第三十八話
・・・・さて、どうしたものか・・・・
壁に空いた穴を、俺は寝そべりながら眺めていた。
おそらく、まだこちらを何処からか観ている。迂闊に頭でも出せば
ぶち抜かれるだろう・・・そして気になるのは相手の腕前だ。
素早く来た道に帰れればいいが、あの重い防火用の扉を開けて中に
入るだけの時間をくれるだろうか? 動くものを瞬時に判断して
狙撃できるほどの奴なら、下手に動くのは危険だ。
手に持った砕けたペットボトル。試しに俺は隠れている場所から
放り投げてみた。
・・・ポコッ・・・・・・・・
・・・・コロコロ・・・・
・・・反応が無い。まぁそうだよな。・・・・困った。本当に策が思いつかない。
せめて狙撃している正確な場所が分かれば、考え方もあるかもしれないが・・・
バシュンッ!
突然、隠れていた机に穴が空き、乾いた音が聞こえた。
やばい・・・隠れている場所の見当は付いている。適当に撃って
壁ごと俺を撃ち抜こうって腹積もりだな。
また一発、机に穴が空いた。今度は俺が隠れていた場所の机だ。
次は当てられるかもしれないな。あまりいい判断じゃないが、
牽制も兼ねて、適当に弾をばらまくか。こちらが銃を持っていると分かれば
身を隠すだろう。うまくいけば隠れた隙に扉を開けて逃げられるかもしれない。
俺は机から銃だけを出し、周囲にばらまくように動かしながら引き金を引いた。
どうだ? 少しは警戒してくれただろう。俺は空いた机の穴からそっと覗いた。
すこし距離があり、はっきりとは分からない。だが、一瞬だけ何かが動いたように
見えた。向かい側の部屋、崩れた天井が壁のようになっているその陰。
おそらくはあれだろう。
敵の位置が把握出来た。 よし、やるぞ。
弾倉に弾を込め、銃にセットする。さて・・・・
ガガガガガガガガガガガガッ!!
机から飛び出し、向かいの部屋に銃口を向け、引き金を引いた!
激しく飛び散る薬莢。壁にみるみる穴が空き、崩れ、周辺に煙が舞う。
全弾撃ち尽くした。どんな人間でもこれだけ撃ち込めば、不用意に身を
乗り出す事はしないはず。俺は持っていた銃を肩に掛け、重い扉に手を掛けた。
ギシギシと音を立てて、扉は開いていく
・・・間に合った!
バシュン!
扉を開け、体を入れた瞬間、激しい金属音がした。
扉が締まり、俺はその場に座り込んだ。緊張した・・・
あいつはなんだ? おそらく胸を撃ち抜かれた死体の部屋で見た奴だろう。
俺を狙ってきたが、あの距離なら俺を殺して所持品を
物色とはいかないだろうに・・・ともあれ、早くここを離れるか。
来た道を戻り、再び死体のあった部屋に戻ってきた。
俺を狙撃した奴がここで足元だけ見たやつだと仮定して、
向こうに通じる道が何処かにあるはず、俺は部屋を見回した
部屋の隅、ライトで照らすと、そこには大口のダクトがある。
大人一人くらいならなんとか通れそうだ。
ダクトは入り組んでいる。そのダクトを出た先は小さな部屋だ。
大きいラックが置かれ、何やら見た事もない薬品が並べられている。
食べれそうな物は無い。緑の薬があればとすこし見たが、
どうやらそれも無いようだ。俺は部屋を出ようとドアノブに手を掛けた
その瞬間、ドアノブが回り、扉が開いた! 肩に掛けた銃を手に取るが
構える間もなく、俺に覆いかぶさるように何かが飛びかかってきた!!
先ほど水の中で遭遇した化物が今、目の前に覆いかぶさっている。
咄嗟に持った銃に噛み付かれ、動けない状態だ。この化物の腕の力は
大した事は無いが、噛む力は凄まじい。目の前でみるみる銃が歪んでいく!
俺は銃を両手で持ち、薬品の並んだ棚に押し込んだ!!
いくつかの薬品が割れ、この化物の体に当たる。
ギギギギギギギギィィ・・・・・・・!!!
虫のような鳴き声が部屋に響く。そして俺を掴んでいた手から力が抜けていくのが
わかった。ダラリと落ちる手。噛んでいた口元がゆっくり開いていく。
・・・死んだ? 俺は歪んだ銃を離した。地面に転がる銃。反応がない・・・
どうなったのかは分からないが、とりあえずこの場を急いで出よう。
俺はこの化物を睨みつけながら後退し、扉を開けた。
しばらく廊下を歩くと、光が見えた。俺は廊下の壁に張り付き、外を覗く。
陥没した場所が壁のようになっている。だが目の前に瓦礫がいくつも重なり
急な坂となっていた。すこし骨が折れそうだが登れない程、急なものでもない。
俺は足を掛け、一歩一歩登っていく。
登りきった先、俺は振り返り辺りを見回した。
そこにはビルごと地面が落ちた形跡があった。陥没した地面に水が溜まっている。
よくこのビルは倒れないで、そのままつったっているなと感心する。
ふと、ビルの崩れた部分、先ほど俺が狙撃を受けた部分に目がいく。
そこで何かが光っている。あんなに光る物があの場所にあったのか?
いや・・違うッ! 一瞬、時間の流れが遅くなるのを感じた・・
俺はその場所から飛び退いた!! 次の瞬間、地面に穴が空き、
煙が立ち込める。 さっき狙撃してきた奴があの場所まで移動していたのか!?
俺は近くにあった民家まで大急ぎで走った!
途中、何度も撃たれ、地面から煙が上がる!
はぁ・・はぁ・・
民家を盾に身を隠した。この位置からなら撃ってこれないだろう。
俺は民家の陰に隠れつつ、この街を離れた。
執念深い奴みたいだな・・・
二度と出会わない事を祈るよ。




