第126話「境界を越えてきた者」
紅陽の武器屋は、思いがけない盛況を見せていた。
だが、売り切れという“嬉しい悲鳴”の先に――新たな出会いが待っている。
「これは売れないからなぁ……」
カウンターの上に残した一本の小太刀を見ながら、セラが肩をすくめる。
「これはレンが欲しがってた剣だからなぁ。さすがに売れないよね。」
「ロークさんの言う通り、お店閉めちゃおうか?」とアリア。
「しょうがないね。売り物無いし」
武器屋の中は、すっかり“空っぽ”だった。
代わりに花瓶に飾られた色とりどりの花だけが、やけに目立つ。
「花屋になっちゃったね、これ」
「武器屋です」
セラの一言に、アリアが即座に訂正する。
そんなやり取りをしていると――
ざわり、と空気が揺れた。
「……ん?」
セラが顔を上げる。
次の瞬間、遠く――魔族領の森の方から、明らかな“異音”が響いた。
ガサガサと草木をかき分ける音。
複数。しかも、速い。
「騒がしいな……」
店の外に出ていたレオンが眉をひそめる。
その横で、リディアはすでに森の方を見据えていた。
「……追われてる音ね」
淡々と、だが確信を持った声。
「行きますか?」
「行くわよ。放置する理由がない」
即答だった。
「セラ、アリア。ここを頼む」
「うん!気をつけて!」
「花、増やしておくね!」
「いやそれ今じゃないでしょ」とレオンが思わずツッコむ。
リディアは一瞬だけ振り返り――
「いいのよ。死体に花は似合うから」
さらりと言い放った。
「縁起悪いですよ⁉︎」
そんなやり取りを残し、二人は森へ駆け出した。
森の中は、すでに騒然としていた。
枝が折れる音。
荒い呼吸。
そして――
「助けてくれぇぇぇ!!」
男の叫び。
その声の先に、ボロボロの獣人の姿があった。
狐の耳、尻尾。衣服は裂け、全身に傷。
そしてその背後には――
複数の影。
「……来たか」
リディアが剣を抜く。
レオンも大剣を構える。
「レオン、行くわよ」
「はい!」
次の瞬間、二人は同時に地を蹴った。
まずはリディア。
滑るように距離を詰め、先頭の追手の懐へ潜り込む。
鋭い一閃。
「がっ……!」
敵の一人が崩れ落ちる。
だが――数が多い。
レオンが横から割り込むように大剣を振るう。
重い一撃で、二人まとめて吹き飛ばした。
「多いですね……!」
「でも雑よ」
リディアは冷静だった。
「統率がない。追撃に夢中なだけ」
「つまり?」
「ただの雑魚」
その言葉通り、動きは荒い。
だが数だけは揃っている。
「――下がって!」
リディアが狐の男に叫ぶ。
「は、はい……!」
男はよろめきながら後退する。
その間にも、敵は迫る。
「ここで止めるわ」
リディアの剣が静かに構えられる。
「一歩も通さない」
その言葉に、レオンが頷いた。
「了解です」
――迎撃。
紅陽へ続く“境界線”での戦いが、始まった。
ついに登場した獣人の男。
彼を追う者たちの正体とは――そして、彼が背負うものとは何か。
次回、戦闘の決着と“紅陽への到達”。
物語は新たな局面へ。




