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84話:不和を生む竜の財

 翌朝、俺達はこの町の冒険者協会へ足を運んだ。協会の場所は知らなかったが、「フリントクラップ」には他にも冒険者が泊っていたようだったので、その後ろを遠くから着いて行かせてもらった。

 少し卑怯なことをしている気分になったが、昨日のドワーフの話を聞いた限り安易に町の住人に聞くのは危険だと考えての事だった。

 事実、前を歩く冒険者達に向けられる視線は、昨日とは大きく異なり剣吞な雰囲気となっていた。

 今朝は彼らの通勤時間ともろに被っているのか通りにはガタイの良い男達が多く歩いており、そのほぼ全員が敵対的な視線を向けていた。昨夕通った時は穏やかな雰囲気だったのだが、あの時はまだ鉱山労働者が山から帰って来てなかったからこそのものだったのだろうな。

 冒険者協会に着いた頃には、フィリアもリアナも気疲れしていた。


「ふう……やっと着いたわね」

「怖かったねー……昨日はもうちょっと穏やかだったんだけど」


 俺達にとって幸いだったのは、視線はほとんど前を歩いていた武装した冒険者達に向けられており、離れて歩いていた俺達にはあまり視線が向いていなかったことだ。ゼロではなかったが、華奢な少女が二人いたことや前の冒険者と比べて軽装であったことが相まって、前を歩く冒険者達と比べて敵意は格段に抑えられており、最終的には彼ら俺達に向ける敵意は不審感程度にまで下げられていたと思う。


「どうやら、昨日のドワーフが言っていたことは本当のようだな。どこもかしこもピリピリしてやがる」


 彼等の気持ちを考えればあのような目をしてしまうのはわからないでもないが、それを向けられる俺達冒険者はたまったものではないな。この土地の産業を支える労働者達があんな態度では、冒険者達も仕事がやり辛いことだろう。


「ん? あんな所に冒険者が集まってるな」


 そんな冒険者達だが、冒険者協会に居る者の多くは依頼書が貼ってある掲示板ではなく、その隣にある協会からの報せなどを貼る連絡用の掲示板に集まっているようだった。何か重要な報せでも書かれているのかと思ったが、そこにいる冒険者は少し見ただけですぐに離れ、受付にもいかず外へ出るかテーブルに地図を広げて仲間と何かを話し始めたりしている。

 どうにも普通の動きではないと考えた俺達は、その人だかりに近付き掲示板の内容を見る。


「これは……坑道の地図か?」

「そうみたいね。他にも魔物の情報が書かれてるみたい。なになに……叫喚蝙蝠(スクリバット)鑿牙鼠(ピッケラット)小悪鬼(ゴブリン)なんかも出てるみたい」


 最新調査記録と銘打たれたその内容は、どう見ても新しく発見されたという空洞に関する情報だった。中央には先に調査に入ったパーティーが作成した物を、協会が拡大して写したと思わしき大きな地図が貼られていた。その図面の上には丸やら線が引かれており、その地点で発見された魔物などの補足情報が書かれていた。

 これによると、この空洞の発見は一か月前とのことで、リアナが挙げた魔物以外にも魔物は見つかっているようだ。しかしどうやら、一か月経った今も空洞内部の広さは測り切れていないようで、地図の端は不自然な切れ方をしていた。


「こうして見ると、空洞内部は随分入り組んでいるみたい。細い通路が交差したりして、まるで迷路だわ」

「細いのは魔物が掘り進めたか地下水によって作られたものだろう。本物の火竜の巣だったらこんな複雑な造りにはならん」


 伝説では完全に崩れたとか言っていたが、考えれば元は竜が出入りするための通路だったんだ。少し暴れた程度で崩れるような強度ではなかったはずだし、その空間も相当に大きかったはずだ。

 おそらく崩れず残った空間があったか崩れた瓦礫同士に間ができて、そこから魔物が発生したんじゃなかろうか。その魔物が未発見なのを良いことに、百何年という長い年月をかけて世代を交代を繰り返して、徐々に掘り進めて空間を広げていった、といった感じか。


「なるほどねー。だから一か月経って今でも調査が続いているんだ。こんだけ広ければ時間も人手もかかるかー。コレは中々苦労しそうだね」

「見方によっては新参の俺達にも見つけられる可能性が高いってことだな。この空洞に入るためには関連した調査依頼を受ける必要があるようだ。さて、こいつの依頼書は……」


 少し探すと掲示板の下に小さなテーブルが据えられており、その上に依頼書が束になって置かれていた。

 枚数もさることながら、依頼書なのに掲示板に貼られていないのは形式としてそれはどうなのかと思うが、それだけ受けたがる冒険者が多いということなのだろう。貼ってすぐに取られて問い合わせがくるくらいならいっそ、ああやって置いておく方が効率的ということか。あれだけの量を書くのは大変だっただろう。


