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30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第13章 オルドウ編 2

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第763話 散策



 急用のため執務室に籠ることになったオルドウ伯と別れ湖畔の館を出た俺はササリーシャ嬢、錬金術師イヴとともにサヴィラ湖の散策をすることに。


「イヴ様、コーキ様」


 もちろん、ササリーシャ嬢の傍には侍女がつき数歩遅れて騎士も随行している。


「こちらはいかがですか?」


「心が沸き立つような美しい眺めですね」


「ええ、とても素晴らしいです」


 おそらくは20キロ程度であろうサヴィラ湖の周囲には色とりどりの花が咲き乱れ、透き通った薄青の湖水にその姿を映し出している。その様はまさに絶景。歩きながらも感嘆の声が漏れ出てしまうほどだ。


「おふたりのそのお言葉を聞けて、安心しました」


 ただし、惹きつけられるのはサヴィラ湖の絶景だけじゃない。

 数日前までとは比べ物にならないほどの生命力と活力に満ち溢れたササリーシャ嬢にもつい目が向いてしまう。


「それに、とっても嬉しいです」


 その満面の笑みは湖畔の百花に劣らぬ魅力でいっぱいだ。


「「……」」


「お気に入りの場所を楽しんでいただけるというのは、こんなに嬉しいことなんですね」


 今更ながら感慨が押し寄せてくる。

 彼女を治療できて、本当によかったと。


「ところで、イヴ様はサヴィラ湖は初めてなのですか?」


「いえ、何度か訪れておりますよ。随分と古い話になりますが」


「それは子供の頃とか?」


「ええ、まあ。ただ、この古道を歩くのは初めてですので、今は新鮮な気持ちばかりですね」


 ササリーシャ嬢に対して、こちらも柔らかで優しげな笑みを返す錬金術師イヴ。

 その様と気配は終始一貫穏やかなもの。隔意なき純粋な好意しか感じられない。 


「本道とは違い、こちらは少し奥まってますから。でも、こうして初めてをご一緒できて良かったです」


 この彼女が凄腕の魔法使い?

 相応しい魔力を隠し持ってる?


 だめだな。

 どう見ても、そうは思えない。

 ただ、鑑定の不通は相変わらず。

 俺の目に入ってくる鑑定情報の表示はこんな状態の……ん?



 ?????


レベル ??


??歳 女 人間 ??


HP  ???

MP  ???

STR ???

AGI ???

INT ???


<スキル>

??  ??  ??  ??  

??  ??  ??



 さっきまでとは違う。

 表示内容が変わり、?も増えている。

 ということは、鑑定を繰り返せば少しずつ明らかになってくるのか?

 なら……。


 いや、ちょっと待て。

 この?の羅列見覚えがあるぞ。

 特にスキル欄。

 ??が7つ並んでいる。


「……」


 通常は1つの所持すら稀とされるスキル。

 そんなスキルを7つも持つ人物がそうそう存在するとは思えない。

 つまり、彼女は……。


「コーキ様、どうされました?」


 錬金術師イヴは、昨夜庭園の樹頭に立っていた謎の超絶者なのか!?


「……」


 今も柔らかく穏やかな微笑みを浮かべるこのイヴが昨夜の侵入者?

 超絶技巧と7スキルを持つ魔法使い?

 錬金術師としてササリーシャ嬢の治療依頼を受けた彼女が?


 いや、しかし、依然として嫌な空気はまったく感じない。

 害意も絶無、漂ってくるのは穏やかな波動のみ。

 そんな彼女が夜の館に忍び込んでいたと?


 もちろん、凄腕の魔法使いなら自身の気配操作など造作もないことだろう。実際、彼女は情報を遮断し俺の鑑定を防いでもいる。


 けれど……。


 駄目だ。

 そんな先入観をもってしても、どれだけ探っても、悪意の欠片すら見つけられず。感知も勘も危機を伝えてくれない。悪意、害意がないとしか思えない。


 この穏やかな錬金術師イヴが本当に昨夜の人物だとしたら。


「……」


 そういえば、庭園での超絶者は樹頭に立っているだけだった。

 何度もやり直した離島ビーチでの時間が濃厚すぎて記憶が薄れかかってはいるけれど、そこは間違いない。シャリヌ家の間者2人の動きとは違う。明確な敵対行動はとっていなかったんだ。


「コーキ様?」


 つまり、彼女は深夜に庭園に立ち入り様子を見ていただけ?

 オルドウ伯家に対して含むところはない?



「どこか具合が悪いのですか? 顔色が少し良くないようですが?」


 っと、そうだ。

 今は散策中だった。


「……その、昨夜あまり眠れなかったもので」


 とりあえず、言い訳はしておこう。

 実際、この数十時間の過ごし方は酷いものだからな。


「えっ? 寝所が合わないのですね? 申し訳ございません、館に戻ったらすぐに替えさせます」


「いえ、この不眠は私の問題でして、部屋にはとても満足しておりますよ」


「……本当ですか?」


「はい。ですが、もう大丈夫です。今夜はよく眠れるかと」


「それでしたら。でも、何か問題ある場合はすぐにお伝えくださいね」


「その際は……お願いいたします」


「はい」


 二心なく真っ直ぐ頷く彼女の気遣いは非常にありがたいことだけれど、正直申し訳なく感じてしまう。こちらは、ずっと心ここにあらずだったのだし、今もイヴのことで頭がいっぱいなのだから。


「イヴ様も不都合があれば何でもおっしゃってください。すぐに対応しますので」


「ありがとうございます」






 このまま散策を続けていいものなのか?

 イヴが7スキル持ちの超絶者でササリーシャ嬢の命を狙っているとしたら、俺はそれを防げるのか?

 彼女のスキルや魔法に対抗できるのか?


「……」


 魔法だけでは無理かもしれない。

 だが、剣を使えば。

 剣と魔法を駆使すれば何とか……。



「あっ、見えてきましたよ」


 出ない答えに頭を悩ませイヴの動きを注視しながら歩くこと八半刻。

 サヴィラ湖に浮かぶ純白の人工物が目に入ってきた。


「あちらがお話していた小聖堂になります」


 小という文字が似合わないほどに立派で楚々清冽とした建物だ。

 これがオルドウ伯家がサヴィラ湖に誇る小聖堂。


「あの聖堂にはササリーシャ様のご先祖様がお世話になったという聖人が祀られているのですよね?」


「はい、聖人であり大魔導師でもあるエヴドキヤーナ様を祀っております」


 ん?

 エヴドキヤーナ??






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