第134話「遠き故郷と、近づく火種」
帰る場所がある者。
だが、その道の先にもまた――火種は燻っている。
「獣人?」
レンが改めて聞き返す。
「はい」
レンファは頷く。
「この辺じゃ見ないよね?」
フィオが腕を組む。
「あの山脈の向こうだって、故郷は」
レンファが窓の外――遠くに見えるヴァルグリス山脈を見た。
「遠いな」
レオンが素直に呟く。
「でも」
レンファは静かに続ける。
「妻が待っているので……いずれ帰ります」
「そうだね」
ミレーヌが頷く。
「帰る所があるのは、いい事だよ」
「そうですね」
レンファも小さく笑った。
「でも帰るのも、西のセレスト港まで行くんだって?」
セラが思い出したように言う。
「話は聞いたことある港だけど……」
レンが顎に手を当てる。
「オレ達も行ったことない所だな」
「ロークさんなら知ってるだろうね」
カイが言う。
「行商人ならな」
フィオも同意する。
「そういえば、ロークは?」
ミレーヌが周囲を見渡す。
「ああ」
レンが思い出したように答える。
「やっぱりヴァルディアで会ったよ」
「荷物を受け取って、そのまま先に行くってさ」
「先って?」
「グラディウス砦都市」
「……グラディウスか」
リディアが静かに呟く。
「知ってるんですか?」
レンファが尋ねる。
「名前だけね」
リディアは腕を組む。
「でも……あそこなら、確かに“揃う”」
「そうそう」
レンも続ける。
「武器も資材も、山ほどあるだろうって言ってた」
「グラディウス砦都市ってどんなとこです?」
レンファが興味を示す。
レオンが少しだけ表情を変えた。
「あそこはな……」
「その先に深い森があって、魔物がうじゃうじゃいるって話だ」
「それを抑えるための拠点」
「表向きは」
「……表向き?」
セラが首を傾げる。
フィオが少しだけ声を落とす。
「噂じゃ――」
「隣の国、アルヴェリアを落とすための拠点だって話だ」
「……」
一瞬、場の空気が静かになる。
「だから向こうも、同じような軍事都市を持ってる」
レオンが続ける。
「似たもの同士ね」
リディアが淡々と言う。
「どこも一緒か」
ミレーヌがため息混じりに呟く。
レンファは、その話を静かに聞いていた。
「……」
自分の国。
魔族領。
そして、人間の国同士の争い。
「世界は……どこも同じなんですね」
小さく、そう呟く。
リディアは一度だけレンファを見る。
「違うところもあるわよ」
「え?」
「ここみたいにね」
その一言に、レンファは少しだけ目を見開いた。
争いの外にある場所。
だが――
完全に無関係ではいられない場所。
紅陽は、確かにそこにあった。
その外では――
静かに、火種が広がり続けている。
広がる世界、見え始める争い。
そして、紅陽という“例外”。
だがその例外も、いつか――




