第三十四話
・・・・・・。
・・・・・・・・いつの間にか眠っていた。ゆっくり眼を開けると、転がった椅子が
視界に入った。そうだ・・・首吊り死体のあった部屋で寝ていたんだ。
俺はその死体に眼を向ける。死体の背中がそこにはある。
・・・何か違和感を覚える。なんだ? 何か・・・何かおかしい。
俺は立ち上がり、死体の正面に回る。
死体の首元、口と目から白く太いキノコのような物が伸び、首をつっている
ロープに巻き付いている。眼を突き破って生えたキノコは先端が小さな笠を
広げていて、心なしか小刻みに震えている。さらに眼を天井に向けると、
何か白い綿のようなものが点々と見える。埃? いや・・・埃はこんなに
はっきり綺麗な綿状にはならない。これは・・・なんだ?
その時、俺は昨日寝る前に見たメモ帳を思い出した。これに関する
記述らしき物があった。たしか吸い込んだとかどうとか・・・
その時、天井にあった白い綿がゆっくりと飛来する。
これは・・・どう考えても関わらないほうがいい!!
俺はリュックを拾い上げ、一目散にこの場所から外へと駆け出した!
見た目にはキノコに見えた。 まぁ大きさが食用の比ではなかったが・・。
それはいいが、人間からキノコが生える? そんなことが起こり得るのか?
頭からキノコ・・・手帳の走り書きに「死ななきゃ」との文字・・・
そういえば、ある種の寄生生物はその宿主のコントロールを行うことがある。
まさかとは思うが、そう思える状況には見える。
数日前に吸い込んだ菌糸が、条件を満たした場所まで誘導、行動を支配し
ここで死ぬようにしたとすれば、あの首吊り死体の説明もできる。
仮説の域を出ないが、もしかしたら「人間を支配するキノコ」もあるのか
その辺りにうろついているゾンビがその可能性は低いだろうが、
あのようにならない為にも、「白い綿」には注意をしていくべきか。
かなり歩いた。遠くに薄らビル群の姿を確認できる。まだまだ歩く必要が
ありそうだが、とりあえず今見えている場所に行くか。
遠目から見えていた感覚とは違い、ビルはかなり酷い状態だ。全体に目に見えてヒビが
入り、外からでもビルの内部が一部崩落している事が確認できる。
傾いている建物もある。いつ崩れてもおかしくない。これは中を調べる事は
控えたほうがいいだろう。ビルの周辺でも探索するか。
周辺のビル群にまぎれて、看板が朽ちた店が一軒佇んでいる。中を見ると
どれくらいの時間が経過したのか・・天井は穴だらけで店内の腐食具合は
酷い。床を踏み抜いて足を取られないようにしないと。
奥に掛かった物が目に止まる。店の展示物だったのだろう。広いスペースに
何かの骨組みが残っていた。俺は店の中を見渡す。 ・・・・・
どうやらここは登山やキャンプ用品を売っていた店のようだ。
よく見れば、骨組みの下に布のようなものがある。展示品はテントだったものだろう
もう少し何かあるかを調べるか・・・
店の奥、倉庫だと思われる場所。中は輸入用品を保管していたのだろう。
俺程度の語学力じゃ読めない文字の着いた箱が並んでいる。その中で一つ
目にとまった物がある。缶詰だ。登山用品と思える小物の中から缶詰が
見つかった。書いてある文字は読めないが、シンプルなラベルから
これがハンバーガーではないかと、想像ができる。
ハンバーガー・・・・知識としては前からあったが、現物を目の前にすると
なんだか不思議な気持ちだ。俺は早速、開封することにした。
蓋を開けると胡麻がふんだんに掛かったバンズが見える。缶いっぱいに
隙間なく詰まっており、取り出すのに一部を指でほじくってから取り出す
見た目はハンバーガーそのものといった感じだ。匂いも悪くない
俺は一口、かじりついた。
バンズはしっかりしている。パンの味は悪くない。
何度か口の中で噛んで、このハンバーガーがようやくチーズバーガーで
ある事に気がつく。ケチャップ、ピクルスとハンバーガーの内容は
抑えているが、どれも味が少し薄く感じる。ここまではいいのだが
問題はパティ。力任せに固められたのか、硬い。そして肉の味よりは
香辛料と塩辛さが勝ってしまい、舌がビリビリする・・・
が、総合的な味は決して悪くないと言える。むしろこの状況なら
ありがたい限りだ。それに海外のものなのだろう。ボリュームは
満足できる。これ一つで腹の中は十分に満たされる。
ふー・・・美味しかった。水を一口のみ、少し腰を下ろす。
ブルルルルルゥゥゥ・・・・・・
?
すぐ近くで何かの音が聞こえる。車のエンジン音。 俺は店内から音の方向を覗き込んだ。
小さい・・・とは言っても装甲車である事は分かる。
なんだ? その装甲車はビル近くで止まり、中から数人が降りてきた。
そいつらは全身防護服のようなものに身を包んでおり、腰元には
銃が見える。何をする気なんだ?
その防護服を身にまとった数人はビルの中に入っていった。
そしてひとり、ガスマスクだけをしている兵が装甲車の隣りに残り、警戒に当たっている。
まぁ・・・何がしたいか知らないが、警戒している兵はひとり。
奪えば車、大型の銃、それに白い綿の対策に「ガスマスク」を奪えるチャンスだ
少し躊躇いはあったが、俺は薬を飲んでから、腰に携えていた銃を手に取り、
引き金に指を添えた・・・。




