第149話「絡み合う思惑」
世界は静かに動いている。
気付かぬうちに――誰かの思惑が、誰かの運命を変えていく。
「セレスト港で聞いた話だ」
ロークが静かに口を開いた。
賑やかだった酒場の空気が、ゆっくりと落ち着いていく。
「ルクスリアの――」
「ルクシア家って連中がいる」
「……」
レンファの表情が、わずかに変わる。
「そいつらがな」
「ポーションの権益を独占しようとしてたらしい」
「やっぱり……」
レンファが小さく呟く。
ロークは続ける。
「それと――」
「魔族領、ゼルカート王国」
「そこの宰相が結託してな」
「……!」
場の空気が一瞬で張り詰める。
「連れ去ったって話だ」
「……そうです」
レンファは静かに頷いた。
「私は、そこから逃げ出してきたんです」
ルナは隣で、じっと前を見ている。
ロークはさらに説明を重ねる。
「ゼルカート王国もな」
「ポーションの需要が高いらしい」
「だから――」
「利害が一致した」
「なるほどな……」
レオンが腕を組む。
「典型的な構図だ」
「……」
レンファは少しだけ目を伏せた。
「ここでよかったかもな」
ロークがぽつりと言う。
「えっ?」
レンファが顔を上げる。
ロークは酒を一口飲み、ゆっくりと続けた。
「今のルクスリアは――」
「きな臭い」
「ルクシア家と王」
「それに、第二王子」
「この三つがな」
「妙な均衡で動いてる」
「……」
「内紛寸前、ってとこだな」
「そうですか……」
レンファの声は静かだった。
帰る場所。
だが、その場所は今――
安全ではない。
「……」
ルナがそっと、レンファの腕に触れる。
言葉はない。
だが、その温もりだけで十分だった。
「焦る必要はないさ」
ミレーヌが穏やかに言う。
「ここは逃げ場じゃない」
「居場所だよ」
「……はい」
レンファは小さく頷いた。
ロークは最後に言った。
「どっちにしろ――」
「向こうは、いずれ動く」
「……」
「その時、紅陽がどうするかだな」
静かな緊張が、場を包む。
だが同時に――
ここには、仲間がいる。
紅陽は今、
ただの村ではなく、
“選択を迫られる場所”へと変わり始めていた。
絡み合う思惑。
次に動くのは――誰か。