「あそこか」

「うわー、よりにもよって人混みの前かー。アタシが取ってくるわ」


 そう言うとリアナは人混みをかき分けて最前列へと向かっていく。


「……ん?」


 リアナが向かって行ったその時、集団の前列に居た男がリアナの方を見たかと思うと、不意に依頼書の方へと歩き出した。


「ふう、やっと抜けた。さて依頼書は――あれ?」


 人混みに揉まれたことで少し髪が乱れたリアナが、依頼書を取ろうと手を伸ばしたが、不思議そうな声を出してその手を止める。それもそのはずで、それよりも先に依頼書に手を乗せる男が居たからだ。

 男は依頼書を取るわけでもなく、ただ手を置いたままリアナを見ていた。その雰囲気は……とても友好的とは言えなかった。


「……ちょっと。取らないならそこ退いてくれない?」


 男の異様な雰囲気に気付いたリアナが少し警戒したように言うと、それを受けた男は依頼書の束を抑えたまま飄々とした態度で言った。


「悪いな嬢ちゃん、この依頼はもう定員オーバーになってんだ。仕事なら別の物を探しな」


 明らかに嘘とわかるその言葉に、リアナは不快そうに眉を顰め口調も攻撃的なものへと変わった。


「はあ? じゃあ、何で依頼書がまだそこに有るのよ? 掲示板にはそんなこと一文字だって書いてないし、そもそもこの依頼に定員とかあるの?」

「依頼書がここに有んのは協会の連中が回収をサボってるだけだ。掲示板に定員について書かれてないのは、アレだ、仕事に必要なことしか書かれてないからだな」

「その言い分で本気で信じるヤツが居ると思ってんの? ……まあいいや。その依頼書持って受付に聞けばいいだけだし。ホントにそうだったとしてもアタシが少し恥をかくだけだし」


 リアナがそう言うと男は途端に動揺し始める。


「い、いやそれは……」

「なに? なんか文句あんの?」

「う、受付の奴に聞いたって同じことが帰ってくるだけだっての! 職員だって忙しいだろうし、そんなくだらないことで時間取らせると迷惑だろうが!」


 まさか受付に確認されるとは考えていなかったのか、男はまったくおかしな理屈を言い出した。その様子にはリアナも呆れかえったのか、強めの溜息を吐いた。


「呆れた。人の邪魔をするなら、せめてもうちょっとマシなウソを考えてからにしたら? いいから早くその依頼書寄こしなさい」

「だ、だから、定員オーバーだって言ってんだろ! どうせお前も噂目当てで来た奴だろ⁉ もうこの依頼を受けてる奴は大勢いるんだ! 低ランクの雑魚は町中の雑用でもやってろ!」

「はあ――誰が雑魚ですって⁉ あんたランクいくつよ、こっちはCランクなんだけど!」

「え、Cランク⁉」

「そうよ! それで、アンタのランクは?」

「ぐっ……」


 リアナのランクを聞いた男はあからさまに焦り始めた。誰の目から見てもCランクよりも低いとわかる。

 当然それはリアナも気付いているが、その上で彼女は威圧するように足を一歩一歩踏み鳴らしながら問い詰める。


「ラ・ン・ク・は?」

「………………D」


 先程の態度はどこへやら、男は小さくなった声で答えた。


「はんっ――よくもまあそんなデカい口を叩けたものね? しかも言うに事欠いて雑魚だなんて」


 居心地悪そうにたじろぐ男を、リアナはせせら笑いながら(なじ)る。

 彼女は両腕を組みながら見下すように顎を上げる――が、小柄なリアナでは見下すには身長が足りず、逆に男を見上げるような形になってしまっている。

 なかなかの凄みっぷりだが、その身長差のせいで微妙に滑稽だ。


「おい、もう止めろ。そんな妨害したところで人が減るわけがないだろ?」

「……ちっ」


 そんな様子が見てられなくなったのか、傍観していた別の冒険者が間に入った。他の者にも窘められてしまった男は、忌々し気に舌打ちをするとようやく依頼書から手を離し、逃げるようにその場を離れた。

