第783話 鎧袖一触
「セット、ストリング、ストリング、ストリング」
隔離壁に続くのは透明の紐。
ヒュン、ヒュン、ヒュン!
宙に円を描き出したそれが休憩中の王家騎士やシャリヌに襲い掛かる。
「ストリング、ストリング、ストリング、ストリング、ストリング」
「「「わっ!」」」
3人が顔面から地に落ち。
「ストリング、ストリング、ストリング、ストリング」
他の者も次々と拘束されていく。
「「なっ!?」」
「「何だ!?」」
「足が動かないぞ」
「ストリング、ストリング、ストリング、ストリング、ストリング」
今回は手ではなく足を縛るんだな。
「セット、アイソレーション」
淡々と進んでいく怒涛の攻勢。
まったく容赦がない。
「アイソレーション」
魔法なのかスキルなのか分からないが、放出限界を微塵も感じさせない。
それでいて、本気を出していないことは伝わってくる。
「これは?」
「透明の壁?」
「あいつだ!」
「襲撃だ!」
ここで昨日の湖畔の館にいたであろうシャリヌの者たちが叫びだす。
ただし、イヴの姿は認識できていないはず。
いまだ気配を薄めたままなのだから。
「昨日のあいつなのか?」
「ああ、間違いない」
「けど、どこに? どこにいる?」
見えない敵に浮足立つ騎士とシャリヌ。
「落ち着け!」
そんな部下たちを一喝したのはリーダー騎士。
「落ち着いて動けば何の問題もない!」
数名と共にアイソレーションで隔離されているが、自由には動けている。
あっちに透明紐の拘束はなしか。
「狼狽える必要なんてないまったくないんだ!」
「「「「「「「「……」」」」」」」」
リーダーの言葉で皆の動揺が薄らいでいく。
拘束紐も隔離壁もそのままだが、王家騎士とシャリヌが平静を取り戻しつつある。
「紐で縛られた者は皆で協力して拘束を解け、壁に阻まれている者は陣形を整えろ!」
「「「「「「「「はっ」」」」」」」」
「「「「「「「「はい」」」」」」」」
「敵は必ず令嬢を奪いに来る。動ける者は馬車の周りを固めるんだ!」
「承知しました」
いまだ十全からは程遠い。
そんな不完全な状態でも、迎撃の体勢が整っていく。
ところでイヴは何をしてる?
なぜ、さっさと救出に向かわない?
ここに至っても制約があるのか?
「何者か知らぬが、いつまで隠れてるつもりだ」
「……」
「正々堂々と姿を現せ!」
「退いてください」
リーダーの声に反応したのはイヴじゃない。
ササリーシャ嬢だ。
「こら、やめろ!」
「イヴ様!?」
馬車から飛び出してきた。
「戻れ!」
が、強引に腕を引かれ。
「きゃあ!」
反射的に上がる悲鳴。
「い、痛……」
どこか痛めたのか?
大丈夫なのか?
待機中なのに、思わず足が動きそうになる。
イヴは?
「うっ!」
冷気!?
身を裂かれるような冷気が前方から漂ってくる。
殺気を越えたそれを感知して、声が漏れ出てしまう。
と同時に動き出すイヴ。
まっすぐ馬車に向かいながら手を前に出し水平に振るった。
これは……魔法?
ほぼ透明な魔力の塊、風魔法のようなものが前方に飛んでいく。
ただ、すぐそこには隔離壁。強力な壁が馬車を囲っている。
魔力の塊が隔離壁に激突……しない。
どういう仕組みか、壁を抜けササリーシャ嬢の腕を掴む騎士のもとへ。
「いいから、馬車に戻れ!」
「い、いや!」
「早くし、ぐっ!?」
騎士の体を通過
いや、切り裂いたんだ。
「何?」
騎士が地に落ちる。
「っ!?」
ササリーシャ嬢の足もとで騎士の身が2つに。
ただし血は溢れてこない。
切断面が凍ってる?
「……」
昨日の俺との対峙時には見せなかった技。
遺骸に体現されている通り、凍えるほどに恐ろしい術式。
そんな魔力刃をさらに複数射出していく。
「ぐっ!」
「うぐっ!」
「がっ!?」
「っ!?」
この間は数秒。
僅か数秒で馬車周りの騎士全員が沈んでしまった。
「なっ……」
あまりの出来事にリーダー騎士が硬直。
「「「「「「「「……」」」」」」」」
「「「「「「「「……」」」」」」」」
他の王家騎士やシャリヌも同様、呼吸音すら聞こえてこない。
「イヴ様……」
ただひとり、ササリーシャ嬢だけが動き出す。
「イヴ様ですよね?」
その声に応えるようにイヴが姿を現し隔離壁の中に。
「お待たせしました」
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<イヴ視点>
「あなたは何も悪くないわ」
「……」
「悪いのは周りの貴族連中よ」
「そんなことは……」
「いいえ、間違いない。あなたはそのままでいいの!」
これまで何度となく私を救ってくれた彼女の言葉。
今回もそう。
心と体に力と勇気を与えてくれる。
「何の罪もないあなたやエンノアの皆を傷つけ、馬鹿にして、それでいて利用だけはしようとする。そんな愚劣なやつらのことなんて全て忘れればいい」
「リャナーヤ様……」
ありがたい、本当にありがたい。
心からそう思う。
「解った?」
「……はい、ありがとうございます」
「お礼なんて要らないわ。けど、その話し方は駄目」
「……」
「2人の時は普通に話すって約束したわよね」
「ですが」
「だから、それが駄目なの」
「……はい」
「はいじゃない」
「……うん」
「そう、それでいいのよ。あなたと私は友達なんだから」
「…………うん」
「ということで、嫌な連中の話はやめにして楽しい話をしましょうか」
楽しい話?
でも、今の私に楽しい話なんて。
「そうだ、異世界の話なんてどうかしら?」





