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30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第13章 オルドウ編 2

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第778話 急事




 今思い返せば。

 これまで俺は勘違いばかりしていたんじゃないだろうか?

 周りを助けているようでいて、その実、多くで助けられていたとか?

 護られていたとか?


 昨日も。

 そして今日も……。



 って、駄目だ、駄目。

 今は過去を振り返っている場合じゃないし、気遣いに甘えていい状況でもない。だから。


「古野白さん、下でお茶でも飲みながら話しましょうか」


 まずは動こう。


「もちろん、里村も幸奈も一緒に」


 そうして先に進むしかない。







「異世界間移動」


 平原に残していた野宿跡に戻ってきたのは、こちらの時間で3刻半(午前7時)のこと。予定より3時間ほど遅い。


「今から急いでも……」


 オルドウ到着は昼頃になるだろう。

 その時間だと。


「領主館が大きく動いてる可能性は十分。イヴが既に夕連亭を訪れていることも考えられる、か」


 遅れは仕方ないこととはいえ、少々まずいかもしれないな。


「……」


 離島滞在の延長が決まった後、異形出現のビーチで現場検証に付き合い、異形たち個々の特徴や江良の能力などについて詳しく報告し、夕食後には古野白さんたちと今後の方針について話し合い、さらに幸奈にもあちらの情報を色々と伝え……。


 結果、想定以上に時間を費やしてしまった。

 寝室に戻るのが大幅に遅れてしまった。

 こうなると、異世界間移動が遅延するのも必然。


 まあ、そうはいってもだ。

 離島の状況によってはしばらく渡界できない可能性だってあったのだから。

 3時間の遅延なら好し。


「まずまず幸運だったと考えるべきなんだろうな」


 幸運と言えば、今朝の異形出現。

 あれは鷹郷さんたちが安全と見積もっていた時間帯の後だったらしい。つまりは想定の範囲内、研究所の予測システムの信頼性は揺るいじゃいないってこと。そのシステムが再び安全と断定した時間だからこそ、俺はこうして異世界へと渡って来れたんだ。

 

 ただし、今回の滞在もこの地での12時間のみ、離島での4時間後には戻る必要がある。


「そのためには、急がなきゃな」


 とりあえず、オルドウまで走るとしよう。





「あっ、コーキさん、お帰りなさい」


 夕連亭の前で顔見知りの従業員から声がかかる。

 彼の表情に不審な点は……窺えない。

 現状は大過なしと?

 

 なら、イヴからの言伝は?


「私に伝言などありませんでしたか?」


「ちょうどそれをお伝えしようと思ってたんです」


 あるのか!


「この書き置きなのですが」


 これですと渡されたのは薄い羊皮紙、まさしくイヴからの伝言。

 その内容は単純にして明快、かつ予想通りのものだった。

 ただ、少々端的に過ぎる。

 はっきり言って、何が起こってるのか分からない。


「それで、他に言づてなどは?」


「いえ、この羊皮紙だけですね」


「これだけ?」


「はい」


「……」


 頼むから詳細を書いてくれ、イヴ。

 この一文だけじゃ、指針が立たない。

 確かな策なしに出向くことになってしまう。

 とはいえ……。


 ここで様子見している余裕もないか。

 しょうがない。

 部屋に荷物だけおいて、このまま領主館に向かうとしよう。


 と、夕連亭に足を向けた俺の背に。


「コーキさん!」


 ん?

 明らかに聞き覚えのあるこの声は?


「フォルディさん……お久しぶりですね」


 こっちの世界では大した時間は経過していないが、俺の体感的には久しぶりに他ならない。


 しかし、エンノアのフォルディさんがどうしてこんなところに?

 セレス様たちに加えエリシティア様率いる精鋭を迎えた今のエンノアは多忙この上ないはずなのに?


「……はい」


 エンノアの幹部である彼がこの時期にわざわざ山を下り、俺に会いに来た。

 さらには、この返答にこの表情。

 どう考えても穏やかじゃないな。


「それで」


 様々な想像が頭の中をかき乱してくる。


「どうかしましたか?」


 平静に口を開こうとするも、幾分切迫した声になってしまう。


「ここではちょっと」


「ああ……」


 俺の数歩後ろには夕連亭の者が立っているし、すぐそこに向かいの店舗の店員の姿も見える。つまりは、そういうこと。


「分かりました。場所を変えましょう」


「お願いします」





「フォルディさん、こちらの路地裏ならそうそう人も通らないと思いますので」


 夕連亭から大通りの逆方向に数区画離れたこの辺りは、オルドウ中心部とはまったく違う様相を呈している。スラム街や貧民窟とまではいかないものの、昼間でも暗く澱んだ空気が流れたまま。人影などは皆無だ。


「はい、ありがとうございます」


 2人きりだというのに、人懐こいフォルディさんらしからぬ他人行儀なこの様子。まさか凶事なのか?


「フォルディさん?」


「……進軍です」


 進軍?

 凶事ではなく進軍?

 なら、まだ想定内の話ではある。

 ただし。


「予定では、かなり先のはずでしたよね?」





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