第137話「帰る場所の温もり」
戦いの後にあるのは、静けさだけではない。
それは、誰かと囲む温かな時間――。
その日の夕方。
蒼月亭の酒場には、いつも以上に賑やかな空気が流れていた。
「さ、今日は――」
ミレーヌが次々と料理をテーブルに並べていく。
「レンファとルナの再会と、新しい住人になったお祝いだよ」
「わぁ……!」
「美味しそう〜!」
ルナが目を輝かせる。
「ミレーヌさんの料理は美味しいよ」
アリアが微笑みながら言う。
「ほんと?」
「食べればわかるよ」
「じゃあ――」
「いただきま〜す!」
一斉に手が伸びる。
ルナも一口、ゆっくりと口に運んだ。
「……」
そして――
「……美味しい」
ぽつりと、そう呟いた。
次の瞬間。
ぽろり、と。
涙がこぼれた。
「えっ……?」
セラが驚く。
ルナは、手を止めたまま小さく笑った。
「……レンファがいなくなってから」
「食べ物を、美味しいって思えなかった」
静かに、言葉を紡ぐ。
「ずっと……寂しかった」
場の空気が、そっと変わる。
レンファが、隣で静かに言った。
「これからは、ここにいる」
「……」
「ずっと、一緒だ」
ルナは一度だけ、強く頷いた。
「……うん」
そして、涙を拭いながら笑う。
「毎日、こんな美味しいの食べられるの?」
「もちろんだよ」
ミレーヌが胸を張る。
「うちは宿屋だからね」
「嬉しい〜!」
ぱっと明るくなるルナ。
「切り替え早いな」
レオンが苦笑する。
「それがいいんだよ」
アリアが優しく言う。
「ね〜」
セラも頷く。
「にゃ〜ん♪」
「……」
「ほんとに同一人物か?」
フィオがぼそっと呟く。
「戦う時は別人だからね」
レンが肩をすくめる。
リディアはその様子を見ながら、静かにグラスを傾けた。
「……いい場所だ」
誰に向けるでもなく、そう呟く。
笑い声が重なり、食器の音が響き、
温かな空気が酒場を満たしていく。
紅陽にまた一つ――
“帰る場所”が増えた。
再会と、新たな日常の始まり。
紅陽は少しずつ、ただの拠点から“居場所”へと変わっていく。




