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30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第14章

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第797話 方針



<ヴァーンベック視点>




 許す?

 誰を?

 まさか、シアのことじゃねえよな?


「許して、お願いよ、ヴァーン。」


「……誰を、何をだ?」


「みんなよ」


「みんな?」


「あの時、テポレン山にいたみんな」


「……」


「何よりコーキ先生とヴァーン、あなた自身を許してあげて」


 コーキと俺を許す。

 俺が?


「無理だ、それはできねえ」


「どうして? 先生とヴァーンの責任じゃないのに?」


「……」


「あれは不幸な事故なのよ。みんなそう思ってる」


 誰がどう思おうと関係ない。


「ギリオンさんだってきっとそう。先生とヴァーンを責めることなんてしないわ」


「俺もコーキは責めちゃいねえ」


 あの後しばらくは動転してたから、つまんねえ八つ当たりしちまったが、今は違う。コーキはやれることをやってくれた。十分に理解してる。


「だったら」


「ああ。許せねえのは自分だけだ」


「ヴァーン……」


「大丈夫だって、今回も上手くやれるって、俺はな思い上がってたんだよ」


 大した力もねえのに。

 たまたまこれまで上手くいっただけなのに。


「そういうことなら、わたしも同じ」


「おまえはちが」


「いいえ、同じよ!」


「シア?」


「だって、テポレン山への同行を無理やりお願いしたのはわたしだもの。あの場で無謀に動いたのもわたし」


 それは。


「目も視えないのに、ほんと馬鹿だったと今は後悔してる」


「……」


「でもね、やっぱりあれは事故なんだと思う」


「……」


「コーキ先生もヴァーンも精一杯のことやってくれたんだから、仕方ないことだったんだと思う」


「……」


「だからさ、時間が経った今もこうして落ち込んでいるのは違うよ。うん、きっと違う」


「……落ち込んじゃいねえ」


「そう?」


「ああ」


「だったら平気よね?」


「何が?」


「わたしと一緒にセレス様のもとに行っても平気でしょ?」


「……ああ」


「ほんとに?」


「嘘じゃねえ」


「それならいいんだけど」


「……」


「あっ、でも、できるだけ早く自分を許してね」


 ちっ。

 シアには敵わねえな。





*******************************





「頭痛の方はもう大丈夫なのですか?」


「はい、問題ありません。ササリーシャ様の方こそ腕の痛みは?」


「イヴ様のおかげで痛みはまったくないんです。ほんと、腕を斬られたなんて思えないくらいなんですよ」


 と言って微笑みを浮かべるササリーシャ嬢。

 とても痛みを感じているようには見えない。


「だから、気になさらないでくださいね」


「そういうことでしたら、はい」


 イヴの術が素晴らしいのは分かっていたことだが、斬られた腕の治療もここまで見事にこなすとはな。


「それで、奪われた領紋のことですが?」


「イヴ様の推測によれば、今すぐ使用されることはないと」


「白都で使用法を解析してから、ということですよね?」


「……はい」



 切断されたササリーシャ嬢の腕。

 あの腕にはオルドウ統治の要となる領紋が隠されているらしい。

 詳しくは聞いていないが、キュベリッツ開国前の旧時代から存在する領宝で、世に出ている宝具をはるかに凌ぐ超越の秘宝とのこと。


「ただ、白都にはお父様がいるので……」


 オルドウ統治の要となるらしいこの領紋に加え、捕らわれている伯爵も大きな問題だ。ただ、白都から遠く離れたこの宿ではどうしようもない。それを充分に理解しているからだろう。


「ところで、イヴ様はいつ帰ってくるんでしょう?」


 ササリーシャ嬢が話を変えてきた。


「もうすぐだと思います」


「もうすぐ……」


「半刻もかからないとのことでしたので」


「……」


「心配ですか?」


 その様子を見れば当然のことを、思わず問いかけてしまう。


「……」


 無言のままに目を伏せるササリーシャ嬢。

 表情に影が差している。

 話題を変えても、結局はこう。

 状況が状況だけに気持ちが楽にならないのは仕方ないこととはいえ。


「イヴ様なら大丈夫です」


 要らぬ心労は無くしてやりたい。


「ですが、またおひとりで」


「確かにひとりで出られましたが、危険はないと口にしてましたし」


 すべきことがあるからと宿の外に出掛けたイヴ。

 これまでの行動を鑑み、彼女がすべてを独力で処理しようとしているとササリーシャ嬢が考えるのは当然。危険を冒す可能性を危惧するのも、また当然。


 実際イヴにはその力があるし、またササリーシャ嬢への思いもある。


「そう、ですよね」


 ただし、彼女には謎の制約が存在する。その制約の中でどこまで自由に動けるか分からない。それに、相手は赤鬼だけじゃない。後ろにはキュベリッツ王国が控えているんだ。今日明日で解決できる問題じゃない。軽々に事を進めることはないだろう。


「ササリーシャ様、心配する必要はありませんよ」


 イヴ自身の言葉通り、今回はすぐ戻って来るはず。

 が、明日以降は読めない。

 いったいどういう腹づもりなのか?

 

「……はい、心配なんて無用ですよね」


「ええ」


 相槌を打つ俺に頷き、窓際に歩を進めるササリーシャ嬢。


「……」


 イヴの姿を探しているのか、視線は窓の外に向けられている。

 約束の半刻まではあと10分程度。

 イヴが戻るまでずっと外を眺めているつもりかもしれないな。


 さて、問題山積、非常事態の連続ではあるが、こっちはこっちで色々と考えなくちゃならない。まずは、この後どう動くか?


「……」


 現時点で決まっているのはフォルディさんとのナガアラン駅舎での待ち合わせ。

 ただし、時間には多少の余裕がある。

 なら、それまではイヴの指示に従ってササリーシャ嬢のために動くか?

 それとも、この宿で別れるべきか?





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