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第106話 ――命を繋ぐ光――

「飲ませろ!」


ロークの声に、全員が動いた。


ミレーヌがカイの上半身を抱き起こす。

リディアが背を支える。

セラが震える手で小瓶を受け取った。


淡い金色の液体は、部屋の灯りを吸い込むように揺れている。


「一気にいくわ」


セラがゆっくりと口元へ運ぶ。


だが――


カイの唇はほとんど動かない。


「飲んで、カイさん……」


少し流し込む。


喉がかすかに動いた。


もう一度。


今度は確かに嚥下した。


部屋の空気が張り詰める。


次の瞬間――


カイの身体が大きく跳ねた。


「っ!」


眩い光が胸元から溢れ出す。


金色の魔力が、血管のように全身を巡る。


セラが思わず手を引く。


「すごい……魔力が暴れてる」


リディアは離れない。


カイの肩を強く押さえる。


「耐えろ」


低く、命令のように。


光がさらに強まる。


胸の傷口から、淡い蒸気が立ちのぼる。


塞がったはずの傷が、一度開き、

そして――


内側から再構築されるように閉じていく。


ミレーヌが息を呑む。


「……こんな回復、見たことないよ」


ロークも黙って見ている。


やがて光は収束し、

部屋は再び静寂に包まれた。


カイの呼吸は――


深く、安定している。


「……助かった」


セラがその場に座り込む。


リディアはまだ手を離さない。


しばらくして、

カイの瞼がゆっくりと開いた。


焦点が合わない。


天井を見つめたまま、小さく呟く。


「……構造式……違う……」


「何?」


ミレーヌが顔を近づける。


カイの瞳が、ゆっくりと焦点を結ぶ。


「……ああ」


視線がリディアを捉える。


「……守れた?」


リディアの眉がぴくりと動く。


「馬鹿を言うな」


声は震えていない。


「守られたのはお前だ」


カイは微かに笑った。


「そうか……」


そして目を閉じる。


今度は眠りだ。


深く、穏やかな眠り。


セラが確認する。


「もう大丈夫。しばらく休めば完全に戻る」


ミレーヌがその場に座り込む。


「……寿命が縮んだよ」


ロークが腕を組む。


「だが、生きた」


リディアはゆっくり立ち上がる。


手を見つめる。


――温かい。


まだ、温かい。


胸の奥にあった冷たい影が、少しだけ薄れる。


だが、完全には消えない。


守れなかった過去は消えない。


けれど――


今回は、守れた。


小さく息を吐く。


「……次は、私が前に出る」


誰にも聞こえないほど小さく。


夜が明け始める。


窓の外が、薄く赤く染まる。


蒼月亭は、また一つ生き延びた。


だが。


カイはまだ知らない。


この瀬戸際が、

彼自身の“記憶”をさらに鮮明にする引き金になったことを。


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