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30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第13章 オルドウ編 2

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第753話 切り札



「仕方ねえ」


 苦々しく顔を歪め。

 駆け出そうと。


 ガンッ!


 やはり今回も逃げ一択か。


「退け」 


「退くと思っているのか?」


「……」


「逃走は諦めた方がいいぞ、傷が増える前にな」


 確かに江良は手強い。

 負傷しながらの逃走にも手を焼いている。

 それでも、今の万全じゃないこいつに後れを取ることはないだろう。

 ここで数合も打ち合えば十分に捕縛も可能なはず。


「退け!」


「何度言っても無駄だ」


「……」


 今ははっきりと感じ取れる江良の気配。

 それが強く鋭く、まるで質量を持つかのように圧してくる。


「……無駄、か」


 弾けた?


「はぁぁぁ」


 大きなため息。

 とともに、眼前の空気が弛緩していく。


「っとによぉ、話が違い過ぎるぜ」


 殺気も剣気も霧消している。


「なあ、ここいらで手打ちってのはどうだ?」


「和解? おまえと俺が?」


「ああ、そうだ」


「この状況で……あり得ないな」


「そうかぁ? 俺はまだまだやれるんだぜ」


「……」


「おまえの仲間を襲うことだってできる」


 不敵に嗤う江良。

 そこには焦りも悲壮感もない。

 ということは虚勢でも駆け引きでもなく、まったくの本心?

 そう考えるべきなのか?


「おまえだって無傷じゃすまないと思うぞ」


「……」


 俺ひとりなら、どうとでも対処できる。

 仮に江良が奥の手を隠していようと致命的なことにはならないだろう。

 隠し手なら俺の方が多いのだから。


「お互いここらが潮時だろ」


 ただ、その切り札で武上を狙われたら?


「手打ちとなりゃ、こっちはおまえらには手を出さない。今後ずっとな」


 ならば、ここは。


「……教えろ」


「ああ?」


「なぜ俺を襲ったのか? おまえの裏には誰がいるのか?」


 正直に白状すれば。


「そうすれば考えてやる」


「残念ながらそれはできないな。守秘義務ってもんがあるんでね」


「つまり、依頼人がいると?」


「……」


 いいだろう。

 話すつもりがないなら。


「依頼人は他の異能者なのか?」


 反応を見させてもらおう。


「野良の異能者? それとも異能の権門?」


「……」


「異形とも手を組んだのか?」


「……」


「大異形邪狼狗と、それも空間異能者と一体となったあいつと?」


「っ!?」


 この反応、間違いない。

 江良は全てを理解している。


「なぜだ?」


「……」


 消えていた剣気が蘇ってくる。


「答えられないなら、手打ちはなしだ」


 どす黒い殺気も。


「……」


「どうした? また逃げるか? それとも?」


 現状、武上はロビーの端。

 俺と江良がいる入り口付近からは離れている。

 里村は厠の……!?


「有馬くん?」


 出てきたのか?


「どうして外に出た?」


「だって……」


 言葉に詰まる里村は奥の厠に繋がる通路の上。


「心配だったから」


 厠での単独待機が落ち着かないのは理解できる。

 けど、おまえはさっきの戦闘を見てただろ。

 なら。


「それに、他の異能者や異形がいるかもしれないし」


「……」


「有馬くんや武上くんの近くにいた方が安全かなって」


 前回までの経験から、この時点で存在を確認できているのは江良と空間異能者のみ。今はロビー周辺に怪しい気配もない。だが、江良の気配消去やあいつの空間を渡り歩く異能を考慮すると、その危険もあながち否定できるものじゃない。であれば、里村の言い分も。


「心配いらねえぞ、有馬」


 ロビーの端にいた武上が里村のもとに近づいていく。


「オレが里村を護ってやらぁ」


「武上くん?」


「大丈夫だ」


 大丈夫も何も、おまえは視認できてないよな。

 他の敵ならまだしも、江良が襲ってきたらどうするつもりだ?

 そんな状態で護るなんて。


「ってことで、そっちは任せたぞ」


「……」


「おまえならできんだろ」


「……」


「なあ、有馬?」


 そう。

 その通りだ。


「ああ」


 江良の動きは俺が制御すればいい。

 そうすれば大過なし。

 仮に新たな異形や異能者が現れても、余程のことがない限り対処も可能なはず。

 だから武上。


「里村を頼む」


「おうよ」


 これでもう、俺は目の前の敵に集中するのみ。

 その江良は。


「……」


 刺すような剣気と殺気を身にまとったまま俺を凝視している。

 それでいて、顔に浮かぶのは薄気味の悪い嗤い。


「……」


 最前の脅し文句とは裏腹に武上と里村に意識を向けるそぶりはなし。

 逃走の気配も皆無。


 つまり、江良の狙いは俺ひとりってことだろう。

 はは、願ったり叶ったりじゃないか。


「ふっ」


 口の端が大きく歪んだ。

 直後。


 ダッ!


 床を蹴る江良。

 神速の攻めだ。


 シュッ!


 負傷してなお衰えぬ速度で間合いを詰め、中段から放つ一撃。

 やはりキレは素晴らしい。

 ただし、今回も振るうのは利き腕じゃないからな。


 カッ!

 ギンッ!


 こうして難なく対応できる。

 短剣と金属パイプで余裕を持ってさばくことができる。


 ガツッ!

 ガンッ!


 とはいえ、そんなことは江良も承知してるはず。

 つまり、狙いは他にある?

 ズレるのか?

 違う切り札か?


 ガギッ!

 ガンッ!

 

 正直、何を仕掛けてくるか気になる。

 受けてみたいとさえ思ってしまう。

 が、今回は俺ひとりの戦いじゃない。

 失敗は許されないんだ。

 ならば、仕掛けの前に……!?


 ズレだ!

 攻撃でズレを!


 ヒュンッ!


 左方から隙をつく刀閃が飛んでくる。


 ガギッ!


 ギリギリで間に合った、が。

 またズレた。


 ヒュッ!


 次は左後方。


「っ!」


 紙一重で回避成功するも、まただ。


 ガンッ!


 さらに4回目。


 シュンッ!


 5回目。


 ガギッ!


 6回目。

 掴んできたぞ。


 ギンッ!


 7回目。


 ガンッ!


 8回目。

 ここだ。


 ガギンッ!

 

 短剣で刀を大きくはね上げ。

 パイプを腹に。


 ドガッ!


 決まった!





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