第二十九話
・・・・眠っていた。どれくらい眠っていただろう。薄汚れたキヨスクの床に
身を横たえている自分。だが、心なしか暖かく感じる。
いや、暖かい・・・
昼中はすこし気温が上がる。日差しも柔らかく感じ、風も吹く時は強いが
その風に暖かさを感じる。 確か「春一番」といっただろうか?
そうなると今の季節は二月~三月の前半といったところか。
ガタガタと風が吹き、半開きのシャッターを揺らす。俺は立ち上がり
キヨスクを後にした。
線路は続いている。まっすぐ続き、他に何も目に入ってこない。
所々で人間の死体を目にするが、もう見慣れてしまって、感覚がマヒし
背景と大差がないように感じてしまう。
まさか自分がこんな感覚になるとは・・・・
線路を歩いてしばらくすると陸橋が見えた。俺は端に立ち、そっと目線を橋の
下へ落とした。底に広がる美しい景色。っと同時に、高所恐怖症なら卒倒するであろう
目もくらむ高さ。下には川が流れている。
俺は目線を戻し、前だけを見るように歩いた。
線路の隙間から見える絶景は、美しくも恐怖を掻き立てられる。
ほどなく目の前にあるものが見えてきた。それは電車だ。
四・・五両編成くらいか? 橋の中央付近で止まっている。
止まってどのくらい経っているのかは定かでは無いが、全体にサビが覆い
とても動くとは思えない状態だ。俺は電車に近づいた。
ギシ・・・ギシッ・・・・!
電車に近づいて気づく大きな音。何かが軋んでいる。おそらくはこの電車の
線路下、陸橋自体の音だろう。老朽化は相当進行しているようで、今にも崩れそうだ。
これはさっさと切り抜けたほうがいいな。だが電車は線路を塞ぐ形で止まっている。
屋根伝いに抜けるか、車両内を通るか・・・それとも引き返すか?
いや、電車内には、もしかしたら何か食べられる物があるかもしれない。
ここは危険を承知で中を探索すべきだ。俺は電車のドアに手を掛けた。
思った以上に扉は簡単に開いた。開いたと同時に落ちるサビと蔦。俺は中に入る。
日が昇っているが、中は薄暗い。俺は懐中電灯を照らす。
この電車がどういった経緯で、こんな場所にとどまっているのかはわからない
だが分かるのは、この電車は突然なんらかの悲劇に見舞われた事だ。
電車内の座席には座ったまま、死んでいる人が居る。そして死体はミイラのように
乾燥している。どれも苦しんだのか、苦悶の表情が伺える。それもそうだろう
よく体や、頭を見ると、小さな穴が空いている。おそらくこれは銃痕。
何者かが座っている人を銃撃したのだろう。中には子供の死体もある。
凄惨な状況だったのは想像に固くない・・・
俺は電車内を探索して、気になる物を発見できた。それは電車内で販売している
手押しのカート。この中になら何かあるかもしれない。俺はカートの中を
覗いた。
・・・・・ウッ・・・・・・
何が入っていたのかは分からないが、黒く焦げのような塊がある。箱らしき物が
かろうじて分かるので、これは「お弁当」だった物だろう。
原型はなく、ただただ、黒い塊と化している。 まぁ・・これは当然食えない。
その横にはペットボトル。茶色い泥水のようになっているが、飲めるだろうか?
ペットボトルの蓋を開けると、腐敗臭が辺りに立ち込める。俺は咄嗟に
蓋を閉めた。まぁ・・見た目からこうだろうなとは思ったが、どうやら、
このカートの中での収穫はなさそうだな。
ガタンッ!
突然大きな音が車両内に響く。そして視界が傾き始める。まずいな・・
時間がないな。得たものがなく名残惜しいが、崩れる電車に巻き込まれては
命に関わる。俺は電車の中を突っ切り、外を目指す。
ガシッ!!
足に突然の違和感! 俺は足がもつれ、その場に転倒してしまう。
何が起きた? 足元に目線を落とすと、そこには一匹のゾンビが組み付いている。
クソ! 離せッ!
俺はゾンビの顔に蹴りを何発も入れる。だが、足首に組み付いたゾンビは離れようと
しない。俺は銃を取り出し。ゾンビの頭に向かって二発、引き金を引いた。
パンッ! パンッッ!!
抱きつくように足元に組み付いていたゾンビは、その場で力なく俺の足に寄りかかる
蹴り動かし、なんとか自分の体の自由を取り戻した。
・・・・が
どうやら遅かったようだ。
ガラガラガラガラガラッ!!
陸橋が轟音をたて、崩れ落ちる!! 俺は電車と一緒に巻き込まれ、落下していく。
痛ぇ・・・全身を強く打った・・。だが、骨折等は無いようだ。体自体は動く。
俺はすぐに起き上がり、辺りを確認した。電車から見える窓の外の景色。
まるで水族館みたいだ。川の中に完全に浸かっている。
ほどなく、足元に水が入り込み、あっという間に膝下まで水位が上がる!
このままでは溺れてしまう!
落下の衝撃で窓ガラスにひびが入っている。あまり賢い方法とは言えないが
俺は銃を構え、窓ガラスを狙撃で割り、そこから外へと脱出した。
ブクブク・・・・・・・・
ぷはぁぁぁッ!!
川は思ったより深く流れが速い。俺はなんとか水面に顔を出し、呼吸を確保する。
・・・・・・・凌いだか・・・・
!!?
目の前に流れてくる瓦礫。陸橋の破片が、目の前に迫る!
駄目だ・・・避けられないッ!!
頭に強烈な痛み! 一瞬何が何だかわからなくなった・・・
ウォエっ!! ゴホッ・・・ゴホォッ!!
俺は大量の水を口から吐き、意識を取り戻した。
浅い水位に砂利の川辺。俺はどうやら流れ着いて、打ち上げられたみたいだな。
辺りを見回しても先ほどの瓦礫も陸橋も見えない。何より辺りの雰囲気がだいぶ違っている。
どうやら相当流されたようだ。さて・・・ここはどこなんだろうな。
木々が生い茂り、日がまだ高いというのに、光はここまで届いていない。
中は鬱蒼としており、足を踏み入れるのをためらってしまう。
何かがいるかもしれない。俺は銃を手に・・・・・ん?
ポケット、カバン、どこを探しても見当たらない。どうやら流される途中で
手放してしまったようだ。
クソっ・・・ついてないな。
カバンから薬を取り出し、飲み込んだ。だいぶ少なくなった薬。
なんだかんだで結構利用している。またどこかでこの薬は手に入らないだろうか?
俺はカバンに薬を戻し、この鬱蒼とした木々の中に足を踏み入れる。
・・・・・無事にこの場所を抜けれるだろうか・・・・・




