第三十九話
気が付けば日は落ち、辺は薄暗くなっていた。民家がちらほらみえ、
その周辺に何かが動いている。ゾンビだ。歩いている。
別段何かをする訳ではないが、この辺にはあのように民家近くを
うろつくゾンビがいるみたいだ。俺に気付けば襲って来るかもしれない。
先手を打ちたいが、変に手を出して周辺のゾンビが寄ってきても迷惑だ
どうしてもって時に対処するか。
銃を構えつつ、入れそうな民家に入り、俺はめぼしい物を物色する。
だが、先客が多くいたのだろう。家の中の壁や家具等は
損傷無く綺麗なのだが、食べ物や衣服といったものは、
跡形も見終えない。代わりに汚い足跡が点々と家のフローリングや畳に見える。
部屋の中に入れば、ゾンビに遭遇する。外にあれだけうろついているのだから
中に居ても不思議ではない。だが、どういう訳だか、家の中にいるゾンビも
俺が入っても反応が薄い。いや、薄いどころか完全に無視している。
惚けながら部屋の片隅に座っていたり、廊下ですれ違っても、顔すら
見ようとはしない。以前にもこんなゾンビはいた。襲う気がまるでないゾンビ
ゾンビには個体差があるのは感じていたが、ここのゾンビは本当にただぼーっとしている。
放って置いていいとも思えないが、襲ってこないのであれば、それに越したことはない。
しばらく周辺の民家を回って、安全そうな一軒を探した。扉もしっかりと締まり、
窓ガラスも割られていない民家。中にあった家具で一階の玄関戸や窓にバリケードを築く。
それから二階へ移動し、そこで俺は今日手に入れた物を広げる。
手に入れたのは・・
梅干と、ピーナツ
うん。
無いよりはましだね。
早速食べるか。まずはピーナッツから。袋はかなり汚れている。
いつ頃からあったのか、パッケージの印字等は掠れて読むのもやっとだ。
こんな物を食べて大丈夫か怪しいが、今までの「感」ってやつが俺の中で
コレは大丈夫だと言っている・・・・。
うん・・・
とりあえず中を開けよう。俺は袋を開けた。
袋を開けて香る甘い香り。この香りは・・・バターだ。
バタピーか・・・酒の肴には最高の一品。まぁお酒は今は無いが。
俺は袋に口を付け、豪快に口の中に流し込んだ。
ボリボリボリボリボリボリ・・・・
いい歯ごたえ。少しきつめの塩っけと、バターの風味。そして甘さ。
口の中でいつまでも転がしておきたい味だ。そしてバタピーを食べた後に
来る喉の渇き・・・これが酒を進める。
今は酒はないので、とりあえず水で喉を潤す。う~ん酒が恋しい。
酒は無くともバタピーはうまいな。腹にもそこそこ貯まる。
さて次は・・・
梅干だ。小さなタッパー容器に入っていて、タッパーの蓋に付けられた「うめぼし」のタグ
市販のものではないと思う。自家製だろうか? 見る限りでは保存状態は
いいようにも感じるのだが・・・。一つの粒自体は大きいが、数は3つと少ない。
まぁ食べられればいいのだが。俺はタッパーの容器の蓋を開けた。
開けて初めて分かる見た目。・・黒い。一見してみて乾燥しているのは分かる
そして周りにこびりついている白い粉は、カビ・・? ではないようだ。
俺は指ですくって舐めてみる。しょっぱい・・・どうやら「塩」のようだ。
黒く乾燥した梅干に、塩がまんべんなくまとわり付いている。
そんな状態だ。食べられるのだろうか?
たしか梅干は保存に優れた食品のはず。市販されている減塩、調味液なんかに
付けられているものなら、保存期間は半年から一年くらいだったはずだが、
自家製で15~20%くらいの塩分濃度で漬けられた梅干なら、かなりの年月が経過しても
食べられたはず。にわかには信じ難い話だが、100年前の梅干でも食べられたって
話だ。この梅干がどんな漬けられかたなのかは分からないが、とりあえず
口に入れてみるか・・・
一瞬、躊躇った後、俺は一口かじってみた。
もぐもぐ・・・
思ったより塩っ気を感じない。というか、酸味、塩気、梅の風味・・・
どれも薄い。食感は梅干のしっとり感は無く、ただボロボロと硬い種から
剥がれ落ちていく。まるで時間を置いたフライドポテトのような食感。
まずくはない・・・だが、喜べる程旨くはない。まぁ食べられるだけでも
御の字だと思うか。
俺は残りの梅干も食べた後、この家に放置されていた布団を手に取る
長い間放置されて埃まみれの布団はカビ臭く、少し湿っている。
布団に包まれながら、俺は天井を見上げ、静かに眼を閉じた。
・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
なんだろう・・・今日は妙に目が冴えている。眠むれない。
周りのゾンビが気になっているからだろうか・・・?
布団が湿気て寝心地がイマイチだからか・・・?
閉じたまぶたを再び開き、俺は天井を眺める・・・
しばらく何も考えずに見ていたら、一瞬、光が天井を照らす!
これは・・!?
俺は体を起こし、窓際に張り付きながら、そっと外を覗いた。
外の道路に人影だ。ゾンビではない、その人間が懐中電灯で辺りを照らしている。
・・・・・・・
男だ。
年齢は二十代後半から三十代半ばくらいだろうか? 少し小奇麗なジャケットを着ている
そいつはゾンビを確認するように手に持った懐中電灯を照らしている。
この場所じゃゾンビなんて物珍しくもないだろうに・・・
だが、そんな男の行動が俺は気になってしまって、しばらくそいつを観察していた。
観ながら考える事は、有益な情報を引き出せるか? 何か食物でも持っているか?
こいつに過去の記憶の有無があるかどうか? ゾンビなんかまじまじと見て頭が大丈夫なのか?
とか、そんなところだ。
そんな事を考えながら眺めていたら、ほんの一瞬、目があったように感じた。
思わず俺は陰に隠れる。
・・・・気のせい・・・・・だと思いたい。
もう一度、俺は窓からそっと顔を出して、そいつの位置を確認する。
突っ立ている。さっきの場所から動いていない。だが、こちらを伺うように見ている。
やはり場所がバレたのか? その時だった。男はゾンビの肩に手を置き、そして
ゾンビの耳元に顔を近づけた。口元は微かに動いているようだった。
ゾンビの耳元で何かを囁いていた? その行動に何の意味があるのか分からないが
精神でも病んでるのか? あの時の変態料理人みたいなのだとやばいな・・・
そう思い警戒し、銃を手にした瞬間だった・・・
「おおおおおおおおおおおおぉぉぉぉおッッ!!!
そこのぉおおいえだぞおおおぉぉぉおおお!!」
耳元で囁かれたゾンビは発狂とも取れる雄叫びをあげた!!
そして周辺がざわついているのが感じ取れる・・・・
いったい、何が始まるってんだ・・・




