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30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第13章 オルドウ編 2

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第790話 阻害



「おい!!」


「……おまえもドゥエリンガーを使ってないではないか」


「それは、あんたが制約にかかるからだろが!」


「……」


「ふざけんじゃねえぞ!!」


 ここまで言われてどう動くんだ、イヴ?


「本気を出せ! オレを殺しにこいよ!!」


「……」


「バアさん!!!」


「……詮方ない、か」


 これは?


「残滓といえど失せ難きこの約定もまた儚く」


 イヴの口調が変わった。

 纏う空気も違う。


「セット……」


 やる気だ!


「フレイム」


 発声と同時に白い炎が吹き上がる。

 離れていてもはっきりと感じとれる恐るべき威力。

 そんな白炎がイヴの頭上を舞う。


「イヴ様の炎、凄いです」


 まさにその通り。

 完璧に制御された高熱の炎には感嘆の言葉しか浮かんでこない。

 ただこの白炎、どこかで見たような?


 そうか!

 エヴドキヤーナの魔法にそっくりなんだ。


「……」


 今も鮮明に思い出せる。

 シャリエルンとともにテポレン山に向かい急行していた時のことを。

 街道上で襲ってきた少女姿の大魔導師、驚異的な魔法の数々。忘れることなんてできやしない。


 特にあの白炎は。


 ん?

 ということは、イヴの作り出したこの炎も幻?

 本物じゃな……いや、違う。


 ゴオォォォ!!


 あの時の幻覚とは魔力の流れが異なってる。

 こいつは実在してるんだ。


「バアさん、いいぞ。撃ってこい!」


 一撃で致命傷になりかねない白炎を前にこの挑発。

 受けきる自信があるのか、それとも回避するつもりか?


「……フレイム」


 仁王立ちする赤鬼を目にしたイヴの口から再び術名が。


 ゴオォォォ!!

 ゴゴオォォォ!!


 2つの白炎が吹き荒れる。

 そして、その勢いのまま空を翔け。


「ちっ!」


 前方へと襲い掛かった。

 が、赤鬼は逃げない。

 

 ゴゴゴオオォォォ!!


 とぐろを巻き燃え盛る白炎。


「うおぉぉ!」


 その中に留まり剣を振るう赤鬼。


 ブンッ!

 ブブンッ!

 

 魔力運用に長けた赤鬼のことだから体の防衛強度は既に増強済みなんだろう。

 ただ、今彼の全身を包み込んでいるのは幻じゃない。高威力を誇る現実の白炎なんだ。この状態から無事に切り抜けられるなんて、とてもじゃないが想像できないぞ。


 ブンッ!

 ブンッ!


 それでも、赤鬼は長剣を振り続けている。


 ブンッ!

 ブブンッ!


 ゴゴゴオオォォォ!!


「おおぉぉ!!」


 ブブンッ!

 ブシャッ!!


 炎を斬り裂いた?


 ブシュッ!

 ブシャッ!

 ブブンッ!


 斬り裂き続ける赤髪。

 すると、白炎はとぐろの形状を保てなくなってきた。

 所々に空白が生まれている。


「おおらああぁぁぁ!!」


 ブブンッ!!

 ブッシャーーーン!!


 消えた?

 白炎が消えてしまった!


「はあ、はあ、はあ……」


 もちろん、無傷ではない。

 衣類の半分程度が黒く焦げ。

 そこに覗く皮膚も爛れている。


「斬ってやったぞ!」


 が、頭部は無事。

 四肢も問題なく動かせている。


「バアさん、あんたの攻撃なんて怖かねえんだよ」


「……」


「ってことで、今度はオレの」


「そこまでです」


「ああ?」


「時間切れです」


 いつの間にか低フードが赤鬼の傍らに!


「……」


「ドゥベリンガー様」


 この動き、やはり低フードもただ者じゃない。


「時間切れです、退きましょう」


 ただ、時間切れとはどういうことだ?

 こんな街道上で時間に制限なんてあるのか?


「まだ残ってんだろ」


「いいえ、これ以上の私闘は許可できません」


「おまっ」


「任務がありますから」


「おまえ、誰に向かって」


「任務ですから!」


「……」


「ドゥベリンガー様」


「……おまえがやれ」


 赤鬼と低フードの任務?


「おまえが捕まえてこい」


「分かりました。ですが、私闘はここまでですよ。それと、これを」


 手渡したのは赤鬼のフード付き外套。


「……」


「非常に高価なんですから、無造作に脱ぎ捨てないでください」


「……ああ」


 目を逸らす赤鬼に低フードが背を向ける。

 依然その身に外套を纏い顔もフードの中だ。


「では」


 正体不明のままにこちらへと一歩踏み出す。

 っと、イヴも地を蹴った。


「行かせるかよ」


 その前に立ち塞がったのは赤鬼。


「私闘禁止では?」


「こっからは私闘じゃねえ」


「なるほど」


 再び真正面から向き合う2人。

 一方、低フードは既に歩き出している。


「冒険者殿!」


「ええ」


 叫ぶイヴに分かりやすく目線を送ってやる。


「……頼みますよ」


「コーキ様?」


 この状況だ。

 もう俺がやるしかないだろ。


「お任せください」


「はい!」


 さて、低フードの腕が並じゃないことは分かってる。

 問題はそのレベルと戦闘スタイルだが。

 剣だけで対応できる範囲内なのか、それとも魔法も必要か?

 相性はどうなのか?

 その詳細を知るためにも、ここはまず鑑定を。


「……」


 効果範囲まで、あと5歩。


 3歩。


 1歩。


 よし、発動だ。


 ん?

 もう一度。


「??」


 発動しない?


 これまでも数度、発動が用を成さなかった経験はある。

 前方にいるあのイヴも上手く鑑定できなかった。

 それでも、ある程度の情報は表示されていた。

 どんな相手に対しても鑑定発動すれば表示欄は浮かんできた。

 なのに、今回は表示すら現れない。

 つまり、あいつは発動阻害系の何かを備えているってこと。


「……」


 あのフード付き外套か。

 隠された顔だけじゃない。

 この距離まで近づいても、姿形が若干ぼやけているんだからな。


 っと、そんな相手との距離はもう10歩をきっている。


「戦うのにフードを外さないのですか?」


 とりあえず顔を見せてくれ。

 そうすれば鑑定が通るかもしれない。


「何か外せない理由でも?」


 駄目だ。

 こちらの問い掛けを受けても外す素振りがまったく感じられない。


「ふっ、よく言えたものだな」


「……」


「己の身を隠しているというのに」


 確かに。

 マスクで顔を隠しイヴ製の認識妨害術式を使っている俺が言えたことじゃない。

 ただ、こいつは簡易で軽度な術なんだ。

 実際に剣を交えれば妨害なんてすぐに緩んでしまう。

 おそらく低フードとやり合えば、数分も保たず完全に解けることだろう。


「しかし、ふむ……ここで正体を明かさぬとはオルドウ伯の関係者ではない?」


 足を止め、隠した頭を傾ける低フード。


「何者なんだ?」


「……答える必要はないでしょ」


 キュベリッツ王国と対立する意思なんてないのに、正体を明かせるわけがない。


「そんなことより、いいんですか? 時間がないんですよね?」


「……」



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