第795話 暗躍 2
<ジンク視点>
「数倍? 今の黒都には雑魚しか残ってないのに? はっ、笑わせんなよ」
「黒都も白都も質は変わんねえだろうが」
「馬鹿言うな、こっちには剣姫や赤鬼がいるんだぞ」
「確かに剣姫と赤鬼は厄介だが、ジンクはその2人と直接対峙する必要はねえよな」
「直接じゃなくとも大変なことに変わりねえ」
「はっ、よく言うぜ!」
「何!」
オレたちの声につられ、ろうそくの炎が大きく震える。
狭い洞窟の中では声が岩壁に反響して必要以上に大きく聞こえちまうんだ。
「2人ともそれくらいにしておけ」
「「メルビン!」」
「……」
メルビンは相変わらず表情を変えず、ろうそくの向こう側からこちらを見ている。 炎による濃い陰影が不気味なことこの上ない。
「全てはボスの差配通り。任務も個々の適性、力量に合わせてる。そこに文句でもあるのか?」
「「……」」
「任務の質、量に多少の差はあろうと、重要性に違いはない。それくらいはおまえたちだって分っているはず。だな?」
「それは、まあ」
もちろん、そんなことはオレたちも分かってる。
ただ、今回はイリアルが難癖をつけてきたからであって。
「そもそもだ、今回動いてるのは私たちだけではない。場合によっては、他の者が成果で抜きんでることも」
「いや、さすがにねえわ。なあ、ジンク」
「ああ」
こればかりはイリアルのやろうに賛成だ。
「そうとも限らんぞ」
「こっちは計画の中核を担ってんだぜ。仕事内容が違い過ぎんだろ」
「……」
メルビン、どうして沈黙する?
バチッ!
ろうそくの芯が小さく爆ぜた。
とともに光が明滅する。
洞窟の外から風が入り込んだのか?
とにかく、絶妙に嫌なタイミングだ。
「まさか、違うと?」
「おい、メルビン?」
「……分からん」
「分からんって、どういうこった? 総仕切りはおまえじゃねえのかよ?」
「私の上にはボスがいる」
「つまり、あれか? 詳細を理解してんのはボスだけってか?」
「そういうことだ」
「……」
オレたち3人はボスの駒。
そんなことはよーく分かってる。
けどなぁ、今回はこれまでにない大仕事なんだぜ。
仕切りのおまえがそんな状態で上手くいくのかよ。
「もちろん、ある程度は私も把握してるがな」
「それで上手くやれんのか? メルビン?」
イリアルも俺と同じ考えのようだ。
「問題ない」
「ほんとだな」
「ああ、大丈夫だ」
「……」
「……」
「……」
今日何度目かの沈黙。
ポト。
ポト、ポト。
水滴が落ちる音が響いてくる。
はあぁ。
嫌になるほど辛気臭い。
「しょうがねえ、メルビンを信じてやるよ。で、さっきの話だが、おまえの把握している範囲内に結構な働きをしてるやつがいるってことか?」
「可能性は、ある」
「可能性だけかよ」
いいや、メルビンが可能性ありと答えた時点で確定も同然。
ただ、疑問なのは。
「国境仕事に白都、オルドウはオレが受け持って、黒都からワディナートまでの各都市はイリアル。エンノア関係と総仕切りはメルビン。こんだけやってんのに、これ以上の仕事があんのか?」
「だから、不明だと答えている」
「「……」」
イリアルと思わず見合わせた顔が薄い。
ろうそくの光がかなり小さくなっているようだ。
「とまれ、今のところ概ねは想定通り、順調であることに違いはない。おまえたち2人は、このまま全てが黒都に集結するよう力を尽くしてくれ」
「言われるまでもねえ」
「……了解」
当然、仕事関係で手を抜くことなんてない。
「では、今日はここまでとしよう」
おっ!
やっと終わりか。
が、その前に。
「メルビン、ちょっと待ってくれ」
「何だ?」
「その、兄さんもだよな?」
「冒険者コーキは最重要のピース。当然、欠けることは許されない」
「黒都で……やるのか?」
「分からん」
「そこはボスに聞いてないのかよ?」
「ああ」
「少しも?」
「そうだ」
「……」
あの兄さんとは単なる任務、仕事上の関係。
それだけだと理解はしているものの、どういうわけか気になる。
認めたくないが、若干情が移ってしまったのかもしれない。
「ただ……ボスもまだ決めてないように見えるな」
「そうなのか?」
「うむ。おそらくは、この先の状況次第」
ってことは。
「黒都での最終局面次第なんだろう」
命が助かることも。
よーし、悪くないぞ。
「メルビン、こっちも1つ。トゥオヴィはどうなってる?」
「前回話したように、石牢を出た後はエリシティア軍に加わり今は黒都に向け行軍中だ」
「そこじゃねえ、無事かどうか聞いてんだ」
「行軍できる者が無事でないと?」
「……」
いつもの自信満々な表情とは違い、イリアルがわずかに視線をそらした。ろうそくの光がその動揺を映しているが、本人は気づいていないようだ。
「イリアルよ、過剰な肩入れはよしたほうがいいぞ」
「ちっ、一応確認しただけだっての」
吐き捨てるように言いながら、そっぽを向くイリアル。
「……」
メルビンはそれ以上の追及をせず、卓上のろうそくに目を向ける。
はかなく頼りなく揺れる炎の中。
メルビンとイリアルの腰が上がった。
密談終了だ。
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<トゥオヴィ視点>
「リヒャルド様」
テポレン山を発って数日。
今夜もまた街道近くの水辺で野宿予定なのだが……。
「体調はいかがです?」
「ああ、もう問題はない。心配をかけて済まぬな、トゥオヴィ」
「いえ……」





