第793話 夢幻?
「っ!」
「コーキ!」
剣姫の声が頭の奥に突き刺さる。
痛みが増していく。
「うぅ」
視界がかすんできた。
手足からも力が抜けて……。
「コーキ様!!」
「コーキ!!」
まずい。
治癒魔法も効かない。
こんな大変な時に!
「っ」
意識がもう……。
シュッ!
ザシュッ!
朦朧とする頭に飛び込んできたのは剣撃音。
ザッ!
ザシュッ!
ザシュッ!
イヴの風刃を斬った?
剣姫が?
「ササリーシャ様、こちらへ」
「はい」
「バアさんよぉ、オレに背向けんじゃねえぞ」
「……」
イヴ、赤鬼、剣姫。
意識を手放す直前に視界に入ってきたのは3人の対峙する姿だった。
……。
……。
……。
「「「「「「「「ワアァァァ」」」」」」」」
歓声が聞こえる。
「「「「「「「「いいぞぉ!」」」」」」」」
ここは……オルドウの大広場?
多くの人が集まっている。
その中央には?
何だ?
表彰台か?
「「「「「「「「よくやったぁ!」」」」」」」」
そこに向かってる?
俺が?
「おい、早く歩け」
話しかけてきたのは右隣の少年。
やんちゃそうな表情と輝くような金髪が特徴的な男の子だ。
「コーキ?」
これは左の女の子。
赤髪の……リーナ?
男の子はオズなのか?
ってことは、あの魔球合戦?
表彰式?
「どうしたの?」
「えっ……」
「表彰されんのが恥ずかしいんだろ」
「そうじゃないけど」
2人に促され壇上へと足を進める俺。
「……」
10歳の時、初めての異世界で経験した魔球合戦。
その戦いでぼくたちは勝ち進み、そして優勝した。
だから、表彰されるのはおかしいことじゃない。
けど、あの時は3人で逃げたはず?
なのに、どうして?
「優勝おめでとう」
壇上で主催者らしき人が握手とともに話しかけてくる。
「見事な戦いぶりだったよ。特に最後は素晴らしかった」
「「「ありがとうございます」」」
言葉を返すリーナ、オズとぼく。
「さあ、まずはこれを」
そう言って首にかけられたのは優勝メダル。
そうだ。
この世界でも記念品はメダルだった。
って、どうして俺がそんなことを知ってる?
表彰式には出てないし、メダルももらってないのに?
いや、でも、ぼくはあの時メダルを……。
もらった??
「……」
違う。
そんなわけない。
ただ、このメダルの色にも形にも覚えがある。
手に感じる感触も……。
けど、だけど。
ぼくは?
ボクは??
おれは???
「本当におめでとう」
っ!?
メダルを首にかけたぼくたちに見せる笑顔。
この笑顔、やっぱりこの主催者も知っている。
それでも……。
「えっ?」
突然白みがかった光景に思わず声が出てしまう。
すると表彰台が消え、リーナとオズも消え、全てが消え。
「……」
気づけば、ひとりで通りに立っていた。
「ヴィーツか、そいつは美味いぞ」
「……」
ここは大通り?
ヴィーツを初めて口にしたあの店?
「オルドウの名産だからな」
「そうなんですか」
この光景。
覚えてる。
表彰式とは違い、間違いなく俺が経験した場面だ。
「ぼうず、金は持ってないのか?」
「……はい」
「ん~~~、仕方ねえなぁ。これ持ってけ」
「え?」
「今日は特別な日だからな。それに、そいつは客寄せのための展示物だ。そろそろ表面が乾いてきたから別の果物を置こうと思ってたんでな。だもんで、そのヴィーツは廃棄物だ。ぼうずにやるよ」
「本当にいいんですか?」
「ああ、持ってけ。というか、食ってくれ」
「ありがとうございます」
「おお、食べろ食べろ」
「はい」
初めて食べたヴィーツの味、あの時の喜び。
今でも記憶の中に強く残っている。
もちろん、ヴィーツをくれたおじさんのことも……っ!?
この顔?
主催者と同じ?
「……おいしい」
「そうだろ」
「おいしいです。ありがとうございます」
「おう、良い食べっぷりだな。今度は買いに来てくれよ」
「はい!」
ヴィーツのおじさんが魔球合戦の主催者と同一人物?
そんなこと、あり得るのか?
「……」
大通りの店主がオルドウ大祭魔球合戦の主催者。
無くはない、のかもしれない。
ただ、それでも可能性は低いはず。
そうだ。
俺はこの人と2度会ってる。
その時のことを思い出せれば……。
駄目だ。
はっきりと思い出すことができない。
「ぼうず、ついでだ。こいつも食べてみろよ」
手渡されたのは小さな赤い果実。
「そいつは皮も食べれるからな」
「はい」
この果実は何だ?
食べた覚えも手にした覚えもないぞ。
「あまい……とってもあまいです!」
当然、この場面の記憶もない。
つまり、これらは全て現実じゃない?
実際に俺が経験したことではなく、ただの夢、幻?
あるいは過去の位相世界の俺?
いや、それにしては鮮明すぎる。
どこか引っかかるものもある。
なら、俺の記憶が一部消えている可能性も否定はできないな。
って、そもそも今はどういう状況……?
「っ!」
そうだ。
ついさっき、俺は倒れたところ。
低フード姿の剣姫とやり合った後に意識を失ったんだ。
ということはやっぱり、これは夢?
今の俺は眠っているのか?
なんて考えている場合じゃない。
今すぐ目覚めないと!
けど、どうやって?
目を覚ます方法は?
と頭を捻った次の瞬間。
「ああぁぁぁぁ!!」
耳朶を裂くような悲鳴が聞こえてきた。
「うぅ」
目の前は土。
地面。
目が覚めてる?
「ササリーシャ様!!」
頭を上げたところに飛び込んできたのはイヴの叫び。
そして前方には……!?
若干かすむ俺の両眼の前に広がっていたのは予想外の光景。
「とりあえず、この腕だけもらっていくぞ」
「ドゥベリンガー!!」
「残念ながら時間がねえんだ。続きはまた……」
言葉の途中でその全身が薄れ。
赤鬼ドゥベリンガーと剣姫イリサヴィアが消えてしまった。
ササリーシャ嬢の左腕を持って。
第13章 完





