第156話「流れの中の違和感」
流れができた時、物も人も集まる。
だがその中には――意図を持つ者も混ざる。
週に一度。
オルフェンからの荷馬車が紅陽に来るようになってから、蒼月亭の忙しさはさらに増していた。
「荷物こっちだ!」
「酒樽は裏へ回して!」
「気を付けてよ、それ割れ物だからね!」
荷が運び込まれ、すぐに消費されていく。
「これでしばらくは安心だね」
ミレーヌが満足そうに言う。
「流れができたな」
ロークが頷く。
「人も物も、ちゃんと回り始めてる」
蒼月亭、武器屋、そして新しくできる道具屋。
紅陽は確実に、“拠点”から一段階進んでいた。
その一方で――
「はい、こちらお持ちしました」
ルミアが皿を置く。
「ありがとよ」
冒険者は満足そうに頷く。
「ここの飯はいいな」
「助かります」
ルミアは丁寧に頭を下げる。
動きに無駄がない。
言葉も、所作も、崩れない。
「……」
少し離れた場所で、ルナがじっと見ていた。
「……あの子」
「慣れてるにゃ」
「……ああ」
リディアも短く答える。
「普通の“働き始め”じゃない」
「……うん」
二人の視線の先で――
ルミアは自然に笑っていた。
まるで最初からここにいたかのように。
その時――
「おい!」
酒場の一角で声が上がる。
「なんだこれ!」
一人の冒険者が、小瓶をテーブルに叩きつけた。
「ポーションじゃねえか!」
「そうだけど?」
別の冒険者が眉をひそめる。
「効かねえんだよ!」
「は?」
周りの空気が変わる。
「傷に使ったが、血が止まるだけだ!」
「それじゃポーションだろ」
「違う!」
「“ハイポーション”だって言われて買ったんだ!」
「……」
その言葉に、数人が顔を見合わせる。
「どこで買った?」
ロークが低く聞く。
「道中の行商だ」
「オルフェンから来たって言ってた」
「……なるほどな」
ロークは小さく息を吐く。
「偽物だ」
「なんだと!?」
「粗悪品をハイポーションとして売ってる」
「……」
「最近、増えてる話だ」
酒場の空気が少しずつざわつき始める。
「紅陽で売ってるやつは大丈夫なのか?」
「うちは問題ないよ」
ミレーヌがきっぱりと言う。
「レンファが作ってる」
「……ああ、あの人か」
「なら安心だな」
空気は落ち着く。
だが――
ロークの表情は変わらなかった。
「……流れができると、こういうのも来る」
小さく呟く。
その言葉を、ルミアが静かに聞いていた。
ほんの一瞬だけ。
その目の奥に、別の色が宿る。
すぐに消える。
「次のお客さん、行ってきますね」
何事もなかったかのように。
紅陽の流れは、止まらない。
だがその中には――
少しずつ、“歪み”も混ざり始めていた。
流れができれば、歪みも生まれる。




