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044 キング

 キングの登場は場を騒然とさせたが、浮き足立たせることはなかった。

 想定の範疇だったからだ。


「事前の作戦通りにいくぞ!」


 ロイドが叫んだ。


「俺とハルカちゃんのグループは処理が終わってるから引き継ぐぜ!」


 ルシアスたちと一緒に戦っていたA級PTのリーダーが言う。


「任せたぞ!」


 ロイドはPTメンバーと共にキングに突っ込む。

 キングに他と合流させない考えだ。


「ロイドPTの代わりとしてアースドラゴンの掃除をするぞ!」


 ルシアスたちは「おう!」と頷き、走り出す。

 そして、先ほどと同じ要領でアースドラゴンを狩り始めた。


「うはっ、なんだその武器!」


「アースドラゴンの皮膚を突き破るとかとんでもねぇ威力だな!」


「一流の弓使いに並ぶ攻撃力に加えて圧倒的な連射速度……たまげたな」


「流石はハルカちゃんのスペシャルだ」


 ロイドPTと同じグループだったB級PTの面々がアサルトライフルに驚く。


「こいつら発明家なんだってよ」


 A級PTの冒険者が言った。


「ほっへぇー! 世の中には便利な発明をする奴もいたもんだ!」


 話しながらも順調に戦いが進む。

 そして、ルシアスたちはドラゴンの殲滅に成功した。

 他のグループも殲滅を終えているか、もしくは残り1体だ。


「よし、俺たちもロイドPTに加勢しよう」


 ハルカが「賛成よ」と同意する。

 B級PTのリーダーも頷いた。


「行くぞ! キング狩りだ!」


 と、その時だった。


「あ! 待て!」


 他所のグループから声がする。

 ルシアスたちが振り向くと、そこには逃げるドラゴンの姿があった。

 そいつが最後の1体だ。


「逃がすかよ!」


 ルシアスはすかさずアサルトライフルで銃撃する。

 しかし、まともに捉えることができない。

 遠すぎた。

 それに当たったところで倒しきることはできなかった。


「ザコは無視しろ! キングをやるぞ!」


 ロイドが言う。


「「「了解!」」」


 全グループがキングとの戦いに参加する。


「これだけ大きいと遠慮無く撃てるな」


「ですねー!」


 ここでもルシアスとミオは後方からの射撃に徹する。

 ドカドカと銃を連射して、キングの頭部付近を狙い撃ちにした。


 攻撃はことごとく命中している。

 それでも有効打にはほど遠かった。

 キングの皮膚はザコよりも更に頑強だからだ。


「ルシアス君、もっと強い銃はないんですか?」


「あると思うけど、ここでスマホを使うのは気が引けるな」


「たしかに……」


 ルシアスがスマホの操作を躊躇う理由はいくつかあった。


 まず、操作中に敵の攻撃が来た場合に対処できないこと。

 今ですら狙われたら十中八九で逃げ切れない。


 次にスマホをいじっている時間は攻撃できないこと。

 スマホを知らない周囲の連中からは遊んでいるようにしか見えない。

 こんな状況でそれはいかがなものか、という思いがあった。


「今日の主役は俺たちじゃない。俺たちは先輩方の邪魔にならないよう気をつけながらアシストするのが役目だ。今のままでいいだろう」


「それもそうですね」


 ルシアスとミオはアサルトライフルによる銃撃を継続した。

 だが、結果的にこの判断が大きな誤りとなってしまう。


「ようやく動きが鈍ってきたな」


 100人がかりの総攻撃によって、キングが弱りだした頃だ。


「ヴォオオオオオオオオオオオオオオオ!」


 再び遠目に見える山から咆哮が轟いた。

 これは想定外のことで、誰もが「なんだ?」と首を傾げる。


「あ、あれは……」


 最初に気づいたのは経験豊富なロイドだ。

 山からキングと同等の大きさをしたドラゴンが飛んでくる。

 見た目は似ているが、皮膚の色がまるで違っていた。

 アースドラゴンやキングが茶色なのに対し、そのドラゴンは赤色だ。

 そして、そいつの後ろには先ほど逃げたアースドラゴンの姿があった。


「クイーンだ!」


 ロイドが叫ぶ。

 新手のドラゴンはキングの嫁――アースドラゴンクイーンだった。

 指定ランクはA級――ではなく、レジェンド級。


 レジェンド級とは、出現タイミングがランダムの敵を指す。

 主にA級の大ボスと同等以上の戦闘力をもった敵が該当する。


「まずいぞ! 早くキングを倒せ!」


 ロイドが血相を変えて叫ぶ。


「急げ急げ!」


 一同は安全性を捨てて攻撃に特化する。

 それによって何人かが負傷するが、それでも気にしない。

 しかし、残念ながら間に合わなかった。


「グィイイイイイイイイイン!」


 クイーンとザコが戦場に辿り着いたのだ。

 よく見るとザコの体が光を放っていた。

 キングの体も光り始めた。


「クソッ、間に合わなかったか!」


 ロイドが表情を歪ませる。


「間に合わなかったってどういうこと?」


 ルシアスはハルカに訊いた。

 彼とミオだけはクイーンのことを知らなかったのだ。


「クイーンは近くにいるアースドラゴンとキングを強化する特殊能力を持っているの。ドラゴンとキングの体が光っているのは、クイーンの能力によって強化された証よ」


「なんですとー!?」


「今のドラゴンはA級の中ボス相当の強さがある。そしてキングは」


「A級の大ボスより上ってことか……」


「その通り。さらに厄介なのが、クイーンもキングと同等の強さってこと。しかも、キングにはクイーンを強化する能力がある。なので、キングだけじゃなくクイーンも強化されているわ」


 100人がかりでも倒すのに苦労したA級の大ボス。

 それが2体に増えた挙げ句、さらに特殊能力で強化されてしまった。


「おいおい、そんなの、絶望的じゃないか」


 ルシアスの顔が青ざめる。

 とはいえ、彼とミオは他に比べると絶望していなかった。

 先輩方ならこんな状況にも対応できるだろう、と思っていたからだ。

 しかし、それは間違いだった。


「ええ、絶望的よ。おしまいだわ」


 ハルカが辛そうな表情で言う。


「「えっ」」


 固まる二人。


「よりによって例年の半分すら参加者がいねぇっていうにキングとクイーンのセットを引くかよ」


「もう少し長生きしたかったぜ」


「くそったれ……! どうしてこうも俺は不運なんだ」


「遺書を書いてくればよかったな」


 誰もが死を覚悟していた。

 その様を目の当たりにして、ルシアスとミオは遅れて絶望する。

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