第785話 面識あり?
パチン!
指を鳴らしたイヴの前方で隔離壁が消失。
他の壁は残したまま、馬車を囲うそれだけを消したのか。
「さあ、こちらへ」
ササリーシャ嬢とイヴが街道へと歩を進める。
騎士たちは……。
「ま、待て!」
「……」
「このまま逃げられると思っているのか?」
「……」
「おまえたちはオルドウには戻れない、二度とだ」
リーダー騎士の言葉は典型的な虚勢としか思えない、が、それにしては自信満々に過ぎるな。
「ここで終わりなんだよ」
この状況、隔離壁で遮られた上に相手はイヴなんだぞ。
どうしてそこまでの自信を持てる?
「……」
イヴも引っかかるところがあるのか、無言ながらも立ち止まり。背後から周囲へと意識を向けている。こちらも同様感知で探ってみるも、特に異状は感じられない。
やはり、ただの負け惜しみなのか?
そう思いながら再度リーダー騎士に目を向けた時。
「きた、来たぞ!」
その口から確信の一言が飛び出す。
彼の両眼が向かうのは……一里塚?
光ってる!?
淡い光が徐々に強いものへと変わっていく。
さらには魔力まで溢れてきた。
「イヴ様?」
「大丈夫です」
ササリーシャ嬢に頷いたイヴが、俺に視線を投げてくる。
近づいて来いと?
「……」
念のためマスクを装着し、ササリーシャ嬢とイヴのもとへ。
「えっ……コーキ、様!?」
「ササリーシャ様、今はお静かにお願いします」
「は、はい」
音もなく現れたマスク男に驚いたからだろう、声が高い。
ただ、騎士たちは光る一里塚に気を取られているようで、彼女の声に耳を向ける者は皆無。
「しばらくの間ササリーシャ様をお願いしても?」
「ええ、もちろん」
イヴの要請通り、ササリーシャ嬢に手を差し出す。
「イヴ様は?」
「あれの対処をしたいと思います」
「……平気ですか?」
「お任せください」
と、光量が増した。
一里塚の上の空間が歪み始めている。
この感じは……。
「ササリーシャ様!」
「はい」
ササリーシャ嬢を連れて急ぎ後退。
さっきまで潜んでいた場所に到着、したその瞬間。
キィィィィン!
光がはじけた。
「よーし、到着だ!!」
リーダー騎士の顔が笑みこぼれている。
その目の先、光の跡にはフード姿の2人。
ということは、やはり転移的なあれか。
憂鬱な薔薇が持っていたエルンベルンの移宝のような宝具を使ったのかもしれない。しかし、貴重な宝具をこんな所に仕掛けていたとは驚きだ。
「おお、上手くいったぞ」
呟くのは大柄な男。
フードを深くかぶっているため細部の視認はできないものの、大男であることは分かる。
「……状況は?」
背が低い方のフードも口を開いた。
といっても、もう一方が高すぎるだけで決して低身長ではない。
「コーキ様、何が起こってるんです?」
「魔道具、宝具の類で移動してきたのかと」
「宝具!?」
呆然とするササリーシャ嬢。
彼女ほどじゃないが、俺も少なからず動揺している。
「そんなものを使って……」
その通り。
高価希少な宝具を辺鄙な街道上で使うなんて、どう考えても普通じゃない。
それだけの価値がササリーシャ嬢にあるってことなのか、それとも他に理由が?
「あの2人、強いのでしょうか?」
「……」
ともに剣気も殺気もほぼ感じられない。
それでいて、強者の予感はとんでもない。
つまり、気配を抑え込んでるだけ。
「コーキ様?」
「……かなりの力量の持ち主だと思いますが、イヴ様なら問題ないはずです」
「そう、ですよね」
「ええ」
その確信を得るためにも鑑定をしたいところ。
ただ、この距離は効果範囲外のため今は使えない。
「でも、もしも危なくなったら、コーキ様?」
「……分かりました、その時は」
任せてとは言えないまでも、できることはしようと思っている。
ということで、しばらくは様子見だ。
この先のことは状況次第で臨機応変に。
「誰か状況を説明してほしい」
「あっ、襲撃です」
この様子。
リーダー騎士も誰が転移してくるかは知らなかったと見える。
「胡乱な魔法で襲撃されました、犯人はそこの女です!」
「なるほど」
低フードがイヴに目を向け、一歩踏み出す。
「待て!」
それを制止する高フード。
「おまえは待機だ」
「どうしてです?」
「いいから、そこで待ってろ。あいつはオレ様が相手するからよ」
「……」
微かに首を傾げる低フードを背に高フードが歩を進める。
「よーし、よし、よし。正解だ!」
イヴまで5メートル。
それと分かるほどに高フードの声が弾み出した。
一方、イヴは黙したまま。
魔法もスキルも使う様子はない。
「ふふ、はははは」
「……」
「はははは……会いたかったぜ、バアさんよぉ」
バアさん?
「ホント、長かったぜ?」
イヴがバアさん?
確かに、見た目通りの年齢じゃないとは思っていたが……って、高フードとイヴは知り合いなのか?
「こっちは探し続けてたのに、バアさん、ずっとオレを避けてたよな?」
「……」
「ちっ、久々の再会だってのに黙ってんじゃねえぞ」
やはりそう。
この2人は面識があるんだ。
「まさか、気づいてねえのか?」
「……」
「なら、嫌でも気づかせてやるよ」
吐き出した言葉とともにフードを脱ぎ捨てる。
露わになったのは想像通りの大男。
右頬に剣傷の痕を残した赤髪の剣士が燃えるような目でイヴを睨んでいる。
「この顔を知らねえとは言わせねえぞ」
「……」
イヴは依然として無反応。
気配にも何ら変化は見られない。
数歩後ろの低フードも変わらずの黙視状態。
ただ、隔離壁に閉じ込められた一部の者が騒ぎ始めている。
「あの顔、傷痕は!?」
「まさか、まさか!」
「赤鬼!?」





