第756話 同じ轍
武上くんと付き合ってる?
恋人?
私たちが?
ない。
ないわよ。
でも、幸奈さん?
「どうして、そう思ったの?」
「古野白さんと武上くんの会話ややりとりを見ていると、とても自然でお互いを分かりあってるなって。だから、恋人なんじゃないかって」
それは。
「知り合って随分経つから、そう見えるだけよ」
「……」
「武上くんとは同僚として多くの任務を一緒にこなしてきたわ。それはもう数えきれないくらい。おかげで、今では彼の考えてることほぼ全てが理解できてしまう」
武上くんが分かりやすいというのもあるけれど、やっぱり過ごした時間が大きいと思う。
「なので、幸奈さんの目にそう映っただけ」
「ほんとに……付き合ってないんですか?」
「ええ、もちろん」
「でも、好意は?」
まだ食い下がってくる?
「ありますよね?」
「……友人として、同僚としては持っているわ」
それ以上が無いとは言い切れないけど。
そんな感情は心の奥底に仕舞ってある。
今さら表に出すつもりもない。
「あなたたちとは違うのよ」
「違う? そうでしょうか?」
幸奈さん……。
「仮に、仮によ。武上くんと私に気持ちがあったとしても、付き合うなんて無理だから。特に最近の彼とは」
「最近の? 武上くん?」
「ええ、ちょっとおかしいでしょ」
四六時中というわけではないけれど、それでもやっぱり気になってしまう。
「今回の休暇中もそう。幸奈さんも感じてたはずよ」
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「武上!?」
なぜだ?
「武上くん! どうして!?」
なぜ、そんなもの持ってる?
なぜ、そんな顔してる?
「嘘だよね?」
「……」
「何かの間違いだよね? だって、武上くんがこんなことするわけないから」
「……」
「ねえ、答えてよ」
「……」
「武上くん!」
武上の眼には虚ろな色。
一点を見つめ身動ぎもしない。
俺を刺したナイフを右手に持ったまま。
ということは……。
認めなきゃいけないのか?
いや、けど、あの顔は?
正気じゃない?
「痛ぅ!」
「あっ!? 有馬くん、傷は?」
あまり感じなかった痛みが、ここで増してきた。
「早く治療しなきゃ!」
「……大丈夫だ」
確かに痛みはある。
蒼鱗で護られていない箇所を刺されてる。
けど、幸いなことに致命的なものじゃない、と思う。
「治療は必要ない」
「そんなわけないでしょ」
「傷が浅いんだよ」
武上が手加減したのか?
それとも、単に運が良かったのか?
分からないが。
「浅い? その出血で?」
「ああ」
どちらにしても、最悪の事態は回避できてるはず。
それに今は、俺の傷より優先すべきことがあるだろ。
「そんなに血が出てるのに?」
「あとで治療すればいい。だから今は」
この武上と……江良!?
「無茶すんなって」
こいつ、いつの間にか距離を取ってる。
「顔色悪いんだからよぉ」
さっきまでのダメージはどこいった?
「無理し過ぎると、大変なことになるぞ」
そっちこそ無理を?
「もう手を引けって、な?」
「……」
「俺としても、弟になる男を亡くしたくないんだぜ……つうことで」
どの口が言……駆け出した!?
「有馬くん?」
もちろん、逃がしはしない。
が、その前に。
「武上、眠ってもらうぞ」
「……」
変わらず虚ろな武上の胸に掌底一発。
身体強化なしのおまえならこれで充分だろ。
「うぅぅ」
狙い通り。
床に沈んでくれた。
「里村は武上から離れてろ!」
「でも」
「すぐ戻る。だから、安全な場所で」
待っててくれ。
「……」
もちろん、里村ひとりでは安心できない。
武上と里村を放置したくもない。
けど、今は江良を追うしかないんだ。
「古野白さんの部屋に退避してもいいからな」
どうやってでもいいから、無事でいてくれ。
「……うん、分かったよ」
よし。
「有馬くんも気をつけて」
「ああ」
里村の言葉を背に玄関へ走る。
先行する江良には離されてしまったが、それでもまだ間に合う。
追いつける。
ただ、宿の外へと追跡するこの展開はまた前回と同じ。
つまり、前回を辿る流れの先。
そこに待つのは、まず間違いなく空間異能者の登場なんだろう。
「おい、おい、無理すんなって」
前回と同じ路上を駆ける江良。
「追っても無駄なんだからよ」
この状況にそのセリフ。
まずいな。
その時が近づいてる。
とはいえ、数秒は残ってるはずだ。
なら、その時間で何とか。
「はぁぁぁ、しょうがねえ」
ここで笛?
早い!
「ピィィィ」
響き渡る高音。
空間が。
「追いかけっこはここまでだな、弟」
裂けた。
中から手が伸びてくる。
「……話が違う」
「わりい」
その手を江良の右手が……。
ガツッ!
「痛!?」
掴ませはしない。
ガツッ!
「な、何を!?」
投石に見せかけた石弾2連発が江良と空間異能者の腕に命中。
さらに、手を掴み損ねた江良の肩に。
3発目。
ドガッ!
できるなら避けたかったが、こうなれば仕方ない。
「ぐっ!」
同じ轍は踏めないからな。
「これ、は……」
「石だ」
ただし、そこらの石じゃない。
たっぷり魔力の石弾なんだよ。
「何してる江良、さっさと掴め!」
「お、おう」
当然、連射もできる。
ガンッ!
ガッ!
「うっ!」
「っ!」
4発目、5発目も命中。
と同時に間合いの中。
ドンッ!
江良に掌底を入れて。
「出てこい!」
ドサッ!
空間異能者を裂け目から引っぱり出してやる。





