第136話「新たな住人と、二つの顔」
戦いの後に残るのは、傷だけじゃない。
新しい出会いと、新しい日常もまた――そこに生まれる。
レンが帰還し、ルナとの戦闘を経て誤解が解けた後――
獣人夫婦、レンファとルナは紅陽に住むことになった。
「さて、と」
ミレーヌが腕を組む。
「住む場所はどうする?」
「廃屋はいくつかあるからね」
レオンが周囲を見渡す。
「カイの鍛冶場の隣がいいんじゃないかな?」
セラが手を上げる。
「裏の花を摘みにすぐ行けるよ」
「裏の花?」
レンファが首を傾げる。
気になった様子で、そのまま鍛冶場の裏手へと足を運ぶ。
「……まさか」
立ち止まった。
「この花まで咲いてるのか……?」
「え?」
ルナも横から覗き込む。
「これ……レンファがよく遠出して摘んできてた花じゃない?」
「……ああ」
レンファはゆっくり頷く。
「ルクスリアでは、ほとんど自生していない花なんです」
「だからルナと一緒に、何度も遠出して採りに行っていました」
「へぇ〜」
セラが興味津々に覗き込む。
「で、これは何ができるの?」
レンファは少しだけ考えてから答えた。
「解毒です」
「やり方を変えれば……毒にもなります」
「えっ」
「これ……毒持ってたっけ?」
フィオが眉をひそめる。
「このままでは無害に近いですが」
「抽出の方法を変えることで、性質を反転させることができます」
「……」
「この人、なんか凄くない?」
セラがぽつりと呟く。
「そう思う」
アリアも頷いた。
「レンファは元宮廷錬金術師だったんだよ」
ルナが少し誇らしげに言う。
「その頃に護衛でついてくれたまま――」
「結婚したんです」
レンファが少し照れくさそうに補足する。
「ねぇ〜」
ルナが甘えた声を出しながら、腕に絡みつく。
「……」
その様子を見て、周囲が一瞬静まり返る。
「昨日の殺し屋にはとても見えないな」
レオンが苦笑する。
「リディアさんに真っ向勝負だったしね」
レンも肩をすくめる。
「それが今――」
フィオがルナを見る。
「にゃ〜ん」
「この差がすごい……」
「何よ〜」
ルナはくすっと笑う。
「ちゃんと切り替えてるだけだよ?」
その一言に、リディアが静かに視線を向けた。
「……なるほどね」
短く、それだけ呟く。
戦う者としての理解。
その空気が一瞬だけ流れた。
「よし」
レオンが手を叩く。
「じゃあ、さっさと直すか!」
「はーい!」
紅陽の住人たちは一斉に動き出す。
壊れかけた壁を直し、屋根を補修し、床を整える。
人手が増えた分、作業は驚くほど早く進んだ。
そして――
「こんなもんだろ」
夕方には、廃屋はすっかり“住める家”へと変わっていた。
「……すごい」
レンファが小さく呟く。
「一日でここまで……」
「みんな慣れてるからね」
ミレーヌが笑う。
「ここは、そうやって作ってきた場所だから」
ルナはその光景を、静かに見渡していた。
戦いもある。
危険もある。
けれど――
「……悪くないね」
ぽつりと、そう呟いた。
紅陽に、また一つ“居場所”が増えた。
新たな住人、レンファとルナ。
そして見え始める“紅陽の価値”。
次は――錬金術が、この村を変えていく。




