↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
115/289

第115話 炉の残り火

王都へ戻ったカイが向かうのは、

かつての日常だった場所。


鍛冶屋の工房。


炉の熱。

鉄の匂い。

親方の怒鳴り声。


すべてが残っているはずだった場所。


だが今、その扉は閉ざされている。

王都の通りを抜け、三人は目的の建物の前に立っていた。


古びた鍛冶屋の看板。


見慣れた扉。


だが――


扉は固く閉ざされていた。


カイは静かにその扉を見つめる。


ロークが指を差した。


「見ろ」


張り紙が一枚、扉に貼られている。


そこには簡潔な文が書かれていた。


仮押さえ。


「仮押さえした証拠だ」


ロークが言う。


「俺が役人に金を積んでな」


「しばらくは誰も手を出せない」


カイは小さく頷いた。


「ありがとうございます」


ロークは肩をすくめる。


「礼はいい」


「必要なもの持ったら、とっとと帰ろう」


レンも周囲を確認している。


「人目は少ない」


「今のうちだ」


三人は建物の裏へ回った。


裏口の扉は、カイが知っている古い鍵のままだった。


ロークが軽く押す。


軋む音を立てて扉が開いた。


中は静かだった。


炉は冷え、

鉄の匂いも薄れている。


だが工房の様子は、そのままだった。


鍛冶の途中の刃。

研磨待ちの武器。

調整中の防具。


まるで昨日まで作業していたかのように、すべてが残っている。


カイはゆっくり歩いた。


棚の前で立ち止まる。


そこには、見覚えのある道具が並んでいた。


「……」


思わず声が漏れる。


「僕の道具まで、そのまま残ってるなんて……」


置いていったままのハンマー。


研磨具。


測定器具。


ロークが静かに言う。


「オヤジの心だな………」


カイは小さく笑った。


「厳しかったけど、優しかった」


炉の前を見つめる。


「ドヤされることも多かったです」


「でも、上手くいった時はちゃんと褒めてくれた………」


レンは黙って周囲を見ていた。


武器を一本手に取る。


重さを確かめる。


「いい作りだ」


ロークが頷く。


「カイが言ってた通りだな」


カイは棚に並ぶ刃を見つめた。


「僕は……」


静かに言う。


「オヤジさんの作った武器以上の品質を見たことがないです」


「それくらい、妥協なく作ってた」


ロークが腕を組む。


「それは今の武器屋を見ればわかる」


「見た目だけのものが多すぎる」


レンが言う。


「話は後だ」


「早く積もう」


ロークが頷いた。


「そうだな」


カイも動き出す。


「はい」


三人は手分けして荷物をまとめ始めた。


工具。

未完成の武器。

防具の部品。


親方の道具。


カイの道具。


すべてを慎重に荷車へ運んでいく。


しばらくして、ロークが言った。


「これで全部だな」


レンも確認する。


「残ってない」


カイは最後に炉の前へ立った。


冷えた炉。


もう火は入っていない。


カイは静かに頭を下げた。


「オヤジさん」


小さく呟く。


「僕は……」


少しだけ声が震える。


「オヤジさんの残した武器や防具を完成させて、世に出します。」


炉を見つめる。


「そして………オヤジさんの心を、受け継いでいきます!」


工房は静かだった。


だが、その言葉は確かに残った。


ロークが軽く声をかける。


「行こう」


カイは頷いた。


三人は鍛冶屋を後にする。


扉が閉まる。


その工房は、もう二度と同じ姿では開かない。


だが――


その技は、紅陽で生き続ける。

この回は「師との別れ」の回です。

ここで回収した

・工具

・未完成品

・防具素材

が、紅陽の武器産業の始まりになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。