第131話「咲き誇る“価値”」
静かな朝。
だがその裏で――紅陽の価値を変える“発見”が芽吹く。
翌朝。
「おはようございます」
レンファが二階の宿泊部屋から降りてくる。
「おはよう。よく眠れたかい?」
ミレーヌが振り返る。
「はい。ぐっすりでした」
「疲れてたろうしね」
その言葉に、レンファは少しだけ表情を緩めた。
「こんなにゆっくり寝られたのは……拉致されて以来、初めてです」
「……そうだろうね」
ミレーヌはそれ以上は聞かなかった。
「さ、朝食にしよう」
やがて皆が起きてきて、席につく。
パンをちぎる音、スープの湯気、軽い会話。
いつもの朝が、そこにあった。
食事が終わると、各々が動き出す。
カイは工房へ。
レオン達は周辺の警戒。
セラとアリアは店の様子見。
レンファは――一人、村を歩いていた。
「……」
まだ見慣れない景色。
だが、どこか穏やかだ。
その足が、自然とセラ達の家の裏手へ向かう。
そして――
視界に広がったものに、足が止まった。
「こ……これは……」
思わず声が漏れる。
そこには、一面に咲き誇る花。
小さく、しかし鮮やかな色。
風に揺れながら、群生している。
「どうかしたの?」
後ろから声。
振り返ると、アリアが立っていた。
「……この花……」
レンファは信じられないものを見るように指差す。
「ルミナ草が……こんなに咲いてるなんて……初めて見た……」
「えっ?」
アリアはきょとんとする。
「この辺じゃ結構普通だけど」
「普通……?」
レンファの声が少し裏返る。
「こんな貴重な花が……?」
「貴重って?」
アリアが首を傾げる。
レンファはゆっくりと答えた。
「ハイポーションの原料です」
「えっ?」
今度はアリアが固まる。
「ハイポーションって……この花だっけ?」
ちょうど通りかかったカイも足を止める。
「……僕の記憶では、これじゃなかったような……」
レンファは静かに首を横に振った。
「一般的には、別の花で作られています」
「でも、それは効果が低いんです」
その視線が、足元の花へ落ちる。
「この花で作るハイポーションに比べて」
「ええ!?」
セラが思わず声を上げる。
「じゃあここにいっぱい咲いてる花で作ったら……」
「良質のハイポーションができます」
レンファははっきりと言い切った。
一瞬の静寂。
そして――
「すごくない?」
「すごいね」
「とんでもないね」
各々の反応が重なる。
だがカイが、ふと現実に戻す。
「でも……作り方がわからないね」
その一言に、空気が少し落ち着く。
「僕が作りますよ」
レンファがあっさりと言った。
「ちょっとコツがいるんですが……できます」
「本当かい?」
ミレーヌが目を細める。
「はい」
迷いのない返事。
「道具はどうするんだい?」
「書きますので、用意してくれれば」
レンファはすぐに紙とペンを借り、必要な道具を書き出していく。
蒸留器具、調合皿、魔力安定石――
「……ここにはないのばかりだね」
ミレーヌが紙を見て呟く。
「オルフェンであるかな?」
「王都かヴァルディアにはあると思うんですが……」
リディアが腕を組む。
「今、レオンや私が動くのは危険ね」
「追手が来る可能性がありますし……」
レオンも頷く。
「セラとアリアだけじゃ守りきれない」
「そうですね……」
セラが少し不安そうにする。
「逆にセラやアリアが狙われる可能性もあるわね」
リディアが淡々と付け加える。
「拉致されちゃうかもしれないし」
「さらっと怖いこと言いますね⁉︎」
セラが思わず抗議する。
「事実よ」
「否定できないのがつらい……」
「ロークやレン達が帰ってきたら、行ってもらうか?」
ミレーヌがまとめる。
「それが現実的だね」
カイも同意する。
するとレンファが、静かに口を開いた。
「……お世話になるお礼で」
皆の視線が集まる。
「ハイポーションを作ってから、旅立つようにします」
「……」
一瞬、誰も言葉を発さなかった。
「作れるだけ作っておけば……後々、皆さんの役に立ちますから」
ミレーヌがふっと笑う。
「嬉しいね。ありがとう」
レンファは少しだけ首を振る。
「いえ……」
「私の方こそ、お世話になっているので」
「それぐらいは、させてください」
その言葉は、静かだった。
だが――確かな意思があった。
紅陽に咲く花は、ただの花ではなかった。
それは――
この場所の価値を、大きく変える“資源”だった。
紅陽に眠る“資源”が明らかになる。
そして、それを活かす“技術”もまた、ここにある。
だが道具が足りない。
そして――敵はまだ、諦めていない。




