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30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第13章 オルドウ編 2

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第768話 膜の中



「あなたは、いったい何を?」


 イヴが異世界を認識している?

 ひょっとして、日本の存在も?


 いや、しかし、この世界でそんな話は聞いたこともない。

 異世界の一片を匂ったことすら絶無。

 それに、イヴが口にしたのは普通ではない、尋常ではないという言葉だけ。

 だったら……。


「とにかく、あやしいあなたが普通ではない経緯でササリーシャ様に近づき、信頼を得て、こうして同じ館に滞在している。これはまごうことなき事実です」


 そうだ。

 露見はどうなってる?


「曲者という一語には若干齟齬がありますが、私があなたを疑うには充分かと」


 点滅。

 明らかに点滅が1つ増えてる、が、確定はしていない。


「さて、話はここまでにして」


 よかった。

 俺が異世界人だと気づいてるわけじゃないんだ。


「直接的な拘束に移らせてもらいましょうか」


 なんて安心してる場合じゃないぞ。

 イヴが威圧感を増して近づいて来る。


「待ってください」


 スキルや魔法的には格上であろうイヴ。

 手の内もまったくの未知。

 そんな相手に先を取られるわけにはいかない。

 ここはまず時間を稼いで、さらに可能なら。


「セット」


 おい!


「ストリング」

 

 問答無用かよ。


 ヒュッ!


 魔力のこもった透明の紐が現出。

 紐全体で宙に円を描き始めた。


 ヒュン、ヒュン!


 これはスキル?

 いや、魔法か?


「……」


 おそらく、ここはイヴの結界の中。

 簡単には部屋の外に出られないだろう。

 なら魔法で防ぐか、それとも?


 きた!


 シャキッ!


 収納から剣を引き出し即抜剣。

 そのまま向かってくる透明な紐に振り下ろす。


 ファシュッ!


 不思議な感触だが、手応えは間違いない。

 紐切断に成功したはず。


「剣を出してあれを斬る、か」


「……」


「では……ストリング、ストリング、ストリング!」


 現出した透明な紐3つが最前同様に円を描き。

 首、胴、脚と狙いを分けながら同時に迫ってくる。


 ファッ!

 シュッ!

 ファシュッ!


 手のひらに残るのはまたしても不可思議な手応え。


「ほう」


 感嘆の声とは裏腹に氷のような冷笑を浮かべるイヴ。

 となれば必然。


「セット」


 次撃だよな。


「チェイン」


 紐に替わり現出するのは透けた鎖。

 といっても、全貌を目視できているわけじゃない。

 感知と強化眼で何とか認識しているだけだ。

 それでも。


 ガシュッ!


 狙いを違えることなく切断も可能。


「なるほど……一味違うか」


 泰然とひとり頷くイヴ。

 この余裕、佇まい、気配。

 透明な紐も鎖も彼女にとっては力の端くれに過ぎない、そう思わされてしまう。


「セット、マインド……フィアー」


 と感じた次の瞬間には、膜?

 透明な薄膜のようなものが迫ってきた。


 ファッ!

 シュッ!

 ファサッ!


 縦横斜めと剣刃を走らせるが、紐や鎖ほどの手応えはなし。

 その感覚通り、完全には断ち切れなかった薄膜が俺を包み込んでくる。


 シュッ!

 ファッ!


 さらに剣を振るうも、既に薄膜は俺の眼前。

 

「……」


 覆われてしまった。


 目の前の光が薄れ、俺の身は仄暗さの中。

 イヴの声が聞こえない。

 まったくの無音。


 これはもう、一部の隙も無く捕らわれてしまったんだろう。

 あの魔力で作られた膜のようなものに。

 ただ、手足を動かし剣を振るっても支障は感じない。

 感知も通る。

 膜と言っても、特別な阻害効果はないのか?

 薄闇に閉じ込め、遮音するだけ?


「……」


 で、イヴはどう出る?

 まさか、このまま放置じゃないよな?


「こんなことをして、どうするつもりです?」


 膜外の音は拾えないが、こっちの声はどうだ?


「オルドウ伯家に対してはもちろんのこと、あなたにも害意など抱いてないのですよ」


 少なくとも今はイヴに対しどうこうする考えなど持っていない。

 誤解が解ければそれで充分……って、違うか。

 イヴが昨夜の超絶の侵入者なら、それこそ看過などできないからな。

 あの樹頭に立って何をしていたか、オルドウ伯家への邪心はないのか?

 とにかく、彼女の狙いを知る必要がある。

 そのためにも、まずは。


「これを解除してください!」 


「……」


「イヴさん!」


「……」


 イヴは動かない。

 俺の声が届いているのかいないのか、不動の彼女からはそれも読み取れない。

 ただそこにいる、その現実を感知が教えてくれるのみ。


「聞こえてないのですか?」


「……」


 駄目だ。

 まったく反応してくれないぞ。


 こうなれば仕方ない。

 俺が動くしか、っ!?


 前方に魔力の塊。

 音は聞こえないが、この魔質はさっきと同じ。

 透明な鎖だ!


 ガシュッ!


 さらに、左。


 ガシュッ!


 右。


 ガシュッ!


 また前方。


 ガシュッ!


 次は……終わったのか?


「……」


 今はもう魔力の塊を感じない。

 感知できるのはイヴの存在と魔力で作られたこの膜だけ。


 ん?

 膜の質が変容している?

 俺を覆っていた膜が肌を刺して……。

 内部に入ってくる!?


「!?」


 痛い。

 激痛じゃないが、とんでもなく不快な鈍痛だ。

 この痛みは、いったい?


 ……あっ!?


 全身から力が失せていく。

 体勢を維持できない。

 膝をついても耐えられない。


 ドサッ。


 倒れてしまった。


「イヴさん……」


 言葉は出る。

 柔らかな絨毯の感触もある。

 俺の五感は消えてない。

 ああ、少しなら手足も動くな。

 けれど、それもほんの僅かなもの。

 上手くは動かせない。


「……」


 マリスダリスの刻宝とは違う感覚。

 壬生伊織の揺魂とも違う。

 吾妻の五感喪失でもない。


 ある意味で緩い拘束だが、これまでに経験のない異質さがある。

 どれよりも弱く、それでいてどれよりも強力な。


「……」


 イヴが近づいて来る。

 倒れ伏す俺の一歩手前で足を止めた。


 ここでまた透明の鎖!


 今は剣を使えない。

 なら……魔法だ。


「風刃!」





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