第758話 悪あがき
「な、なにをする気だ?」
すぐに分かる。
「異能協定があるんだぞ!」
「知ったことじゃない」
「知らないなら教えてやるから、く、くるな!」
怯えているのに異空間に逃げようとしない。
ただ後退るばかり。
やはり、まだ使えないのか?
「協定だ、協定を守れ!」
だから、知ったことじゃないと言ってる。
それにそもそも、俺は異能者じゃないからな。
「おま、ひっ!」
バリ、バリ、バリ!
さあ、もう一度だ。
この雷撃スタンガンで体の自由を奪ってやろう。
「やめてくれ、それは、ああ、がガガガ!」
痙攣状態の空間異能者。
あっという間に崩れ落ちていく。
「ガガガッ、ァァ」
これでもう満足には動けないはず。
なのに、地面を這って離れようと。
「無駄だぞ」
ドスッ!
金属パイプを進行方向の地面に突き刺してやる。
「!?」
まあ、その体では逃げきれるわけもないんだが。
「……」
状況を把握したのか、空間異能者の動きが止まった。
怯えたような目で俺を見上げてくる。
怯えて諦めるのは良いことだ。
何より、おまえ自身が傷つかずに済む。
ということで。
「さあ、自白の時間を始めよう」
まずは。
「邪狼狗は生きているのか? 今もおまえの中に存在するのか?」
「……」
「そもそも、おまえと邪狼狗はなぜ身体を共有してる?」
「ぁ、ぅぅ」
もちろん、質問はこれだけじゃない。
「今回の襲撃に参加しているのはおまえとそこの剣士だけなのか?」
「あの吾妻はどうした?」
和見屋敷襲撃で組んでいた吾妻がなぜいない?
「壬生家の関与は?」
吾妻と壬生家がおまえの後ろにいるんじゃないのか?
「……」
今回もあいつらと共謀している。
彼らの姿が見えなくとも、その可能性は否定できないんだよ。
それに。
「おまえらはどうしてこの島に来れたんだ?」
関係者以外には情報が隠されているはずの俺たちの旅先。
そんな離島を知っているなんて普通のことじゃないだろ。
ということは、やはり。
「能力開発研究所の中に内通者がいる?」
囚われていたはずのこいつが自由の身になり、俺たちの休暇を狙って仕掛けてきた。このあやしすぎるタイミングはそうとしか。
「答えろ」
正直なところ、こんなこと考えたくないし鷹郷さん率いる研究所の誰かが裏切っているなんて疑いたくもない。けど、今回の件が偶然とは到底考えられないんだ。
「内通者がいるんだな?」
「……」
「東京の研究所だけじゃなく今宿にいる研究所員の中にも?」
「そいつを使って、俺たちの毒殺を狙ってた?」
ひょっとして。
「武上も……」
ついさっき、ロビーで俺を背後から刺した武上。
襲撃が自身の意志である可能性もないとは言いきれない。
けど、あの武上なんだぞ。
「……」
無知だった前回の人生でも事情を知った今回の人生でも、武上は変わることなく俺と友人付き合いしてくれた。大学内で孤立している時も、あいつだけは俺の傍にいてくれた。世話を焼いてくれた。俺が異世界に出向いてるときは、幸奈のことも護ってくれた。
そんな武上が、他ならぬあいつが俺を裏切って、凶行直前まで害意を隠して、不意打ちを仕掛けてくるなんて、どうやったって信じられないんだよ。
それに、凶行時の武上の目。
尋常の眼色からは程遠いものだった。異常としか思えなかった。
だったら、あの襲撃は武上自身の意志じゃないと考えてもいいはず。
あいつが企てたものじゃないと。
つまり、武上から正気を奪って俺を狙わせたのは……。
「内通者、異能者を使って武上を操ったのか?」
「……」
「黙ってても無駄だぞ」
「……」
「おまえには黙秘権などない。今ここで全てを吐いてもらう」
「……」
「話す気になれない、か。なら」
可能なら避けたい手段だが、こうなるとそうも言ってられない。
「話しやすいよう指でも折ってやろう」
「ぅぅ」
まずは右の人差し指を。
「ぅぅ、ぅぅぅ!」
「嫌なら話せ、今すぐにだ」
「ぅ、ぁぁ、ぅぅ!」
こいつ、話さないのじゃなく、喋れない?
雷撃が効きすぎてる?
「ぅぅ、ぅ」
そういうことなら、今は脅しても意味が無いかもしれない。
少し待つしか……ズレた!?
斜め後方に半歩のズレだ。
おまえもその異能を使えるのか?
「ぅぅ」
が、問題はないな。
慌てる必要もない。
そのズレについては十分把握してるし、何よりズレる距離が短いんだから。
「ぅぅぅ!」
さらにズレ。
3度、4度と。
「ぅぅ」
江良同様、連続行使できると。
なかなか器用なものだ。
だからといって、どうということもないんだが。
「諦めが悪いのか、時間稼ぎしてるだけなのか、どちらにしても無駄なことに変わりはないぞ」
「ぅぅ……」
「こっちも何度だって痺れさせることが可能なんだからな」
バリ、バリ、バリ!
「ぅ、ぁ!」
俺の言葉を聞いても、性懲りなく5度、6度とズレていく。
徒歩で楽に追える範囲内で悪あがきを続けている。
「ぁぅぅ」
7、8、9度と弧を描くようにズレ。
10度目にズレた先は地面に横たわる江良の真横。
「いつまで続けるつもりだ」
「……」
「そろそろ無意味なことはやめて、おい?」
空間異能者が江良の背に手を置いた。
「何を?」
江良の背の上に淡い光。
そして……。





