第158話「混ざる思惑」
一つの異変は、単独では起きない。
そこには必ず――複数の思惑が混ざっている。
蒼月亭の裏手。
偽ポーションの件を受け、ローク達は引き続き話し合っていた。
「流通を叩くにしても、相手が見えねえとな」
レンが言う。
「オルフェンの行商だけとは思えないな」
レオンも腕を組む。
「これだけ数が出回ってるとなると、供給元がある」
ロークが低く言う。
「しかも、継続的にだ」
「……」
その時。
「……あの」
小さく声がした。
全員の視線が向く。
ルミアだった。
「何かあるのかい?」
ミレーヌが促す。
ルミアは一瞬だけ言葉を選ぶ。
「作りが……似ています」
「似ている?」
ロークが眉を上げる。
「はい」
「雑ではありますが、癖が同じです」
「同じ癖?」
レンファが興味深そうに聞き返す。
「抽出の順序と、混ぜ方です」
「本来なら安定しない配合を、無理にまとめている」
「……確かに」
レンファが頷く。
「同じ作り手か、同じ技術を共有しているかですね」
「……ほう」
ロークの目が細くなる。
「つまり、どこかに“元”があるってことか」
「……はい」
ルミアはそこまで言って、少しだけ視線を落とした。
「ですが……」
言葉が止まる。
その瞬間。
「……それ以上は」
横から、カリナが静かに口を挟んだ。
「推測の域を出ませんので」
「……」
一瞬だけ、空気が止まる。
「……なるほどな」
ロークが軽く頷いた。
「十分だ」
「手がかりにはなる」
ルミアは小さく頭を下げる。
「失礼しました」
そのまま一歩引く。
「……」
そのやり取りを、ルナがじっと見ていた。
「……やっぱり」
「ただ者じゃないにゃ」
リディアも短く答える。
「……ああ」
「だが――」
「今はいい」
「……うん」
二人はそれ以上踏み込まない。
ロークは話を戻す。
「整理するぞ」
「粗悪品だが、見た目は似せている」
「供給量は多い」
「しかも継続的だ」
「……」
「単なる一人の詐欺師じゃないな」
「組織か」
レオンが言う。
「それも――」
ロークは少しだけ言葉を切る。
「複数だろうな」
「……どういう意味だ?」
レンが聞く。
「人間だけじゃねえ」
「こんな雑な作りでも、“形”は整ってる」
「誰かが“技術”を出してる」
「……」
「で、それを売るのは別の連中」
「つまり――」
「作る側と、流す側が違う」
「面倒だな」
レンが苦笑する。
「面倒だから儲かるんだろ」
ロークが肩をすくめる。
「……」
ルミアはその会話を、静かに聞いていた。
その目の奥で、何かが確かに動いている。
だが、それは表には出さない。
「どうする?」
リディアが問う。
ロークは少しだけ笑った。
「まずは、尻尾を掴む」
「オルフェンの流れを辿る」
「……行くのか?」
「そのうちな」
「今はまだ――」
「泳がせる」
紅陽に生まれた歪み。
それはただの商売の問題ではなかった。
人間。
魔族。
そして――別の思惑。
それぞれが交差し始めている。
その中心に、紅陽がある。
まだ誰も、気付いていない。
この小さな歪みが、
やがて大きな流れになることを。
思惑は、混ざり始めた。
次は――小さな衝突。