 残ったリアナが依頼書を手に取り確認すると、彼女はつまらなそうに鼻を鳴らした。


「……ふん。やっぱり定員の事なんて書かれないじゃない。助けてくれてありがとね」

「気にするな。それより君、ここいらでは見ない顔だけど――やっぱり噂を聞きつけて最近来た冒険者か?」

「うん、昨日来たばかりなの。噂って言うと、坑道で見つかったっていう空洞の事? 古い竜の巣だっていう」

「そうそれ。伝説の竜の財宝が見つかるかもってことで、ここ最近他所から冒険者が来ることが多くてさ。さっきの奴も最近この町に来た新顔なんだけど、あの男に限らず最近ああやって依頼を受けさせないように妨害する人が増えてきてね……」

「どこにでもいるわよねー、ああいうヤツ。あんなセコイことして恥ずかしくないのかしら?」

「俺もそう思うけど、気持ちはわからないでもないかな。とにかく、ああいう奴もいるから君もその依頼を受けるなら気を付けて……って、Cランクならその心配はないか。俺よりもずっと若く見えるのに凄いな。見かけによらず長い事冒険者やってるんだね?」

「まあねー。とにかくありがと。またどこかで会ったらその時はよろしくねー」


 冒険者に別れを告げるとリアナは、先の険悪なやり取りが無かったかのような軽い足取りで俺達の下へ戻って来た。


「お待たせ―、はいコレ依頼書」

「だ、大丈夫だったリアナ?」


 あまりにも軽い調子で帰ってきたものだから、さっきまでハラハラしながら見守っていたフィリアは少し戸惑いながらも確認する。


「へーきへーき。あんなの冒険者にとって日常茶飯事よ。拳が出るまでは喧嘩にもならないわ」

「呆れた日常だな……冒険者に品性は求めてちゃいなかったが、あんなみみっちいことする奴もいるんだな?」

「高額の依頼が貼り出されたりすると、そういうことは結構あるよ。あんまりやり過ぎると協会から注意されるけどね。さっきのヤツがやっていた手法なんかは、ランクの高い冒険者が低い冒険者を追っ払うのによくやってる。ま、今回は相手が悪かったわね」

「まあ、リアナの外見がCランクには見えないのはわかる」


 カイルやゴルドといった他のCランク冒険者を見ても、そのほとんどは二十代後半が多い。助けに入った冒険者の反応からもわかるが、十代でCランクになったリアナはやはり例外的な存在なんだろう。


「って言うか、アタシが絡まれているときアンタ全然助けようとしなかったわね。一応アタシ、パーティーリーダーなんだけど?」

「助ける必要はないと思ってな」

「わ、私はすぐに助けようとしたのよ? でもアゼルが任せておけって……」


 あの男が暴力に訴え始めたら流石に俺も動いただろうが、口論の場ではFランクの俺達が出しゃばったところであの手の輩が引くとは思えなかった。実際、リアナがCランクと知ってからはあからさまに及び腰になっていたしな。


「冒険者同士の付き合い方に関してはお前は慣れてるだろうし、素人の俺達がしゃしゃり出ても変に拗れそうだし、それなら全部任せた方が丸く収まるだろうと思ってな。現にこうして何事もなく帰って来ただろ?」

「助ける気概を見せろって言ってんの。こんなに小さくてか弱い乙女が、野蛮な男に絡まれてるって言うのに」


 わざとらしく口元を抑えて「よよよよ……」と噓泣きをしてしおらしさを演出するリアナに、俺はせせら笑いを返す。


「はん、Cランク様が何か言ってら。小さくてか弱いだけなら小悪鬼(ゴブリン)にも当てはまるわ」

「アタシを小悪鬼(ゴブリン)と一緒にしないでくれる⁉」


 俺のあんまりな言葉にリアナが抗議の声を上げたが、それを軽くあしらい依頼書を確認する。


「さて、妨害が入るほど人気な依頼だが……報酬額自体は特段高いわけでも無いな」


 対象ランクE以上。メインの仕事内容は空洞内部の生態調査と魔物の間引き。討伐した魔物から魔石やその他素材を提出することで報酬が決まる。

 よくある討伐依頼と変わらないが、空洞内部の地図作成も求められることからこの依頼のジャンルは探索者(シーカー)研究者(スコラー)向けの「調査依頼」となっている。

 なにぶんどんな生き物が潜んでいるかもわからない未知の空間だ。ただ指定された魔物を倒せばいい討伐者(ハンター)よりも、慎重な調査能力を持った探検が専門の探索者(シーカー)が相応しいと協会は判断したのだろう。

