第133話「帰還と交差」
それぞれの場所で動いていた時間が、少しずつ交わり始める。
そして――探していたものは、すぐ近くまで来ていた。
「僕も……もうちょっとはこの村に慣れないと」
レンファは、ぽつりと呟いた。
まだ見慣れない景色。
だが、確かに“居場所”になり始めている感覚がある。
「また散歩してきます」
軽く頭を下げる。
「見張ってるから、遠くに行かなければいいよ」
リディアが短く返す。
「ありがとうございます」
レンファは、ゆっくりと村の中を歩き出した。
畑。
整えられた土。
無駄のない配置。
「……よく手入れされてる」
次に、水路。
水の流れは淀みなく、綺麗に管理されている。
柵も同じだ。
補修された跡がありながら、しっかりと機能している。
「……すごいな」
誰かが一人でやっているわけではない。
皆で維持している。
それが一目でわかった。
足元には、ルミナ草以外の植物も広がっている。
見たことのない草花。
見慣れない樹木。
「ルクスリアじゃ見ないのが多いな……」
しゃがみ込み、葉を観察する。
「生態系が違うのかな……」
ぽつりと呟く。
「元々、植物がそれ程多い訳じゃないからなぁ……」
少しだけ目を細める。
「……こっちで研究したら、面白そうだろうな」
気づけば、独り言が増えていた。
「どう、この村は?」
背後から声。
振り返ると、アリアが立っていた。
「いい所ですよ」
レンファは素直に答える。
「魔物は怖いですが」
「ここじゃ日常だからね」
アリアは肩をすくめる。
「慣れるしかないよ」
「ですねぇ……」
レンファは苦笑する。
「でも」
アリアは少しだけ胸を張る。
「リディアさんやレオン、それに買い出しに行ってるレン達もいるから大丈夫よ」
「みんな強いから」
「なるほどねぇ……」
レンファは素直に頷いた。
“守られている場所”という実感が、少しずつ形になっていく。
その時――
遠くから声が響いた。
「ただいま〜!」
レンファとアリアが同時に振り返る。
村の入口の方から、二人の姿が見えた。
レンとフィオだ。
背には荷物。
長旅の疲れはあるが、足取りはしっかりしている。
「おかえり〜!」
セラが元気よく駆け寄る。
「ただいま。いやー、思ったより集まったよ」
レンが荷物を軽く叩く。
「ジャンク品、結構いいのがあった」
フィオも続く。
「ロークは?」
レオンが声をかける。
「別ルートで動いてる。多分、後から合流すると思う」
「そっか」
ミレーヌが頷く。
そのやり取りを、少し離れたところから見ていたレンファ。
帰ってきた二人――レンとフィオに視線を向ける。
「……?」
レンが気づいて、軽く首を傾げた。
「……誰?」
率直な一言だった。
「あ、そうだよね」
セラが思い出したように言う。
「この人ね、森で追われてたのを助けたの」
「追われてた?」
フィオが少し警戒を強める。
レオンが軽く手を上げて補足する。
「魔族側の兵に追われてた。敵ではない」
「なるほどね」
レンが一歩近づき、レンファを見る。
「で?」
レンファは一瞬だけ間を置き、頭を下げた。
「……レンファといいます」
「ルクスリアの国の錬金術師です」
「錬金術師か」
フィオが興味を示す。
「材料採取中に拉致されて……黒焔城から逃げてきました」
「……黒焔城?」
レンの目がわずかに鋭くなる。
「魔族領内のね」
リディアが横から淡々と補足する。
「……なるほど」
レンはそれ以上は深く突っ込まなかった。
「今はここで療養中ってことだ」
「はい」
「オレはレン」
軽く手を上げる。
「フィオだ」
隣で腕を組みながら名乗る。
「暫くお世話になります」
レンファが改めて頭を下げる。
「まあ、ここにいるなら大丈夫でしょ」
フィオが肩をすくめる。
「そうそう。危ないのは外だからね」
セラが軽く笑う。
「中も安全とは限らないけどね」
リディアがぼそっと言う。
「やめてくださいよ……」
レオンが苦笑する。
場の空気が少し和らぐ。
レンは一度だけレンファを見て――
「無理すんなよ」
それだけ言った。
レンファは小さく頷く。
「……ありがとうございます」
レンとフィオが帰還。
そして、わずかに交差する違和感。




