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30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第13章 オルドウ編 2

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第775話 膠着



「どうした、もう終わりか?」


 下段からの4連撃を終え数歩後退したこちらにガイツィンガーが問いかけてくる。


「初手をいただきましたから、次はそちらに譲りますよ」


「ふっ、そうか。では味わうがいい、ドゥエリンガーの朱刃をな」


 真正面から打ち込んでくるガイツィンガーの剣は上段からのけれんみのない一撃。ここまで分かりやすい剣筋だと逆に深読みしてしまいそうになるが、その必要はないはず。


 やはりな。

 小細工はなしか。

 となれば、こちらも避けずに受けるのみ。


 ギィンッ!


 重い。

 確かに重い。

 が、それだけだ。


 ガギィィィン!


 一度受けさえすれば、容易に弾き返すことができてしまう。


「ぐっ!」


 剣身に受けた衝撃が初手を大幅に超えていたからだろう、バランスを崩したガイツィンガーが思わずといった体で数歩後退する。


「……腕力もあるようだな」


「ええ、まあ」


 当然だ。

 ステータス上は俺の方が上なんだから。

 ただし、剛力のスキルを使われればどうなるかは分からない。


「その腕と力でまあ、か」


 こちらも最大に強化すれば対処可能だとは思うけれど、実際に手を合わせてみるまでは何とも。


「ふふ、はは」


「……」


「はは、はははは」


 しかし、こいつ笑い過ぎだろ。


「はは……面白い」


 その上、この一言。


「おまえ、面白いぞ」


 このガイツィンガーも、あれか。

 剣術バカなのか。


「よし、よし」


「……」


「よーし!」


 満面の笑み。

 間違いない、こいつも脳が剣でできてる類だ。


「いいだろう」


「……」


「特別に見せてやる」


 ん?

 明らかに剣気が変わったぞ。

 ここで剛力を使うつもりか?


 再び上段に構えたガイツィンガーがゆっくりと間を詰めてくる。

 顔に浮かぶ笑みとは真逆の圧力をかけてくる。


「受けてみよ!」


 空気を弾かせ迫る剣風が頭髪を揺らす。

 この一撃、頭上で受けるのはまずいかもしれない。


 咄嗟に足を引き、右半身の受けの体勢。

 剣を斜め上方でいなすように。


 ガギギギッ!


 ドゥエリンガーがこっちの剣身を削りながら滑っていく。

 そのまま剣を僅かに反らし。


 ギギィィィン!


 剛力のパワーが空に逃げたところでドゥエリンガーを解放。

 下方に誘導してやる、と。

 

 ドッガァァァン!


 地面に激突。

 視界不全になるほどの凄まじい砂煙だ。

 が、上手くいった。


「逃げたな」


 剣先を地に突き刺した状態で鋭い視線を投げてくるガイツィンガー。


「俺の勝ちだ」


「……ええ」


「認めるのか?」


「今の剣撃を真正面で受けるのは難しい、それは認めます」


 ぎりぎり持ち堪えられたかとも思うが、それにしても剣のダメージは甚大だったはず。避けて正解だろう。


「……そうか」


 とはいえ、ここはその剛剣に敬意を表して追撃は遠慮しておく。


「ふふ、悪くない」


 ガイツィンガーもこっちの意は汲めているようだ。


「なかなかのものだな、おまえ」


 さすが剣術バカといったところ、だが。


「では、仕切り直しといこうじゃないか」


「……」


 何とも微妙に胸がざわつくぞ。 


 ガンッ!

 ガギッ!


 何とも表現しがたい妙な感じ。

 心が落ち着かない。


 ドガッ!

 ガンッ!


 剣筋が若干流れる。

 どうにも集中しきれない。


「……」 


 それは、このガイツィンガーが剣術バカだから?

 どこかで見たような男だから?

 要らぬ感情が顔を覗かせるから?


 ガンッ!

 ガンッ!

 ガンッ!


 などと考えながらも剣は止まらず。

 特に問題なく剣合は続き10数分が経過。

 この攻防にも完全に慣れてしまった。


「……」


 ガイツィンガーの剣は重い。その剣が剛力のスキルでより恐ろしいものへと変化する。以前なら危なかったと感じるほどの剛剣。まさに魔剣の持ち主にふさわしい腕前だ、が。


 難敵との交戦を多数経験し、レベルも上昇した今の俺にとっては脅威を感じるものじゃない。その上、慣れてしまえば。


 ガンッ!

 ガキッ!


 苦もなく対応できてしまう。

 こうしてずっと打ち続けることもできる。

 対して、ガイツィンガーは。


「くっ、ぐっ!」


 魔剣ドゥエリンガーからは当初の冴えが消え。


「はあ、はあ……」


 表情に余裕も見えない。

 そんな状況で、他のシャリヌはというと。


 ドンッ!

 ドガッ!

 ドンッ!


「「「「「くそっ!」」」」」


 ガイツィンガーの後方。

 手勢たちはイヴの作り出したアイソレーションに阻まれたまま。

 特に進展もなし。

 指揮官の怒号もむなしく響くばかり。

 つまり、この場全てが膠着状態。


「……」


 悪くない。

 ほぼ俺が描いていた通りの展開だ。


 で、これでいいんだよな?


 振り返ってイヴに目をやると。

 何か囁いてる?

 聞こえないぞ。


 ガンッ!

 ガギッ! 


 ならばと強化した耳で拾った音は。


『時間を稼いでほしい』


 それは分かってる。

 というか、既に時間は稼いでる。


『1刻以上』


「なっ!?」


『可能?』


「……」


 可能か不可能かと問われれば、それはもちろん、答えは可能ってことになる。

 ただ、1刻以上というのはどうなんだ。

 そこまで必要なのか?


『ササリーシャ様の逃走のため』


「……」


『万全を期すため』


 ガンッ!

 ガギンッ! 


『奮闘を期待する』


「……」


 はぁぁぁ。

 これはもう、やるしかない。

 やるしかないんだろ。


 ガンッ!


 ところで、そっちは。


「術の持続に問題はないんですね?」


『無論』


 その余裕。

 だったら、代わってくれと言いたくなる。

 実際イヴが本気を出せば、こいつらなどあっという間になぎ倒してしまう、いや、殲滅してしまうだろうから。


 とはいえ、王命持ちのシャリヌ相手に下手は打てない。

 イヴに任せて敵多数の命を無駄に奪うなんて事態になったら、この先は?

 想像するだけで、憂鬱になってくる。


 それに、まあ、イヴにも事情があるようだし。


「……」


 仕方ない。

 とりあえずは消耗を抑えつつ進めるとしよう。





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