第155話「広がる役割」
人が増えれば、役割も増える。
そしてその積み重ねが――“街”を作る。
ルミアとカリナが従業員として働き始めてからも――
蒼月亭の忙しさは変わらなかった。
「エール二つ!」
「はーい!」
「煮込み追加!」
「少々お待ちください!」
冒険者はひっきりなしに訪れ、
空いた部屋はすぐに埋まる。
だが――
「こっち運びます!」
「ありがとう!」
新しく加わった二人は、
すでに戦力になっていた。
「いい子達が入ってくれてよかったよ」
ミレーヌがぽつりと呟く。
「ありがとうございます」
ルミアは丁寧に頭を下げる。
「何も聞かずに雇っていただいて……」
その言葉に、ミレーヌは軽く肩をすくめた。
「誰だって、傷の一つや二つはあるさ」
「……」
「ここじゃ、“何をするか”の方が大事だよ」
「しっかり仕事してくれれば、それでいい」
「……はい」
ルミアは静かに頷いた。
その様子を、
少し離れた場所からルナが見ている。
「……」
「……頑張ってるにゃ」
リディアは短く答えた。
「……ああ」
それ以上は言わない。
日常の中に、違和感は溶けていく。
その夜――
ルミアとカリナは、
すっかりセラやアリア達と打ち解け、
同じテーブルで食事をしていた。
笑い声が自然に混ざる。
紅陽の一員として。
そして、数日後。
「ミレーヌ、いるか?」
ロークが一人の男を連れて現れた。
「なんだい?」
「こいつ、馴染みの行商人なんだが――」
「ここで道具屋を開きたいって言っててな」
「どうだ?」
「……なんであたしに聞くんだい?」
ミレーヌが眉をひそめる。
ロークは当然のように言った。
「村長みたいなもんだろ?」
「あたしが?」
「そう」
周りも頷く。
「そんな感じだよね」
「まずはミレーヌさんがOKしないと」
レオンやカイも口を揃える。
「まったく……」
ミレーヌはため息をついた。
だが、その目はどこか楽しそうだった。
「信用できるやつなら構わないよ」
「道具屋なら、こっちも世話になるしね」
「本当か!」
行商人の顔が明るくなる。
「じゃあ早速、建物を修理して出店します!」
「好きにしな」
そのやり取りを見ながら――
ロークが小さく笑った。
紅陽は、確実に変わり始めている。
宿屋。
武器屋。
そして――道具屋。
点だったものが、線になり、
やがて“街”へと形を変えていく。
その中で――
ルミアは静かにその光景を見つめていた。
役割が増える時、場所は変わる。




