第153話「新しい手」
人は、理由があって訪れる。
だがその理由が見えない時――違和感は静かに残る。
ある日の朝。
朝食を終えた冒険者たちが、次々と紅陽を後にしていく。
「行ってくる!」
「気を付けなよ!」
黒影洞へ向かう背中を見送りながら、
蒼月亭は束の間の静けさに包まれていた。
その時――
扉が開く。
「いらっしゃい」
ミレーヌが顔を上げる。
入ってきたのは、二人の少女。
質素な服装。
だが――
どこか、整いすぎている。
「あの……」
一人が口を開く。
「従業員を募集していると聞いて、来たのですが」
「求人かい?」
「はい」
もう一人が静かに頭を下げる。
「ここで雇っていただければと思いまして」
「……」
ミレーヌは二人をじっと見る。
姿勢。
言葉遣い。
視線の運び。
「どこから来たんだい?」
「……旅の途中で、この村の話を聞いて」
「働ける場所を探していました」
淀みはない。
だが――
「……そうかい」
ミレーヌはそれ以上は追及しなかった。
「じゃあ、少し聞かせてもらうよ」
簡単なやり取りが続く。
仕事の経験。
体力。
接客。
どれも問題はない。
「……」
その様子を、
少し離れた場所から見ている者がいた。
「……」
ルナが、じっと二人を見る。
「……にゃんか、変」
小さく呟く。
隣でリディアも腕を組んでいた。
「……ああ」
短い返答。
「ただの旅人じゃない」
だが、それ以上は言わない。
「……」
二人は視線を外す。
何もなかったかのように。
そして――
「よし」
ミレーヌが手を打った。
「じゃあ、今日からお願いするよ」
「えっ……」
一瞬、驚いた表情。
すぐに整える。
「はい」
「ありがとうございます」
「やり方はセラやアリアに聞いとくれ」
「セラ、アリア」
「しっかり教えるんだよ」
「はーい!」
「任せて!」
二人は軽く頭を下げる。
「よろしくお願いします」
「よろしくね〜!」
セラとアリアに連れられ、
二人は奥へと案内されていく。
寝床。
仕事場。
動き方。
すぐに説明が始まる。
蒼月亭に、新しい手が加わった。
その様子を見ながら――
ルナがぽつりと呟く。
「……あの子達」
「普通じゃないにゃ」
リディアは短く答えた。
「……だろうな」
「……でも」
一瞬だけ視線を向ける。
「害はなさそうだ」
「……うん」
二人はそれ以上、何も言わなかった。
違和感はある。
だが、それはまだ――
“確信”ではない。
紅陽の日常は、
何も変わらないまま、続いていく。
違和感は、静かに積もる。




