第三十話
薄暗い森・・・地面に敷き詰められるように落ちている枯葉や枝を踏み鳴らし、
俺は歩いた。途中、何度も懐中電灯が不具合を起こして、光が途絶える。
川に落ちた時の衝撃のせいだろうか。今、ここでこの光がなくなるのは
とても心もとない。
随分と歩いた・・・
ずっと同じ風景がそこにあるかのようだ。変わり映えしない木々の景色
だが一つ、気になる物が道中の木々に貼り付けられていた。
それは貼り紙だ。薄汚く、貼り付けられてから
かなり時間が経過している。その張り紙には地図記号のような
何かのサインが描かれている。一枚一枚違う記号・・・
これが何を意味し、何の目的で貼り付けられたものか。
とりあえず剥がして持ってきてはいるが・・・並べて見てみても
なんの事だかさっぱり分からない。持ち歩いていい物かどうかさえ
分からないが、とりあえずカバンに入れて先を歩いた。
歩いた先・・・俺は開けた場所に辿り着いた。その場所は大きく山肌が
露出し、地面を螺旋状にくり抜いた形をしている。そして錆の塊となった
ショベルカー、ダンプカーなどの重機。どうやらここは採掘場。その跡地のようだ。
採掘場の中心付近に何かが見える。少し近づいて様子を伺う。それは
木材の破片や、寂れたトタンをつなぎ合わせた小屋のような物だ。
その中にぽっかりと空いた真っ暗な穴。どうやら中に空洞があるようだ。
そして・・・穴の中から匂いがする・・・
興味本位で近づくのは、危険だが、あの窖の中が気になる。
それもこれも、あの穴から立ち込める匂いだ。
かなり独特の臭みだが、なんというか・・・肉の匂いだ。ホルモンに近い匂い。
度数の高い酒なんかで一杯・・・なんて思えるくらいには食欲を刺激する
缶詰や乾物ばかりだったので、新鮮な「料理」の匂いには飢えてしまっているんだ。
確認を・・中を確認するだけなら・・・
危険は承知で、俺は窖の中へと足を踏み入れた。
入口こそ狭いものの、中は一人・・・いや、二人が肩を並べて歩いたって余裕が
あるくらいに広く、壁などは綺麗に人の手が入り、装飾や石の彫刻などが
散見できる。そして道は深く続いている。
小さな高低差には、綺麗に整えられた階段。少なくとも短時間でこんな
内装に仕上げるのは不可能だろう。誰かが住んでいる・・・しかもだいぶ長くから
そして、それは一人や二人ではない気がする。
開けた場所、匂いはより一層強さをまし、立ち込める煙で視界はぼんやりしている。
広場のようになっており、中央に祭壇のような物がある。そしてそこには十二・・・
いや、二十は居る。上半身半裸の男女。祭壇中央の一人の老女を取り囲むように
頭を垂れている。その老女は体中に見た事もない装飾品を身につけている
嫌な雰囲気だ・・・
入り口付近の彫刻の一体。俺はそこに身を隠す。少し様子を見よう・・・
しばらくひれ伏していた男女・・・突然、一人が奇声を発し、ついで釣られる様に
奇声が続く。奇声の後、取り囲まれていた老女が振り返り、集まっている人間に
声を発する。
「今、この時ッ! 浄化の時が来たぁッ! 皆の血肉をもって浄化の時であるッッ!!!」
再びの奇声! 歓喜とも取れるが、興奮気味の集団を見ていると、とても
歓喜とは言い難い。そして数人の男女が祭壇中央に何かを運んできた・・・
数人がかりでやっと運べるほどの大きさ。表面は赤黒い。何よりそれが匂いの元で
あることがわかった・・・
嘘だと思いたい・・・だが目の前の、表面の赤黒く焼けた物は・・・
人間だ・・・
祭壇の中央に置かれた焼け焦げた人間に、老婆は懐にもていた刃物を取り出し、
躊躇無く突き立てた! 儀式・・・俺にはそう見えた・・・
だが、驚愕するのはこの後の行為だ。
「さぁ! 皆の者ッ! 身に納め、この汚れた者を清めるのだッ!
我ら選ばれた信徒の血肉と一つとなり、清めるのだッ!!!」
その言葉を待っていたかのように、その老婆に群がり、我先にと手を差し伸べる!
早く、早くと・・・急かさんばかりだ。
そして老婆は祭壇の焼けた死体を刃物で裂き、肉片を目の前の男に手渡す。
男は手に取ると・・・・その肉を美味そうに頬張った!
後に続けと周りの人間が手を伸ばし、切り分けられた肉を受け取り、それを喰らう・・・
・・・・・・・・・
とてもじゃないが・・・
見ていられない・・・・・・・!
ゾンビが人を喰らう様子とはまた違う、なんとも言えない光景。
彼らは自らの意思で手を伸ばし、人間の肉を食らっている。
その表情はとても満足げだ・・・
匂いの正体もこう見ると、食欲が一転、吐き気に変わる。
もう十分だ。ここを離れよう。
その瞬間・・・ゆっくりと時間が流れる。
またか。この時間の感覚がゆっくりに感じる時、それは自分の身に危険が
迫っている時・・・・!?
どこだ? どこから・・・
何かの気配に気づき、振り返ると、目の前に木の棒を振りかぶる男の姿・・・
目の前までその木の棒は来ている!!
あ・・・
気づいても・・・・
避けれない・・・・




