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第108話 「帰還と宣言、そして紅陽」

前書き


王都では、ついにクローディア家の罪が暴かれた。


だが廃村――いや、まだ名のないこの地にいる者たちは、その結末を知らない。


待つしかない時間は、戦いよりも長い。


そして夕暮れ。

馬の蹄の音が、山道から響いてきた。


広場にいたリディアが最初に気づいた。


「……来る」


低く呟く。


レオンが剣に手をかけかけるが、すぐに目を細めた。


「いや、あの乗り方は……」


砂煙の向こうから現れた巨体。


「ダリウスさんだ!」


セラが声を上げる。


馬から降りたダリウスは、真っ直ぐ蒼月亭へ向かった。


扉が開く。


中ではカイが椅子に腰かけていた。顔色はまだ青いが、立てるほどには回復している。


ダリウスは一瞬だけ、その姿を見て息を吐いた。


「……生きてるな」


「なんとか、です」


リディアが静かに問う。


「王都は?」


沈黙。


そしてダリウスは広場へ出るよう顎で示した。


全員が火の周りに集まる。


ダリウスは立ったまま、低く言った。


「クローディア家は失脚だ」


空気が止まる。


「老兵の首と紋章、毒入りの徽章、指示書……全部出した。王は震えてた」


ロークが口を開く。

「当主は?」


「拘束。だが――」


「兄弟は?」


リディアの声は冷たい。


「姿を消した」


沈黙。


レオンが小さく息を吐く。

「逃げたか」


ダリウスは頷いた。


「だがもう王都に居場所はない。取り潰しは時間の問題だ」


ミレーヌが腕を組む。

「終わった、ってわけじゃないね」


「だが一区切りだ」


ダリウスはカイを見た。


「お前は“瀕死の重傷”ってことになってる」


ロークがにやりと笑う。

「嘘じゃないな」


カイは苦笑した。


「それで十分です」


炎が揺れる。


リディアが一歩前に出る。


「……私たちは生き残った」


その声は静かだが、重い。


レオンが拳を握る。

「俺たちもな」


セラが頷く。

「奇跡みたい」


アリアが言う。

「奇跡じゃない。みんなで守った」


ミレーヌが大きく息を吸った。


「よし」


手を叩く。


「じゃあ飲むよ!」


一斉に笑いが起きる。


酒が配られ、肉が焼かれる。


ダリウスが豪快に笑う。

「こういうのは久々だ」


ロークが杯を掲げる。

「生き延びたことに乾杯だ」


全員が立つ。


「乾杯!」


火が高く上がる。


その夜。


蒼月亭は久々の大宴となった。


エルフたちも集まり、ロークも酒を運び、

セラが魔法で灯りを揺らす。


「女将! 今日は特別料理だろ?」


「当たり前だよ! 今日は祝いだ!」


肉が焼け、酒が回り、笑い声が広場に響く。


リディアは静かに酒を口に運ぶ。


「……終わった、か」


ダリウスが隣に腰を下ろす。


「まだ終わらんさ。

 だが一つ、片は付いた」


しばらく沈黙が流れた。


そのとき――


ダリウスが広場をぐるりと見渡した。


「なあ」


「ん?」


「いつまで“廃村”って呼ぶ気だ?」


一瞬、全員が止まる。


レオンがぽかんとする。


「え?」


ダリウスは笑う。


「見てみろ。

 宿があり、武器屋があり、エルフも人間も混ざって酒を飲んでる。

 どこが廃村だ」


ロークがにやりとする。


「交易も始まってるしな」


アリアも頷く。


「もう“村”だよ」


ミレーヌが腕を組んだ。


「……そういえば、名前ないね」


カイが空を見上げる。


夜空には月。


かつての蒼月亭の名を思い出す。


だが今は――


「沈む月じゃなくて……昇る陽がいい」


その言葉に、ミレーヌの目が光る。


「紅陽、ってのはどうだい?」


一瞬の沈黙。


リディアが静かに頷く。


「悪くない。

 昇る色だ」


レオンが立ち上がる。


「いいじゃないか!」


ロークが杯を掲げる。


「交易都市・紅陽。響きは悪くない」


ダリウスが豪快に笑う。


「決まりだな!」


ミレーヌが声を張る。


「今日からここは――紅陽だ!」


歓声が夜に弾ける。


杯がぶつかり合う。


カイは静かに周囲を見渡した。


血も涙もあった。


失ったものも多い。


だが、守ったものもある。


「……紅陽」


小さく呟く。


その声は、確かに未来を向いていた。


クローディア家は取り潰され、王都の一件は一応の決着を迎えました。

しかし、兄弟たちは姿を消し、火種は完全には消えていません。


そしてついに――

“廃村”は終わりを告げ、新たな名を得ました。


紅陽。


蒼月の対極にある、昇る陽の色。


ここから、この村は本当の意味で動き始めます。


次章より、紅陽編へ。

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