第157話「歪みの出どころ」
歪みには、必ず原因がある。
それは小さくても――放置すれば広がっていく。
翌朝。
蒼月亭の裏手で、ローク、レン、リディア、ルナが顔を揃えていた。
「昨日の件だが――」
ロークが口を開く。
「偽物のハイポーション、出回り始めてる」
「やっぱりか」
レンが腕を組む。
「紅陽の評判が上がってる証拠でもあるな」
「嬉しくない証拠だにゃ」
ルナがぼそりと呟く。
「問題はどこから流れてるかだ」
リディアが短く言う。
ロークは小瓶を取り出した。
昨日の冒険者が置いていったものだ。
「見た目はそれっぽい」
「だが、中身はポーション止まりだ」
「悪質だな」
「完全な詐欺だ」
「これが広まると、“紅陽のポーションも同じ”と思われる可能性がある」
「……それは困るね」
その時。
「見せてもらってもいいですか?」
後ろから声がした。
振り向くと、レンファが立っていた。
「これだ」
ロークが小瓶を渡す。
レンファは静かに中身を観察する。
色、粘度、匂い。
「……」
「どうだ?」
「粗悪ですね」
はっきりと言い切る。
「材料も質が悪い」
「抽出も雑です」
「ただ――」
「見た目だけは似せてあります」
「素人なら騙されますね」
「だろうな」
ロークが頷く。
「これ、どこで買ったって言ってた?」
レンファが聞く。
「オルフェンから来た行商だとよ」
「……」
レンファは少し考えた。
「流通経路を絞れそうですね」
「できるのか?」
「はい」
「この配合、癖があります」
「同じ作り手のものなら、見分けられます」
「……さすがだな」
そのやり取りを、少し離れた場所で聞いている者がいた。
ルミアとカリナだ。
「……」
ルミアの視線は、わずかに鋭くなっていた。
「何かわかりますか?」
カリナが小さく聞く。
「……ええ」
「これは――」
一瞬、言葉を止める。
「……後でお話しします」
すぐにいつもの表情に戻る。
「行きましょう」
「はい」
二人はその場を離れる。
「……」
それを見ていたルナが、ぽつりと呟く。
「……やっぱり、何か知ってるにゃ」
「……ああ」
リディアが短く返す。
「だが――」
「今は聞かない」
「……うん」
二人は視線を外す。
「まずは、こっちの問題だ」
ロークが話を戻す。
「流通を叩くか」
「それとも、見せしめを作るか」
「どっちにしろ――」
レンがニヤリと笑う。
「動く必要はありそうだな」
紅陽に生まれた小さな歪み。
それは、確実に形を持ち始めていた。
そしてその裏には――
まだ見えていない“意図”がある。
歪みの裏には、必ず誰かがいる。
次は――動き出す影。




