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30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第13章 オルドウ編 2

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第757話 協定



「うぅぅ、おま……なぜ?」


 触れた俺をなぜ異空間に飛ばせなかったか?

 それはな。


「速度と工夫だ」


 魔力を使ったからだよ。


「工夫?」


「ああ」


 以前の失敗経験から何も学ばないわけないだろ。

 もちろん絶対に防御できるという確信まではなかったし、一種の賭けではあったが、それでも分の悪い賭けではなかったからな。


「あり得ない」


 地に膝をつき当惑の声を漏らす空間異能者。

 逃げる素振りもない。


「そんなこと……」


 すぐには異空間に逃げ出せないのか衝撃で動けないだけなのか分からないが、これなら多少放置しても問題ないだろう。


 一方の江良は。


「……」


 無言で胸に手を当てている。

 そうだよな。

 回復に努めてるんだよな。


「……」


 何度も驚かされたその異常な回復力。

 本当に厄介だった。

 けど、それもここまでだ。


「来るな」


 近寄る俺を目にした江良が後退る。


「おい!」


 俺の右手には収納から取り出した黒い小箱。


「よせ、やめろ!」


 ここには俺たち3人だけ。

 里村も武上もいない。

 今なら多少の無茶も許されるはず。


「俺は幸奈の兄なんだぞ」


「それがどうした」


「なっ! おまえ!」


 江良が本当に幸奈の兄なのか、今は知る由もない。

 ただし、現状でも明らかなことはある。

 こいつが俺を殺害しようとした事実、それと幸奈自身が兄の存在について何も語っていないという2点だ。

 

 つまり、この状況において俺が躊躇する理由なんてないんだよ。


「関係ない」


「くっ」


 顔を歪めながら後方にズレる江良。

 まだそれを使えるとは大したものだが。


「無駄だぞ」


 その体勢、その余力で相手は見慣れた俺。

 効果なんてほぼ見込めない。

 だからな。


「もう眠っとけ」


 ズレる江良に飛び込み、その胸に一撃を叩き込んでやる。

 今回は掌底じゃなく。


 バリ、バリ!


「がっ!」


 掌底と見せかけた雷撃だ。


「がが、ガガッ!」


 この黒箱、スタンガンに見えなくもないだろ。


 バリ、バリ、バリ、バリ!


「ガガ、ガガガ!」


 おまえのタフさを一蹴するレベルの紫電。

 じっくり味わえばいい。


「ガガガガガガ……」


 バリ、バリ!


「……」


 全身を大きく痙攣させる江良の目から光が消えていく。

 そして、そのまま。


 ドサッ!


 アスファルトの地に崩れ落ちた。

 まだ痙攣を続ける体に意識は感じられない。

 完全に沈黙している。


「……」


 終わった。

 やっと片付けることができた。


 となれば、次は。


「ひっ!」


 顔面蒼白で慌てだす空間異能者。

 思惑通り、まだ逃げていない。

 ただし油断は禁物。

 いつ異空間に飛び込むか分かったもんじゃないからな。

 が、少しだけ答えてもらうぞ。


「邪狼狗はどうなった?」


 滅却できたのか?

 それとも、おまえの中に今も存在するのか?

 その答えを聞く前に、まずは軽く。


 バリ、バリ、バリ!


「や、やめろ!」


 痺れさせて。


「がが、ガガガ!」


 自由を奪ってやる。

 ただし、出力は低いし時間も僅か。


 バリ、バリ、バチッ……。


 おまえは江良とは違う。

 まだ眠らせるわけにはいかない。


「ぅぅぅ……」


 意識は健在。

 狙い通りだ。

 さあ。


「答えろ」


 空間異能者と邪狼狗。

 その肉体の中で分離共存しているのか、それとも一体化しているのか?

 主体が存在するのか、しないのか?


「邪狼狗はどうなった?」


 気配感知を駆使しても認識なんてできない。

 それでも、こいつらが同じ体を使っていたことだけは明らかなんだ。

 では、今は?


「生きてるのか?」


 俺が完璧に仕留めたはずの邪狼狗。

 あいつが。


「おまえの中に?」


「……」


「答える気はないんだな?」


「……」


 ただ、この沈黙は肯定に近いのでは?

 だとすれば、前回も前々回も。

 その前もずっと、俺が勘違いしてただけ?


 けど、あの時、邪狼狗の息は確かに止まっていた。

 心音も聞こえなかった。

 何度も確認したのだから間違いない、なのに……。


 まさか!?

 邪狼狗は呼吸不要なのか?

 心臓も?


「……人とは構造が違っている?」


「……」


 おまえは知ってるよな。

 だったら、吐かせてやる。

 

「っ!」


 空気の変化を感じ取ったのか、空間異能者の顔色が変わっていく。


「よせ!」


 今さら、そんな一言で止まるわけもない。


「こっちは無抵抗なんだぞ」


「それがどうした」


「異能協定だ!」


 は?


「異能協定は知ってるだろ?」


 そんなもの知らないぞ。


「抵抗放棄した異能者相手に暴力行為は許されない」


「……」


「機関の者なら協定を守れ!」


 ほんとに存在するのか?

 時間稼ぎのために嘘をついてるだけじゃ?


「おまえ、まさか……知らない?」


「……」


 暴力禁止なら自白を引き出すための拷問も禁止?

 だったら、どうやって口を割らせるんだ?

 自白剤?

 異能?


「くっ、話の分かるやつを連れてこい」


 協定が存在するなら古野白さんは知っているだろう。

 ここは拘束だけに留めて、古野白さんや近々到着する鷹郷さんに任せるか?


 いや、しかし……。


 機関はこの空間異能者を拘束していたはず。

 なのに、今こいつはここにいる。

 ってことは、逃げられたか逃がしたか。


 だめだ。

 機関を全面的に信じることはできない。


「……」


 待てよ。

 そもそも俺は異能者じゃない。

 異能機関に属してもいないただの一般人だ。

 なら、異能協定なんか関係ないのでは?


 そうだよな。

 被害者である一般人が少々の暴力を振るったところで問題なんてないよな。


 よし!


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