第792話 再会
<低フード視点>
いまだ敵の姿は朧げなまま。認識は妨げられたままだが、どうにも既視感を覚えてしまう。それも普通ではない既視感だ。そう、よく知っているような……。
「……」
ただ、そんなはずはないと理性が蓋をする。
どう考えても場所的、時間的にあり得ないのだから。
「ふむ」
状況的に可能性はほぼ皆無。
ここで頭を悩ます必要なんてない。
加えて、こっちの現状、宝具の制約を考えれば……。
「残り時間もあとわずか、か」
無駄に思考している暇はない。
数瞬でも早く次の攻撃に移り、勝負を決すべき。
「ならば、よし」
ここ数カ月で随分と滑らかになった魔力操作で剣に魔力を込め、決着の一歩を踏み込む。
ダンッ!
剣身を下段に下げての跳躍。
即座に間合は消え。
振るう剣撃は最高のもの。
今日一番の出来。
並の剣士なら受けることもできない。
尋常の剣なら砕け散る、そんな一撃が……?
認識阻害が解けた!
その姿もはっきり、なっ!?
「アリマ!!!」
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ダンッ!
低フードが跳躍した。
その剣はまたしても下段。
魔力のこもった剣が猛烈な勢いで迫ってくる。
対するこっちは中段横から。
振り上げられる低フードの剣。
迎撃の横薙ぎ。
今回は俺だ。
俺の方が早い。
やれる!
ゴオォォォ!!
速度が上がった!?
まずい、同時か?
「アリマ!!!」
剣が交差する直前に飛び込んできた一声が耳を通過する。
とともに低フードの剣が緩んだ。
必然、俺の剣が先に相手を……って!?
フードが外れ。
顔が露わに!
「!?」
あり得ない!
信じられない!!
そんな光景を前に頭が急加速する。
声が違う、体格が違う。
けど、それが阻害効果なら?
いや、彼女は白都だ。
次の任務は既に決まっていると、間違いなくそう話していた。
なのに、あのフードの下は。
「っ!?」
剣が届いてしまう。
彼女を斬り裂いてしまう。
駄目だ、それだけは絶対に!
なら。
ギュッ!
無理やりに手を回し軌道を変えてやる。
想定外の転換に悲鳴をあげる手首を強引に押さえつけ剣身をそらしてやる。
よし!
回避できたぞ!
と、その瞬間。
ザシュッ!
胸に走る衝撃。
「アリマっ! どうして!?」
「……」
斬られた。
斬られてしまった。
「イリサヴィア様」
剣姫に!!
「なぜ!」
その思いは俺も同じ。
「なぜ、こんな!」
白都にいるはずの剣姫を前にした俺も同じ思いだ。
ただ、これは紛れもない現実。
どれだけ考えても覆せるものじゃない。
疑問を並べ立てても意味はない。
「……すまぬ」
呆然としながらも謝罪の言葉を口にする剣姫。
彼女も状況を受け入れたんだろう。
「私が未熟だった」
「いえ、イリサヴィア様に責任はありません」
認識阻害と認識妨害を使ってたんだ、簡単に正体を見抜けるわけがない。
結果として剣を振るい合うのは当然のこと。
それでも、俺に気づいた刹那に手を緩めてくれた。
そんな彼女が未熟なんて、とんでもない。
「アリマに傷を負わせてしまったのに?」
「仕方のないことです」
というか、これでよかったんだ。
俺が剣姫を斬るなんてこと、考えたくもないのだから。
「だが……」
剣姫イリサヴィア。
誰もが知る傑出した剣士。
因縁深き最高の冒険者。
初めて出会ったのは白都の広場だった。
それから今日まで、紡いできた縁は並大抵のものじゃない。
エビルズピークの共闘、テポレン山でのレザンジュ王軍との戦い、レンヌ屋敷からの脱出、憂鬱な薔薇との一件。その全てで尋常一様ではない時間を共に過ごしてきた。容易には返せないほどの恩を受けてきた。
そんな彼女に俺が傷を負わせる?
あり得ない、もっての外だ。
たとえそれが依頼に反しようとも、彼女に剣なんて向けたくない。
今回の件もそう。
剣姫との縁はイヴやササリーシャ嬢とは比べ物にならない。
だから、ああ。
これでよかったんだ。
「だが、その傷は」
問題は剣撃を上手く避けられなかったこと。
とはいえ、傷は大したことはない。
「大丈夫ですよ、浅い傷ですので」
「まことか?」
「ええ、治癒魔法を使えば問題ありません」
既に服の上から広範囲に治癒を発動している。
なので、もう痛みも和らいできた。
あとは上着をめくり直接……っと、結構な血が溢れてるな。
「っ! 深手ではないか!」
いや、そう見えるだけだ。
決して深いものじゃない。
そんなことは剣姫も手応えから分かっているはず。
ということは、やはりまだ動揺してるんだろう。
「コーキ!」
「いえ、こうして治癒の光を当てればすぐ癒えますから」
剣傷はまったく問題ない。
ただ、この状況。
何とも微妙で複雑だぞ。
このあと、俺はどう動くべきなんだ?
ん?
剣姫は今なんて言った?
俺をコーキと呼んだのか?
「っ!」
瞬間、激痛が走る。
剣傷じゃない。
頭痛だ。
「ぐっ、うっ!」
「コーキ?」
痛みで目が眩む。
「傷か、傷が痛むのか?」
「ちがい、ます」
「それなら、いったい?」
「頭が」
「頭? 頭痛??」
そう。
頭痛なんだよ。
「コーキ様?」
少し離れて様子を見ていたササリーシャ嬢が心配そうに近づいて来る。
「ササリー……」
駄目だ。
上手く喋れない。
立ってられない。





