第747話 へっ??
今の剣振は明らかにさっきより素早かった。
それでいて、これが限界とも思えない余裕がある。
神速の異能、想像以上に厄介かもしれないぞ。
っと、動いた。
次はあいつの仕掛けだ!
そう知覚した瞬間に、もう白刃は視界の端。
シュッ!
半身を捻ってやる。
その上を鋭い剣圧を持って銀閃がかすめていく。
回避成功だ、が、刀身が返って次撃が飛んできた。
ヒュン!
やはり速い。
それでも、焦るほどじゃない。
短剣でも充分対応可能だ。
キィン!
おっ!
撫でるように払った短剣を通して手のひらに衝撃が走る。
キン!
ギン!
こいつ、速さだけじゃないな。
ギン!
キィン!
ステータス通りの敏捷性に加え、重さも技量も併せ持っている。
鑑定直後は速度特化の剣士だと考えていたが、どうやら俺の見当違いだったようだ。
ギン!
ガン!
理にかなった体捌きに見事な刀使い。
こうして白刃を交えていると、否応なくその高技術が伝わってくる。
それでもだ。
ガン!
ガンッ!
さすがに、これは重すぎだろ。
どう見積もっても、ステータス以上の力が出てるとしか思えないぞ。
ということは、これも神速の効果なのか?
あるいはステータスさえ凌駕する腕前?
キン!
ギン!
キン!
と考えている間も手は止まらない。
繰り出す刀撃を防いでいく。
キン!
キン!
ガギン!
高速かつ高技量持ちだとしても、防ぐことだけなら問題はない。
ただし、こうして受けに回ってしまうと、なかなか反撃ができないんだ。
特にこの短剣じゃあな。
キン!
キン!
キィィン!
「……」
止んだ。
連撃が止まった。
けど、今回は距離を取らず。
理合いから1歩だけ離れた位置で得物を下段に構え、わずかに切っ先を揺らしている。
「……」
その仕草に隙は一切なし。
こちらを誘うように出方を見ている。
甘い罠だ。
不用意に踏み込めば、その瞬間にしっぺ返しを喰らう可能性が高い。
「有馬くん?」
背後から、里村の小さな声。
「動くなよ」
短く言い切る。
視線は江良から外さない。
なのに、瞬間。
消えた!?
床を蹴る動きすらなく!!
これは無気配と神速の融合?
まずい、が、今なら。
見切るより早く、短剣を横に滑らせる。
ギィンッ!!
強烈な横薙ぎの一閃を受け火花が散る。
ギリギリだった。
それでも、何とか防ぐことができた。
ギギッ!
完全に想定以上だ。
この驚異的な技のままに江良が。
ギギギッ!
刀身を押し付けてくる。
その力も目算以上。
「っ!」
鍔迫り合い。
いや、こちらに鍔はないか。
ギギッ、ギギ……。
とにかく、刃と刃が直接噛み合った均衡が続いていく。
もちろん押し負けはしないが、このままじゃ短剣がもたない。
ギギギ、ギギ、ギッ。
日本刀と短剣。
刀身がぶつかる均衡を崩すには、わずかな隙を見つけて。
……ここだ。
咄嗟に足を引き、相手の力を逃がす。
同時に短剣を返し、刃を滑らせる。
シュッ!
よし、はまったぞ。
「!?」
江良は体勢を崩した状態。
ならば、ここでいったん離れる?
そんなわけないよな。
そう、反撃だ。
崩れた懐の内側に潜り込み。
短剣の利を活かした一撃を!
「なっ?」
ずれた!
動いたんじゃない。
江良が半歩だけ消えるようにズレたんだ。
ヒュンッ!
短剣が空を切る。
絵に描いたような空振り。
そこに、右手を振るった間隙に、江良の刀身が迫る!
首に向かって!
短剣は間に合わない。
身を反らすしか。
「くっ!」
眼前を刃が通過。
髪を数本持っていかれた。
が、首は無事。
「……」
敵は刀身を振り上げた体勢。
短剣を持つこっちの右手も戻ってない。
けれど左手は空いている。
ならば。
ドゴンッ!
掌底だ。
「……」
苦悶の表情を浮かべながらも無言の江良。
意識も戦意もまだ健在。
そうだよな。
掌底なんかじゃ、おまえは終わらないよな。
だから、これだ。
追撃の短剣で決着をつけてやる。
ヒュンッ!
絶好の状況。
完璧な間合い。
完璧な一振り。
なのに、当たらない。
またズレたんだ。
それも連続で。
「……」
結果、江良は5歩離れた位置に立っている。
「……」
序盤から分かっていたことだし、ここまで再三感じてもいた。
だが、その知覚も甘かったようだ。
こいつの戦闘は桁が外れてる。ステータスなんかで測れるものじゃない。あんな数字はるかに凌駕してるじゃないか。
「……」
もちろん、ここまでの戦闘は神速の異能ゆえのものなんだろう。が、それでも、決して広くはない厠空間で長物を自在に振り回し、変幻自在の動きを見せつけてくるこの技量。短剣に加え掌底まで使っても倒し切れない強靭さ。これはもう、想定の数段上の相手と考えるべきだな。
「……すごい」
この江良を短剣で倒し切らなきゃならない。
厄介極まりないぞ。
が、とりあえず今は、いったん呼吸を整えよう。
そして短剣のチェックだ。
「すごい!」
さっきから戦闘用短剣のように扱ってはいるものの、こいつはただの料理ナイフに過ぎない。いくら魔力で強化していても、あの重い連撃を受け続けていつまでも耐えられる代物じゃないからな。
「有馬くん、凄いよ!」
剣身は……。
内部は……。
「あんな剣士相手に、日本刀相手にナイフで渡り合うなんて凄すぎる」
大丈夫だ。
まだ十分に使える。
けど、微かに痛みも出始めてるな。
これだと……。
「体術だけじゃなかったんだね」
そう長くは戦えないか。
なら……。
「でも、どうしてナイフなんか使えるの?」
「……」
「どこでナイフの使い方身につけたの? 有馬くん?」
「……里村」
この状況でどうしてそんな顔してられるんだ?
危機感はどこいった?
「あっ、短剣術なのかな? だったら、海外とかで?」
「……違う」
「えっ?」
「通信教育だ」
「へっ??」





