第117話 紅陽の鍛冶屋
王都から戻ったカイたちは、
鍛冶屋の道具と未完成の武器を紅陽へ持ち帰った。
だが――
その量は、誰の想像も超えていた。
紅陽に、新しい仕事が生まれようとしていた。
街道を進み、やがて見慣れた森が見えてくる。
その先にあるのは――紅陽。
蒼月亭の屋根が見えた瞬間、レンが言った。
「やっと帰ってきたな」
ロークが肩を回す。
「腰が痛い」
リディアが軽く笑う。
「荷物の量を見れば当然だよ」
馬車の後ろには、鍛冶屋一軒分とも言えるほどの荷物が積まれていた。
やがて村の入り口に到着する。
蒼月亭の前に馬車が止まった。
最初に気付いたのはセラだった。
「帰ってきた!」
大きな声が広場に響く。
ミレーヌが酒場の扉を開ける。
「おかえり」
だが――
馬車を見て固まった。
「……」
「ちょっと待ちな」
「なにその荷物」
レンが笑う。
「鍛冶屋丸ごと持ってきた」
セラが目を丸くする。
「ええ!?」
アリアも外に出てきた。
「すごい量……」
ロークは荷台を叩く。
「鍛冶屋の道具だ」
「未完成の武器もある」
「鉄材もある」
ミレーヌが呆れる。
「アンタたち引っ越ししてきたのかい」
カイが少し照れながら言う。
「オヤジさんの工房にあったものです」
「使えるものは全部持ってきました!」
セラが目を輝かせる。
「すごい!」
「武器いっぱい作れる!」
ロークが笑う。
「その通りだ」
ミレーヌが腕を組む。
「つまり?」
「どうするんだい、カイ」
広場の視線がカイに集まる。
カイは荷台を見た。
そしてゆっくり言う。
「王都で」
「オヤジさんの鍛冶屋に行ってきました」
少しだけ間を置く。
「……亡くなってました」
ミレーヌたちは静かに聞いている。
カイは続けた。
「でも」
「工房はそのままでした」
「未完成の武器も」
「道具も」
「全部」
カイは拳を握る。
「僕は約束してきました」
「オヤジさんの心を継ぐって!」
ロークが腕を組んだまま頷く。
リディアも静かに聞いている。
カイは顔を上げた。
「紅陽で鍛冶屋を始めます!」
広場が静かになる。
そして――
最初に笑ったのはミレーヌだった。
「いいじゃないか」
「宿屋」
「武器屋」
「修理屋」
「そして鍛冶屋」
ミレーヌは腕を組んで言う。
「村らしくなってきたね」
ロークが笑う。
「武器が売れるぞ」
レンも頷く。
「俺の剣も作ってくれ」
セラが手を挙げる。
「私の杖も!」
アリアも微笑む。
「矢尻をお願いしようかな」
カイは少し驚いた顔をした。
そして――
静かに頭を下げた。
「まだ修理しかできません」
「でも」
「いずれ」
「オヤジさんの品質に追いつきます」
ミレーヌが言う。
「その時は」
「紅陽の鍛冶屋だね」
ロークが笑う。
「名前も決まったな」
レンが荷台を見る。
「とりあえず降ろすか」
セラが元気に言う。
「運ぶ!」
アリアも言う。
「私も手伝う」
リディアは静かに言った。
「まずは道具を運ぼう」
こうして――
紅陽に新しい仕事が生まれた。
鍛冶屋。
それはカイと、
亡き師匠の心を継ぐ場所だった。
王都から持ち帰った鍛冶屋の道具。
そしてカイの決意。
紅陽には
宿屋
武器屋
修理屋
鍛冶屋
が揃いました。