 自然に出来た空洞ならちょっとしたことで崩落する可能性も考えられるし、今後鉱山労働が入ることも考えると、これは正確な内部の調査能力が重要になる。


「具体的な報酬額は、持ち帰った魔物の素材を冒険者協会が査定してその結果によって変動。地図の作成や住んでいる魔物を調査資料を提出する事でも報酬が支払われるようだな。こうして見ると取り合いになるほどの依頼ではないが……重要なのはここの文か?」


 空洞内部にある魔物由来の資源を除く、一切の資源の取得は禁ずる。発見した場合は、速やかに口座陰労働組合か冒険者協会に提出する事。窃盗が発覚した場合、その対象は厳重に罰する。ただし、第一発見者には依頼主と交渉の結果、報酬として一部受け渡す場合もある。


「調査で見つけた物は、魔物の素材以外は持ち出すなってことだが……これって、噂の魔剣や竜の財宝なんかも含まれるってことだよな? 勿論、在ればの話だが」

「そういうことになるね。依頼主との交渉次第だけど」

「依頼主はドランデル伯爵……この土地の領主と鉱山労働組合ってなっているが、そこは置いておくとして……これ結局は財宝を見つけても冒険者の懐には入らないってことじゃないか」

「そうなるわね」

「意味ねーじゃねえか」


 結局取られるなら血眼になって鉱山に潜る利点はない。


「いやいや、考えてみてよ。アゼルの目の前に山のように積み上がったお宝があるとしてさ、アンタそれを見て馬鹿正直に「お宝見つけましたー、契約に則ってお渡ししますー」ってなる?」

「…………なるんじゃねえの?」

「いやいやいやいや! ならないわよ⁉ そんなお宝の山を見たら普通にくすねるでしょう⁉ 全部とはいかないまでもさ、こう、ポケットに詰め込むとかどっかに隠すとかさ」

「気持ちはわからんでもないが、それでバレて重罰食らったら元も子もないだろ?」


 依頼書に書かれていないことを要求されたら抗議の一つもするが、明文されている以上それは明確な契約違反だ。そも依頼主は貴族だ。金目の物をくすねようものなら、今後の冒険者稼業も馬鹿にならない影響が及びそうだ。宝石が高価とは言えたかが石ころ。そんなものに人生をかける程俺は貧窮していない。


「す、素直すぎる……というか無欲すぎる。何アンタ、聖職者かなんか? 似合わないからやめな?」

「冥福祈ってやろうかこの野郎」

「……オッケー、じゃあ品を替えるね。空洞で見つけた物が伝説の魔剣で、それが例の遺物だったとしたら? アンタ、素直に渡せる?」

「む……」


 そうなると話は変わる。俺の旅の目的であり、それを破壊することが俺の使命だ。魔術紋様を破壊して無力化した後ならともかく、そのまま他者に渡すなんてもっての外だ。


「つまりそういうこと。交渉次第で一部は貰えるってことになってるけど、逆を言えば交渉次第では一つも貰えないって考えることもできる。ならより確実に財宝を得るなら、見つけたとしても誰にも報告せず上手く隠すこと。この依頼に冒険者が殺到しているのはそれが理由よ。誰よりも早く竜の財宝を発見してそれを誰にも見つからないところに隠して後から回収する……もの凄く上手く隠す方法があるなら一部どころか、全部を懐に入れることができる」

「なるほど……つまりリアナは、あいつ等が何をやってきてもおかしくはない。そう言いたいわけだな?」

「そういうこと。付け加えると、アタシ達も早く動かないと目当ての物が取られるかも」

「こうしちゃいられないな。とっとと手続き済ませて俺達も例の坑道へ向かうぞ」

「りょーかい……って、何でアゼルが仕切ってるのよ。一応このパーティーのリーダーはアタシなんだけど」

「そういえばそうだったな」

「あはは。ほら、急ぐんでしょ。早く受付に行きましょ」


 そんな軽口を叩きながら俺達は受付で手続きを済ませる。その際改めて、依頼の内容や注意点の説明をされた。やはり冒険者協会の方でも、この町の伝説で語られている火竜と今回の空洞を関連付けて考えているのか、調査中に見つけた物は許可なく持ち出さずきちんと報告するように入念に言い含められた。

 また俺とフィリアがFランクということで少し眉を顰められたが、Eランクの依頼を受けること自体は冒険者協会の規則的には問題なく、またリーダーのリアナがCランクということもあって問題なく手続きを終えることができた。

 そんなちょっとしたアクシデントに揉まれつつ、俺達は急ぎ鉱山へと向かうのであった。

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