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30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第14章

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第796話 回復



<トゥオヴィ視点>




 石牢からの解放、エリシティア様との再会、そして行軍。

 この望外の出来事の連続はもちろんこの上なくありがたいことだった。

 ただ、この短期間での生活の激変に長い虜囚生活で衰えた肉体の順応は叶わず、いまだかなりの疲労感とともに一日を過ごすことになっている。


 特にリヒャルド将軍の回復が遅い。


「トゥオヴィの方こそ私の世話までさせて……苦労をかけるな」


「いえ、私はリヒャルド将軍の補佐ですし、今は特別な状況でもありますので」


 諸々を受け持つのは当然。

 とはいえ、通常の行軍なら必要のない雑務をこなすのは大変ではある。


「私がいなければ、エリシティア様のすぐ傍に仕えることができたろうに……」


「どうか、そのようなお考えはなさらないでください」


「だが」


「あの苦難をともに乗り越えたリヒャルド様の下で働けるのは私の喜びなのですよ」


 もちろんエリシティア様直属の部隊に入りたいとも思っているが、それでもこの気持ち自体は偽りじゃない。


「トゥオヴィには、もう頭が上がらないな」


「そのようなことは」


「ふふ、本当にありがたいと思っておるのだ」


「リヒャルド様……」


 こちらこそ、ありがたい。

 心からそう思う。

 ただ実際のところ、苦労しているのも辛いのもリヒャルド様であって私ではないのだ。


 心身の疲労に加え自身の置かれた立場に対する悩みも少なくないリヒャルド様。   

 それゆえ、気になってしまう。

 つい。


「その、よかったのですか?」


 詮なきことが口をついてしまう。


「無論」


「……」


「これまでの言動から多少誤解されることもあるが、多くの者は私をアイスタージウス様寄りの中立と考えていると思う」


「……はい」


「王子があのような暴挙に出る前は確かにそれに近い立場だった」


 父王弑逆さえなければ、と。


「ただ、今は違う。義を捨てた者に従うつもりはない」


「では」


「先の恩や状況がなくとも私はエリシティア様に与していた」


「……」


「おそらくかなりの数の貴族が私と同じ思いのはず。まあ、今の我が軍の増強ぶりを見れば明らかなことだな」


 まさに、その通り。

 行軍を開始して以降、想定数をはるかに超えた者たちがエリシティア様のもとに集っている。正直、現在は異常とも見える状態だ。


「少々集まりすぎのきらいもあるが、これもエリシティア様の人徳によるものなんだろう」


 エリシティア様のお力。

 その人徳ゆえ。


「……」


 そう考えればあり得なくもない、か。


「ということだ。トゥオヴィが心配する必要は微塵もない。分かってくれたかな?」


「はい」


「では、今後心配は無用でお願いする」


「……承知しました」


 と答えたものの、やはり微妙な違和感が残ってしまう。

 自分でも何がどうとは言い切れないもどかしい違和感が。





*******************************


<ヴァーンベック視点>




「視える、視えるわ!」


「本当か! シア?」


「ええ、視えるの。あなたが! 大好きなあなたの顔が!!」


「っ!」


「もちろんまだ完全じゃないけど、遠くは霞んでいるけど、それでも視えるのよ!」


「そうか、そうかぁ」


 はっきり言って神官の力など侮っていた。

 高位の治癒魔法や魔法薬を上回る効果など期待薄だと思っていた。

 けど、この結果は。


「……」


 テポレン山で苦労の末どうにか手に入れた希少な素材。

 その薬効に大いに期待したのだが、残念ながら多少改善の兆しはあったものの視力の回復までは至らなかった。


 これまで試してきた多数同様、今回も失望だけが残ってしまった。

 なのに、あの神官の技がこんな奇跡を。


「もう大丈夫。わたしは大丈夫よ。これからはヴァーンのことだって助けられるわ!」


「いや、いや、まだ完全じゃないんだからな」


「でも、平気」


「だから、平気なわけねえだろ」


「ううん、前に比べたらもう」


 それはそうだろうが。


「セレス様の力にもなれるはずよ」


「なっ、シア! まさか、戻りたいのか?」


「……」


 その沈黙、やっぱり。


「今すぐってわけじゃないけど」


「シアがセレスさんのことを大切に思っているのは重々理解している。けどよ、あの人の傍は……」


 そう長くはない期間の中で色々とあり過ぎた。

 シアにとっても俺にとってもだ。

 そんな場所に万全じゃないシアを連れて行きたくなんてない。 


「でも、すべては事故みたいなものだから、運が悪かっただけだから」


 それは違うぞ。

 すべてちゃんとした原因がある。

 失敗だっていくつもあった。

 あいつも俺も……。


「許せないの?」


「……」


「ヴァーン?」


 許せないのか?

 俺はコーキを?

 俺自身を?


「ごめん、なさい」


「シア?」


 どうして、おまえが謝る?


「私が視力を失っていたから」


「そうじゃねえ」


 そうじゃねえんだ。


「でも、私が視えていたら」


「シアのせいじゃねえ!」


「ヴァーン」


「シアに責任なんてあるわけねえんだよ」


 山に連れて行ったのは俺なんだ。

 準備を整えたのも。

 用心が足りなかったのも力不足も全部。

 だから。


「コーキのせい……でもねえ」


 なのに、いまだに俺は。


「ヴァーンのせいでもないわ」


「……」


「だからね、許して」






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