第784話 魔気
異世界!?
「あの、あれは、私の夢というか、妄想というか……」
「でも、実在するんでしょ?」
「……多分」
「だったら妄想じゃないわね」
「……」
「それで、いつ頃行けそうなの?」
「む、無理です。私なんかじゃ」
「そうかしら? あなたの才能があれば問題ないと思うけど?」
「買いかぶりすぎです」
リャナーヤ様はいつも私のことを高く評価してくれる。
それはとっても嬉しいことだけれど。
「そんなことないわ。あなたのことは私が一番知ってるんだから」
その反面、期待に応えられない自分が恥ずかしくもなってしまう。
「うん、大丈夫、間違いない」
「……」
「あなたが諦めず挑み続ければ絶対叶うわよ」
でも、でも。
情けなく閉じこもった自分を外へと連れ出してくれるのもリャナーヤ様。
「自分を信じなさい」
だから、私は進むことができる。
リャナーヤ様のために、もっともっと前へ進みたい。
「……すごく時間がかかると思います」
けど、頑張れる。
どんなに難しくても、時間がかかっても、リャナーヤ様が私を見てくれていれば。
「何年くらいなの?」
「それは……」
術式も何も見当がついていない今の私には遠すぎて。
「おおよそでいいから」
「……30年、50年」
「そんなに!?」
「っ、ごめんなさい」
「あなたが謝ることじゃないわよ。けど、30年から50年かぁ」
「あの、私、頑張ります。リャナーヤ様のために」
「ふふ、ありがと。でもね、私のためじゃ駄目。頑張るなら自分のために頑張りなさい」
「……はい」
私自身とリャナーヤ様、あなたのために頑張ります!
「はいじゃなくて」
「……うん」
やっぱり、これ。
ちょっと慣れないな。
「けど、まあ、50年はさすがに長いわね」
「……」
「その頃には私も生きていないだろうし……30年だったら何とかなるかな?」
「きっと大丈夫です」
30年どころか、50年だって。
「そう?」
「はい、私がどんな病からも護ります」
「魔法、錬金術に加えて薬草学まで学ぶつもり?」
「はい、リャナーヤ様のためなら何だって身につけますから!」
「ふふ、ふふふ。ほんと可愛いわね、イヴ」
そう言って微笑むリャナーヤ様。
私の頭を優しく撫でてくれるリャナーヤ様。
この温かな微笑みも、柔らかな手の感触も、私を愛称で呼んでくれる美しい声も、何もかもが私にとってはかけがえのない宝物。本当になんて幸せなんだろう。
「でも、そうね。もしもの場合は、私の娘や孫をお願いしてもいいかしら」
「もしもなんてありませんけど、私で良ければリャナーヤ様のオルドウ直系も、はい。約束します」
「女系だけでいいわ」
そうだった。
リャナーヤ様は男嫌いだったんだ。
でも、男嫌いで子供は……。
今も目を閉じれば鮮明に浮かんでくる。
何年経とうと色あせはしない。
リャナーヤ様との幸せな時間。
優しくて、温かくて、心強くて、とっても美しくて、でもちょっとお茶目なリャナーヤ様。
必ず護ると約束したのに、護れなかったリャナーヤ様。
私が永遠に失ってしまった無二の人。
どれだけ長く生きても、この悔恨だけは消えることがない。
私の中に残り続けている。
でも、それでいい。
それが私なのだから。
「……」
そんなリャナーヤ様と瓜ふたつのササリーシャ様。
長い時を越えて誕生したリャナーヤ様の女系。
彼女の存在を知った時、どんなに嬉しかったことか。
あの喜びを言葉になんてできるわけもない。
なのに、今私の目の前で。
「きゃあ!」
ササリーシャ様の悲鳴。
「い、痛……」
瞬間、目の前が紅く染まる。
たがが外れ、魔気が溢れ出てくる。
もう抑えきれない。
体が勝手に動いて……。
「いいから、馬車に戻れ!」
「い、いや!」
「早くし、ぐっ!?」
崩れ落ちる騎士の身が紅い視界に入ってくる。
「……」
やってしまった。
けど、こうなれば同じ。
他の者たちも。
「ぐっ!」
「うぐっ!」
「がっ!?」
「っ!?」
馬車周りに立つ者はなし。
有象無象はすべて消えてなくなった。
これでササリーシャ様が傷つけられることもない。
そう思えた瞬間、魔気が霧散。
視界が通常に、落ち着きも戻ってくる。
「……」
大丈夫。
問題はない。
この程度なら制約に触れることも……ないはず。
ただ、先のことを考えると。
「イヴ様」
なんて思考、今はどうでもいい。
「イヴ様ですよね?」
ササリーシャ様にこうして会えただけで。
「……お待たせしました」
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「すごいな」
まさに圧巻の光景。
分かっていたこととはいえ、イヴのこの超絶技巧の素晴らしさに感嘆の言葉しか出てこない。それはキュベリッツ王家の騎士もシャリヌも同じ。いや、彼らは言葉もないか。
「ササリーシャ様、お怪我はございませんか?」
「はい、平気です」
「疲れは、体は重くありませんか?」
「体も問題ありません。イヴ様の方こそ魔力をたくさん使ったのでお疲れですよね?」
「いえ、この程度なら」
そんな騎士とシャリヌは沈黙のままイヴたちをただ見つめている。
「ですので、ササリーシャ様。一緒にオルドウに帰りましょう」
「オルドウに?」
「はい」
オルドウ領主館に戻っても、すぐに騎士連中が押しかけてくるだろう。イヴもそれは承知のはず。つまり……。
「その、お父様のことは?」
「一度落ち着いてから、と今は考えております」
「……」
「よろしいですか?」
「……はい」
「では、さっそく」





