている。
リディアが横目で見る。
「……同意だ」
短い一言。
それで十分だった。
ロークがまとめる。
「よし、動くぞ」
「レン、オルフェン行きの準備」
「リディアは外周強化」
「レオンは見張り増やせ」
「了解」
各自が動き出す。
紅陽は、守る側に回った。
ただの拠点ではない。
選ばれ、見られ、狙われる場所。
その中心で――
ルミアは静かに立っていた。
「……」
カリナが小さく聞く。
「いかがされますか」
「……まだ」
ルミアは答える。
「まだ、こちらです」
その目は、わずかに揺れていた。
紅陽は、選ばれる場所になった。
そして同時に――
“選ぶ側”にもなった。
守ると決めた。
次は――仕掛ける側へ。




