第154話「流れを作る者」
人が集まれば、物も動く。
だがその流れは――誰かが作らなければならない。
ある日の夕方。
ひと段落した酒場で、ミレーヌはロークに声をかけた。
「ねえ、ローク」
「なんだ?」
「ここ最近、冒険者が増えてきてるだろ?」
「ああ、黒影洞目当てだな」
ロークは頷く。
「そのせいでね」
ミレーヌは腕を組んだ。
「調味料も肉も、減りが早いんだよ」
「酒もか?」
「そっちは言うまでもないだろ」
ミレーヌが呆れたように言う。
ロークは小さく笑った。
「で?」
「人も増えてきてるからね」
「こっちが買い出しに行くわけにもいかない」
「だから――」
一拍置いて言う。
「定期的に来てくれる行商人が欲しいんだよ」
「なるほどな」
ロークは腕を組み、少し考える。
「できなくはない」
「本当かい?」
「ああ」
「オルフェンからなら距離的にも現実的だ」
「定期便みたいな形にすればいい」
「肉、魚、酒、調味料……」
「まとめて運ばせる」
「それができれば助かるよ」
ミレーヌが頷く。
「じゃあ、その辺は俺が調整しておく」
「行商人にも話を通すし、ルートも整える」
「頼むよ」
数日後――
紅陽の外れに、軋む音が響いた。
「来たぞー!」
荷馬車が一台、ゆっくりと村へ入ってくる。
荷台には、樽や木箱がぎっしりと積まれている。
「おお……」
レオンが思わず声を上げる。
「これ全部か?」
「第一便だな」
ロークが答える。
「様子見も兼ねてるが……」
「十分すぎるだろ」
レンが苦笑する。
荷馬車から次々と荷が降ろされていく。
肉、干し魚、野菜、香辛料、酒樽――
蒼月亭の裏手は、一気に活気づいた。
「これでしばらくは安心だね」
ミレーヌが満足そうに言う。
「週に一度、この便が来るようにしておいた」
ロークが続ける。
「状況を見て増やすこともできる」
「さすがだね」
「こういうのはな、流れを作るのが大事なんだ」
ロークは肩をすくめる。
「一度流れができちまえば、あとは勝手に回る」
その言葉通りだった。
物が安定して入るようになれば、商人も安心して来る。
商人が増えれば、さらに物が集まる。
紅陽は、ただの拠点ではなく――
“流れの中心”へと変わり始めていた。
その様子を見ながら、カリナは静かに呟く。
「……すごいですね」
ルミアは小さく頷いた。
「ええ……」
その目は、ただの村を見るものではなかった。
流れは、力になる。




