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30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第13章 オルドウ編 2

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第774話 剛力



 俺が知っている魔剣と言えば、剣姫が振るう魔剣ドゥエリンガーだけ。

 朱色の剣身に紅蓮の炎を纏うあの細剣だけ。

 他の魔剣についての知識はほぼ皆無。

 それでも、剣姫の愛剣だけはこの目にはっきりと焼き付いている。忘れられるわけがない。


 なのに、イヴの隔離壁に傷をつけたあれがドゥエリンガーだと?

 

 ドガンッ!


 確かに剣身は薄っすらと赤みを帯びている。魔力もはっきりと感知できる。けれど、剣姫の愛剣が放つ清冽かつ凄絶な剣気は感じられない。そして何より、剣相が違う。大剣と細剣、まったく異なる形状をしているんだぞ。


 ただ、あのイヴが口にしたんだ。

 簡単には否定できない。

 ということは……。


「ドゥエリンガーは複数存在する?」


「冒険者コーキ殿、あなたはドゥエリンガーを見たことがあるのですか?」


「細剣のドゥエリンガーでしたら」


「……」


「私の知る細剣同様、あの大剣もドゥエリンガーなのですね?」


 言葉ではなく目で返事を返すイヴ。

 やはり、そうだったか。


「細剣、大剣、そして長剣」


 3本?


「魔剣ドゥエリンガーは3本現在しています」


 異なる剣相を持つ3本をそれぞれ異なる3人が所持していると。


 ガッ!

 ドガッ!


 なんて悠長に得心してる場合じゃないな。

 今にも壁が破壊されそうだ。


「それで、どうします? 3枚目を出しますか?」


「……」


 ここで壁を追加すれば応急処置にはなる。

 ただし、魔剣を振るう大男を完全に止めるのは難しいだろう。

 あくまで時間を稼ぐだけ。

 とはいえ。


「イヴさんなら他の手もありますよね?」


 強制的に俺を拘束しようとしたイヴ。

 日本を知り、露見を確定させた彼女のことを全面的に信用はできない。

 それでも、ササリーシャ嬢を護るという一事においては信頼をおけるはず。

 ならば、今は彼女の腕を頼るべき。


「……」


 どうした?

 答えたくないのか?

 それとも? 


「まさか、他に策がない?」


 いや、いや、それはないだろ。

 先ほどの手合わせと鑑定から推測するだけでも、そんなことはあり得ないと断言できる。


 ということは、別の理由が?

 現時点ではオルドウ伯を助けられない、その理由と同じように?


 ドッガン!


 駄目だ、崩壊が迫ってる。

 仕方ない、考えるのはあとだ。

 今は。


「私が出ましょうか?」


 違う手を打てないなら、俺が出た方がいい。

 どうするイヴ?


「……よいのですか?」


 やはり、そうくるんだな。


「お願いしても?」


「もちろんです」


 ここで出渋るようなら、そもそも正門には残っていない。


 ドガァァン!!


 と、2枚目の壁も崩れてしまった。

 当然、破壊したのは大剣ドゥエリンガーの持ち主。

 その大男が不敵な笑みを浮かべながら近づいて来る。


「……」


 どこからどう見ても術式は複雑で突破困難なイヴのアイソレーション。

 そんな隔離壁を数撃で破壊してしまったあの大男。

 当然、魔剣ドゥエリンガーの性能によるところは大きいだろう。それでも、あいつの腕は侮っていいものじゃない。


 であるなら、ここは万全を期して。


「イヴさん、後ろのシャリヌの足止めは可能でしょうか?」


「任せてください……セット、アイソレーション」


 新術は無理でも、そっちは使えるんだな。

 まったく理解できない縛りだが、まあ、これでやり易くはなった。


 よし。


「隠れてないで、こっちに出てこい」


 いいタイミングだ。


「隠れているわけではありませんよ」


 イヴをおいて、ひとり正門から足を踏み出す。


「待っていただけです」


「小癪な壁を作っておきながら待っていたとは、笑わせてくれる」


 いいぞ、好きなだけ笑ってくれ。

 その隙にじっくり鑑定させてもらうからさ。


 さて、各種ステータスは……。


 やはり軒並み高数値だ。

 特にHPとSTRが高い。

 見た目通りの攻撃型、大剣仕様の魔剣ドゥエリンガー所持者に相応しいステータスだが、それでも今の俺が恐れるほどじゃない。ただ、このスキルだけは警戒が必要だな。


 剛力:一定時間腕力強化。


 非常に端的な解説ではあるものの、さすがに曖昧すぎる。

 10%の強化なのか20%なのか、あるいは50%、100%?

 場合によっては、俺の腕力を越える可能性もあるってことだ。 

 さらに継続時間も連続使用の有無も分からない。推測すらできない。

 すべては実際に対峙してから。

 まったく、厄介この上ないぞ。


 なんて、愚痴を言っても始まらないか。

 とりあえず、戦えば色々と見えてくるはず。


 と、その前に一応魔剣の鑑定も。


「だが、いいだろう。待っていたというなら先手を譲ってやる」


「……」


「さあ、かかってこい」


 魔剣ドゥエリンガーを右手に持ち、両腕を左右に広げる余裕の大男。

 ああ、名はガイツィンガーというらしい。

 ドゥエリンガーを振るうガイツィンガーか……。


「どうした? 打ち合う前から臆してるのか?」


 そんなわけないだろ。


「なら、これでどうだ」


 両腕を下げるガイツィンガー。

 剣先は地についている。


「早くこい」


「……」


 よーし、その魔剣のことも概ね理解できた。

 ということで。


「では、先手を」


 軽く右足を踏み跳躍。

 一瞬で間合いに入り。

 その勢いのままに下段から。


 ガギンッ!


 防いだか。

 続いての中段はどうだ。


 ギンッ!


 ガンッ!


 ガギンッ!


 剣身を返しての中段2撃、斜め上段からの連撃。

 これらすべてを完璧に対応されてしまった。


「……」


 このガイツィンガー。

 どうやら技量もかなりのものがあるようだな。



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