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30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第13章 オルドウ編 2

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第782話 並走


 

 オルドウを出た後、ずっと切らすことなく張り巡らしていた感知の網。ササリーシャ嬢の気配発見に特化させていたこともあり、これはもう確定だと思うが、念のためさらに精度を上げて……。


「間違いない」


 紛うことなきこの気配。

 ササリーシャ嬢だ。


「……」


 彼女がいるのは真北の方向。

 おそらくは街道上を動いている。

 ここからはまだ結構離れているものの、強化した足で街道を走れば問題ない。そう時間をかけずとも捉えることができるはず。


 なのだが、問題はそこから。


「……」


 依然イヴの気配は不明なまま。

 気配を薄めているだろう彼女を感知すること自体が難事なのだから仕方ないとはいえ、彼女の動向が掴めないと色々と判断に困ってしまう。


 もちろんササリーシャ嬢に接近する前にイヴを感知できるなら話は早いのだが、そうじゃない場合は……。







「見えてきたぞ」


 強化眼で捉えたのは1台の馬車。

 あの中にササリーシャ嬢が乗っている。


 馬車の周囲には複数の人影。

 全員が騎乗しているその数はかなりのもの。

 想定の2倍以上はいる。

 それだけ警戒しているってことか。


 馬車を囲むのは、おそらくは王家の騎士とシャリヌ家の者たち。

 ここからじゃ鑑定はできないが、外見から充分判別できる。

 そんな彼らが街道を悠々と北上している。


 一方、イヴはいまだ見つからず。

 彼女があの馬車を捉えていないとは思えない、近くにいないとは思えないのだが、俺の感知と強化眼では未捕捉なまま。


 となると。


「さて」


 どうしたものか?


 と、迷いながらも足は止めない。

 速度を若干落とした状態で彼我の距離を詰めていく。





 強化した身での疾走速度は明らかに普通じゃない。

 高速追走は当然目立つし、騎士たちの警戒を否が応でも招いてしまう。

 そのため視認される前に速度を落とす必要がある。


 なので、そろそろ……?

 これは、イヴ!?


 忘れようのないあの気配が街道脇から漏れ出ている。

 この距離でもこちらの肌に突き刺さってくる。


 いったい、いつからそこに?

 ずっと潜んでいたのか?


「っ?」


 と感知の網を狭めた次の瞬間には、再び薄っすらと消えかけた状態。

 それでも間違いない。

 気配を薄めたイヴが街道脇に身を潜めているぞ。


「……」


 ササリーシャ嬢を乗せた馬車がイヴの前を通過するまで、概算で30秒程度。王家の騎士やシャリヌ家の者たちは彼女に気づいていない。


 そこで奪還に動くのか、イヴ?

 多数相手にその近距離から魔法で?


「……」


 先程までとは一転。

 一秒一秒と息を呑む時間が過ぎていく。


 あと少し。

 イヴの前を馬車が……通り過ぎた!

 今まさに通り過ぎてしまった!!


 なのに、イヴは動かない。

 ただ潜んでいるだけ。

 不動のまま。


 いや、違う!

 僅かに距離を置いてだが並走を始めた。





 イヴを感知してから5分。

 いまだ彼女は馬車の右斜め後方。

 10メートルほどの距離をおいて並走を続けている。

 ただし、俺が現状を把握できるのは微弱な気配を感じとればこそ。動く姿自体はほぼ視界から消え去ったまま。


 今さらながら彼女の気配消去能力には脱帽だ。

 ほんと、恐れ入ってしまう。


 ん?

 気配が変わった?

 ということは、仕掛けるのか?

 どこで?

 狙いは?


「っ!?」


 殺気?

 イヴの殺気が俺に?


「……」


 直後嘘のように霧消。

 ただ、その一瞬だけで背に汗が滲んでしまった。


「ふぅぅ」


 苦い息まで漏れ出てくる。


「で、何だったんだ?」


 当然、最前からイヴは俺に気づいていたんだろう。

 そんな彼女からの意思表示とも思われる殺気の投射。


 つまり。

 今は近づくなってことなのか?

 昨日は手を貸せと言ったのに?


「……」


 遅れた俺に怒ってるのか?

 怒ってるんだろうなぁ。


「……はぁぁ」


 とりあえず今はこのまま。

 この距離を保つ方がいい。

 しばらくは様子見ってことだ。





 殺気が消えてからさらに5分経過。

 状況に変わりはない。


 ササリーシャ嬢を乗せ街道を走る馬車。

 それを囲むようにして馬を進める王家騎士とシャリヌ。

 10メートル離れて並走するイヴ。

 そこから大きく後方に俺。


 単調の中に潜む緊迫と弛緩、紙一重の状態で北上が続いていく。





 また5分が経過。

 まだまだ大した時間じゃない。

 追走もまったく苦にならない。

 なのに、この何とも言えない息苦しさ。

 イヴが適当な場所を見つけるまで、これが続くのか。





 何だ?

 馬車の速度が落ちてるぞ。

 まさか、休憩?


 すぐそこに一里塚のような道標が見えるが、他には特に何もない。

 こんな中途半端な地点で、どうして?


「……」


 理由は分からないものの、実際に馬車が止まったのだから間違いない。

 ここで休むようだ。


 ということは、イヴの好機?

 ついに仕掛けるのか?



「確かにここなんだな?」


「はい、道標もありますので」


 強化した耳に騎士たちの声が入ってくる。


「しかし、なぜこんな場所なのだ?」


 俺と同様の疑問を口にしたのは押送騎士たちのリーダーらしき男。


「このような場所だからこそ、と聞いております」


「……ふむ」


 他の騎士たちは思い思いに休憩を取り始めている。

 馬車の中のササリーシャ嬢は姿を見せない。

 どうやら、外に出ることなくこの時間を過ごすようだ。


 という状況でイヴはどう動く?


「セット」


 おお、あれが聞こえてきたぞ。


「アイソレーション」


 まずは隔離壁か。


「アイソレーション、アイソレーション」


 それを3つ。







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