第141話「本物の価値」
知識は力になる。
だが――“正しい知識”は世界そのものを変える。
翌朝。
朝食を終えた一同は、そのまま裏庭へと集まっていた。
「じゃあ、始めますね」
レンファが静かに言う。
用意されたのは、昨日オルフェンで揃えた錬金道具。
そして――
「これが、王都で買ってきたハイポーションです」
レンが小さなガラス瓶をテーブルに置いた。
淡く濁った液体。
レンファはそれを手に取り、光にかざす。
「……」
じっと観察する。
「ん〜……」
「どうしたんです?」
レンが首を傾げる。
「ええ、ちょっと……」
レンファは一度言葉を切った。
「まあ、後で見てもらいましょう」
「それが一番わかりやすいです」
「?」
そのまま裏庭へと移動する。
そこには――
咲き誇る花と、小さな小川。
「これを使います」
レンファは花を摘み、水を汲み、静かに作業を始めた。
手際は無駄がなく、どこか“慣れている”。
抽出。分離。調整。
そして――
「……できました」
差し出されたのは、透き通る液体。
光を受けて、わずかに輝いている。
「これがハイポーションです」
「綺麗だね……」
セラが目を丸くする。
「王都で買ってきたのと、全然違うな」
レオンも覗き込む。
「……」
全員が、不思議そうに見つめていた。
「まずは、わかりやすい方法で見てもらいます」
レンファはナイフを取り出し――
指先を、軽く切った。
「ちょっと!」
セラが慌てる。
血が、じわりと滲む。
「見ててください」
作ったハイポーションを、一滴垂らす。
その瞬間――
「……!」
傷口が、みるみるうちに閉じていく。
血は止まり、皮膚が再生し――
完全に消えた。
「凄い……!」
「なんだ今の……!」
驚きの声が一斉に上がる。
レンファは静かに言った。
「これが、本来のハイポーションです」
そして、もう一度ナイフを取る。
同じように、指先を切る。
「じゃあ、今度は」
「買ってきてもらったものを使います」
王都のハイポーションを垂らす。
「……」
血は止まった。
だが――
それだけだった。
「……あれ?」
「さっきと違うな」
レンファが説明する。
「錬金術師なら、色合いでわかるんですが」
「これは、質があまり良いとは言えません」
「ええ!?」
「一応、ハイポーションの品質ではあります」
「ですが――」
「レベル的には、最上級ポーションと同程度です」
「そんなに違うのか……」
「本来のハイポーションは」
レンファは続ける。
「飲むことで、損傷した内臓なども修復します」
「全身ではありませんが、ある程度の範囲なら完全に治療できます」
「……」
場が、静まり返る。
その時――
「私の両腕が粉々になった時もね」
ルナがさらっと言った。
「ハイポーションを飲むのと、浸すのを両方やったおかげで治ったんだよ」
「……は?」
「粉々?」
「……さらっと言うな」
「その時はエリクサーがなかったので」
レンファが補足する。
「ある意味、力技でした」
「エリクサー?」
「……まさか」
レオンが顔を上げる。
「エリクサーも作れるのか?」
レンファは、少しだけ微笑んだ。
「もちろんです」
「ただし――」
「材料が揃えば、ですが」
その一言に、全員の目の色が変わる。
紅陽は今――
ただの村ではなく、
“価値を生み出す場所”へと変わろうとしていた。
本物の知識が、世界を変える。
次は――エリクサー。




