第118話 最初の刃
王都から戻ったカイたち。
鍛冶屋の道具と未完成の武器を運び込み、
紅陽は少しだけ賑やかになった。
そしてその夜――
蒼月亭では、いつもの宴が開かれていた。
夜。
蒼月亭の酒場はいつもより賑やかだった。
王都から戻ったカイたちを囲んで、皆が席についている。
料理の匂いと酒の香りが広がる。
レオンが肉を頬張りながら言った。
「やっぱり蒼月亭の料理は美味い」
レンも頷く。
「ここに慣れると、他の宿には泊まれないな」
フィオが笑う。
「それはわかる」
ミレーヌが肩をすくめる。
「おだてても料理しか出ないよ」
セラが嬉しそうに笑う。
「でも本当に美味しいよ!」
アリアも微笑む。
「エルフの里でもここまでの料理はなかなかない」
セリアも頷く。
「蒼月亭は特別だね」
リディアは酒を一口飲みながら言った。
「旅の途中で思い出す味だ」
ミレーヌは少し照れくさそうに笑った。
「やめな、恥ずかしいじゃないか」
その時だった。
「そうだ」
カイが席を立った。
部屋の隅に置いてあった木箱へ向かう。
王都から運んできたものの一つだ。
箱を開け、一本の刃物を取り出す。
「これ」
皆の視線が集まる。
カイは少し照れたように言った。
「まだオヤジさんの所にいた頃」
「初めて打たせてもらった包丁です」
「残ってました」
ロークが興味深そうに身を乗り出す。
「どれ」
カイは包丁を差し出した。
ロークが手に取る。
刃を光にかざす。
「……ほう」
次にレオン。
「最初でこれか?」
レンが受け取る。
「いい感じだな」
フィオも見る。
「バランスがいい」
セラは少し緊張しながら持つ。
「すごい……」
アリアも頷く。
「丁寧な刃だ」
セリアが言う。
「最初の作品とは思えない」
最後にリディアが持つ。
刃の重さを確かめるように軽く振る。
「……」
少しだけ口元が上がる。
「いい刃だ」
そしてカイを見る。
「最初が包丁ってところがいいね」
皆が笑った。
カイは頭をかきながら言う。
「ミレーヌさんに使ってもらおうと思って」
ミレーヌが目を丸くする。
「私に?」
カイは頷く。
「何度も刃を研いでますけど」
「そろそろ限界に近づいてきてましたよね」
ミレーヌは自分の包丁を思い出す。
長く使ってきた道具だ。
「そうなんだよ」
「最近ちょっと切れ味が落ちてきてね」
カイは包丁を差し出した。
「この際どうかなと思って」
ミレーヌは少し迷った。
そして笑う。
「いいのかい?」
カイは頷く。
「はい」
ミレーヌは包丁を受け取った。
刃を指でなぞる。
「……いい刃だ」
そして大きく笑った。
「じゃあ遠慮なく頂くよ」
セラが嬉しそうに言う。
「カイの鍛冶製品第一号だね!」
アリアも微笑む。
「記念すべき刃だ」
ミレーヌは包丁を見ながら言った。
「嬉しいね」
そしてカイを見た。
「大事に使うよ」
カイは少し照れながら頷いた。
その夜。
蒼月亭の宴は遅くまで続いた。
酒と笑い声。
そして――
紅陽の鍛冶屋の、最初の刃が生まれた夜だった。
カイの鍛冶製品第一号は包丁でした。
料理人のミレーヌが使うことで、
この刃は紅陽の生活の一部になります。




