第755話 内緒話
幸奈が俺を襲った江良の妹。
2人が兄妹。
血の繋がった実の兄妹。
あり得ない。
信じられない。
そう思う心とは裏腹に、どこか腑に落ちるところも……。
幼い頃に和見家の養女として引き取られた幸奈には当然実の親が存在する。
その実親の姓が江良なのかどうか、俺は知らない。
けど、今目の前にいる江良の顔。
こいつの顔の造りが幸奈に似ているんだ。
「……」
厠の中で大笑いする江良を視認した時に感じた奇妙な感覚。
既視感のような違和感。
その理由がこれだったのか?
だとしたら、本当に……。
いや、仮に事実であったとしても、それがどうした。
今のこの状況は何も変わらない。
空間異能者と手を組み、俺の命を狙ってきた江良を放置なんてできるわけないのだから。
そう、混同することじゃないんだ。
なら、まずはこいつの意識を奪って、拘束して。
すべてはそこからだろう。
と、掌底を構え直した俺の背中に。
ドスッ!
鈍い衝撃?
これは?
背に感じるこの痛みは、まさか?
「……」
そんなはずないよな。
江良は俺の目の前にいる。
後ろに敵なんていない。
敵の気配なんて存在しないんだ。
なのに……。
振り返った俺の目に入ってきたのは。
「武上!?」
おまえ??
「武上くん! どうして!?」
見たことのない表情を浮かべる武上の姿だった。
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<古野白楓季視点>
「古野白さん、お先に失礼しました」
浴室から出てくる幸奈さん。
随分と早い。
「もういいの?」
「はい、わたしは功己ほど汚れてなかったので」
「そう」
「古野白さんもシャワー浴びます?」
「いいえ、やめておくわ」
「では、もうロビーに?」
「まだ早いわよね。なので、少し話をしましょ?」
「話ですか?」
「ええ」
ずっと幸奈さんに聞きたかったこと。
皆がいる場所では話しづらいだろうことを、今のこの機会に。
「幸奈さん、あなた有馬くんが秘している隠し事を知っているわよね?」
「……」
「私たちには話してくれない有馬くんの隠し事を?」
「あの、それは……」
平静を保とうとしているけど、明らかに目が泳いでる。
これはもう、間違いない。
「話したくないなら拒否してくれていいわ。でも、話せるなら話してほしいの」
「……」
「有馬くん今日は朝からずっとおかしかったし、話す内容もいつもと違って矛盾が多いわよね」
「……」
「幸奈さんも、それは感じてるでしょ」
「……はい」
「彼、何か重大な秘密を抱えてるのだと思う」
「……」
やっぱり幸奈さん、何かを知ってる。
「誰にでも隠したい秘密の1つや2つあるのが当然。実際、有馬くんも自身の超人的な力については決して口を開いてくれないから」
でもね、今はそれを見過ごせる状況じゃないの。
「だから、その力については聞こうと思わないわ。というか、聞いても教えてくれないだろうし」
「……」
「幸奈さん、私が知りたいのはこの島で今日何が起こっているのか? これから何が起きそうなのか? それだけよ」
この反応。
もう一押しすれば。
「大揺れや地盤沈下、異形出現なんて異常事態が群発する状況を看過なんてできない。特に今は、鷹郷さんたちのいないこの島ではそうでしょ」
「……」
「武上くんたちに隠したいなら、ここだけの秘密にするわ。ねえ、幸奈さん、お願い。話せるなら話して」
「その……知らないんです」
「えっ?」
「わたし、今日のことについては聞けてなくて……。だから、古野白さんが把握している以上のことは」
「そう、なの?」
ということは、知っているのは有馬くんの力の秘密。
そっちだけなのね。
「……ごめんなさい」
「あっ、幸奈さん、謝らないで。謝るのは私の方よ。無理強いしてごめんなさい」
「そんな! 古野白さん、無理強いなんてしてないです」
「だったら、許してくれる?」
「許すも何も、わたし気にしてませんし」
「ありがとう」
「いえ……」
「でも、幸奈さんが知らないとなると、有馬くん本人に聞くしかないかぁ」
「そうなりますけど」
「難しいわよね」
「多分……」
「はあ~、教えてくれなきゃ対処のしようがないのに」
「……」
「有馬くんのことだから全部ひとりで片付けるつもりなんでしょうけど、今回はどう考えても非効率的よ」
「あの、わたしからも状況を説明するように話してみます」
「ありがと、助かるわ」
簡単じゃないでしょうけど、今は幸奈さんの頑張りに期待するしかない。
「ところで、幸奈さんが知っているのは……有馬くんの力の秘密?」
「……」
「さすがの彼も恋人には隠しておけないのね」
「えっ! 違います、恋人じゃないです?」
「そんなことないでしょ? この島に来てからの2人の様子を見てたら明らかだと思うんだけど?」
「違います、今はまだ幼馴染なだけで」
「今は? まだ?」
「あっ!」
真っ赤に染まる幸奈さん。
ほんと、可愛いわね。
「大丈夫、有馬くんもきっと同じ気持ちよ」
「……でしょうか?」
蚊の鳴くような声。
こういうところも可愛らしい。
だから、ついつい話してしまう。
こんな状況なのに。
「間違いない、保証するわ」
「……」
「恋愛成就ということで、どう?」
「はい?」
「有馬くんの力の秘密教えてくれない?」
「それ、聞こうとは思わないって言ったじゃないですか」
「言ったかしら?」
また私らしくないことまで口に。
「言いましたよ」
でも、悪くないかな。
「ふふ、ふふふ」
「もう! そういうことなら、わたしも聞きますよ」
「ふふ……どうぞ」
大きく深呼吸する幸奈さん。
やっぱり可愛らしい。
「古野白さんこそ、武上くんと付き合ってるんですか?」
えっ??





