↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
156/288

第156話「流れの中の違和感」

流れができた時、物も人も集まる。

だがその中には――意図を持つ者も混ざる。

週に一度。


オルフェンからの荷馬車が紅陽に来るようになってから、蒼月亭の忙しさはさらに増していた。


「荷物こっちだ!」

「酒樽は裏へ回して!」

「気を付けてよ、それ割れ物だからね!」


荷が運び込まれ、すぐに消費されていく。


「これでしばらくは安心だね」


ミレーヌが満足そうに言う。


「流れができたな」


ロークが頷く。


「人も物も、ちゃんと回り始めてる」


蒼月亭、武器屋、そして新しくできる道具屋。


紅陽は確実に、“拠点”から一段階進んでいた。


その一方で――


「はい、こちらお持ちしました」


ルミアが皿を置く。


「ありがとよ」


冒険者は満足そうに頷く。


「ここの飯はいいな」


「助かります」


ルミアは丁寧に頭を下げる。


動きに無駄がない。


言葉も、所作も、崩れない。


「……」


少し離れた場所で、ルナがじっと見ていた。


「……あの子」


「慣れてるにゃ」


「……ああ」


リディアも短く答える。


「普通の“働き始め”じゃない」


「……うん」


二人の視線の先で――


ルミアは自然に笑っていた。


まるで最初からここにいたかのように。


その時――


「おい!」


酒場の一角で声が上がる。


「なんだこれ!」


一人の冒険者が、小瓶をテーブルに叩きつけた。


「ポーションじゃねえか!」


「そうだけど?」


別の冒険者が眉をひそめる。


「効かねえんだよ!」


「は?」


周りの空気が変わる。


「傷に使ったが、血が止まるだけだ!」


「それじゃポーションだろ」


「違う!」


「“ハイポーション”だって言われて買ったんだ!」


「……」


その言葉に、数人が顔を見合わせる。


「どこで買った?」


ロークが低く聞く。


「道中の行商だ」


「オルフェンから来たって言ってた」


「……なるほどな」


ロークは小さく息を吐く。


「偽物だ」


「なんだと!?」


「粗悪品をハイポーションとして売ってる」


「……」


「最近、増えてる話だ」


酒場の空気が少しずつざわつき始める。


「紅陽で売ってるやつは大丈夫なのか?」


「うちは問題ないよ」


ミレーヌがきっぱりと言う。


「レンファが作ってる」


「……ああ、あの人か」


「なら安心だな」


空気は落ち着く。


だが――


ロークの表情は変わらなかった。


「……流れができると、こういうのも来る」


小さく呟く。


その言葉を、ルミアが静かに聞いていた。


ほんの一瞬だけ。


その目の奥に、別の色が宿る。


すぐに消える。


「次のお客さん、行ってきますね」


何事もなかったかのように。


紅陽の流れは、止まらない。


だがその中には――


少しずつ、“歪み”も混ざり始めていた。

流れができれば、歪みも生まれる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。