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第107話 毒の正体は語られず

王都の空気は、目に見えぬまま重く沈んでいた。

剣は振るわれ、血は流れ、そして今、言葉が刃となる。


クローディア家。

名門と呼ばれた家の命運が、王の前で裁かれる。

王都では、暗殺未遂と私兵襲撃の報告を受け、王城内に緊張が走っていた。

ダリウスは、老兵の首と紋章を証拠として提出する。

そして、決定的だったのは――毒だった。


玉座の間は、異様な静けさに包まれていた。


王と王妃。

左右に控える重臣たち。

そして正面に立つのは――クローディア家当主。


「ダリウスよ。申すことがあると聞いた」


王の声は落ち着いているが、その奥に緊張がある。


ダリウスは片膝をついた。


「は。王都での暗殺未遂、そして辺境の村での襲撃。

 両件に関わる証拠を提出いたします」


空気が張り詰める。


合図とともに布が広げられた。


そこに置かれたのは――

老兵の首。


ざわめきが広がる。


「この男はクローディア家暗殺部隊の指揮官。

 辺境の村で討たれました」


当主は微動だにしない。


「そのような男、我が家は知らぬ」


ダリウスは次に、血の付いた家紋徽章を差し出した。


「では、これは」


金属製の家紋。

誰の目にもクローディア家のものだ。


「紋章など偽造は容易い」


当主は即座に返す。


だが、ダリウスはゆっくりと徽章を裏返した。


裏側には、極小の筒。


それを刃で弾くと、黒い粉がこぼれ落ちた。


「自害用の毒。

 捕縛された場合に備えた仕込みでしょう」


玉座の間が凍る。


重臣の一人が声を震わせる。


「これは……」


ダリウスは続ける。


「王都では流通していない毒。

 辺境襲撃の男も、同じ毒で自害しました」


王の顔色が変わる。


「クローディアよ。説明せよ」


当主は一瞬だけ視線を逸らした。


「我が家の名を貶めるための策でしょう。

 王に忠誠を誓ってきた家が、何故そのような――」


そのとき。


ダリウスの声が低く響く。


「では問う。

 なぜ老兵は“カイ様は生かして連れ帰れ”と叫んだ?」


空気が一変した。


王が眉をひそめる。


「……カイ?」


「クローディア家五男。

 現在、辺境にて修理屋を営む者です」


重臣たちがざわつく。


「五男は家を出たと聞く」


「放逐されたはずでは?」


当主の拳がわずかに震えた。


ダリウスは畳みかける。


「老兵はこうも言いました。

 “クローディア家に楯突くとはこういうことだ”と」


沈黙。


クローディア家長男が一歩前に出る。


「言葉など、戦場では何とでも叫ぶ」


その声は冷静だが、額に汗が滲む。


ダリウスは最後の布を広げた。


半分焼けた指示書。


「これは老兵の懐から出たもの。

 一部焼かれておりますが――」


“辺境の村”“確保”“見せしめ”


読める文字だけで十分だった。


王は玉座を握る。


「……クローディア」


当主は静かに頭を下げる。


「王よ。

 真偽は慎重に調べるべきです」


それは時間稼ぎだった。


誰もが理解している。


だが決定的な一筆がない。


玉座の間は、断罪と確信の狭間にあった。


王はゆっくりと告げる。


「クローディア家は当面の間、全資産凍結。

 当主以下、屋敷からの外出を禁ずる。

 徹底的に調査する」


その瞬間、当主の目が冷たく光った。


「御意に」


だが、その目はもう王を見ていなかった。



その夜


クローディア家の屋敷は静まり返っていた。


使用人は既に消え、

金庫は空。


兄弟四人の姿もない。


当主の書斎には、焼け残りの灰だけが残っていた。


逃げた。


誰もが理解する。


王都は震えた。


王前での対決は、完全な断罪には至らなかった。


だが――

クローディア家は追い詰められ、姿を消した。


物語は、王都を離れ、再び辺境へ戻ります。

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