第二十八話
ギュルルルル・・・・ ギュルルルルル・・・・・
駄目だ。エンジンが掛からない。原因は分からないが、車はもう使えそうにない。俺は
車をこの場に置き、歩き始めた。彼女から少しでも離れなくては・・・今はそんな気持ちで
いっぱいだった。
左手に空いた穴。そして何より右手の小指を噛みちぎられた痛みが、思考を妨げる。
俺はカバンから薬を取り出し、口の中に入れる。
少しでも痛みが和らぐことを願いながら・・・
どのくらい歩いただろうか。一本の線路が見える。使われなくなって随分経っているようだ。
全体がサビつき、パッと見ても分かるくらいにレールは歪んでいる。俺はこの線路を
辿る様に歩いた。普通なら休む場所を探すが、今の俺は不思議と眠気や疲れを感じていない。
深く考えることもなく、俺は導かれる様に目の前の線路を歩いた。途中、子供の様に
レールの上を歩きながら・・・
以前、何処かで聞いたのかもしれない歌をふと思い出し、俺は口ずさみながら歩いた。
途中、ゾンビに出くわしたが、近くに落ちていたパイプを拾い、応戦して
さらに歩みを進める・・・
夜が明け、地平線の向こう側に、紅く燃える太陽の眩しい光。眼を細めながら、俺は
登ってくるのを眺めている。なんだか昨日はいろんな事があった・・・
感傷に浸る暇は無いが、今くらいはいいか・・・
日の出は綺麗なもんだ。こんな状況下でもそう思える。
しばらく歩くと建物がぽつんと見えた。どうやら駅のホームのようだ。
田舎なんかにある駅のホーム。もう朽ち果てる寸前のような状態だ。
ホームの名前も読めない。ただ気になるものがある
俺は駅のホームに上がり、近くにあったキヨスクのシャッターに手をかける
ガシャン、ガシャン・・・
流石に鍵が掛かっているか。しかし南京錠も相当に劣化している。錆だらけで
今にも崩れ落ちそうな状態だ。これなら壊せるかも知れない。俺は手に持った
鉄パイプで何度か力を込めて叩いたッ!!
カキーン・・カキーーーン・・・・・・キャンッ!!
手の痛みで思わず叫び声が出そうだ。だがその声を飲み込むようにして一呼吸・・
軽い金属音を響かせ、南京錠は砕けた。だがパイプもひしゃげてしまった。
これじゃ、役に立ちそうにないな。俺はこの場に鉄パイプを捨てた。
今の状態なら、シャッターは開けることができるだろう。俺は力いっぱいシャッターに
力を込めた。ガラガラと大きな音を立ててシャッターは開いた。
中には売店そのままの状態が残っていた。
・・・が、食料と言える物は乏しそうだ。まぁ状況は察する。食えるものだけ持って
この場所を離れたんだろう。丁寧に鍵をかけていったのは理解に苦しむが。
とはいえ、何かはあるかもしれない。俺はこのキヨスクをくまなく探してみることにした。
まず目に付くのは新聞だった。当時の新聞だろう。これがいつの新聞なのか。
それだけでも分かれば、今がいつかの推測が立つ・・・
・・・保管状態がかなり悪い。新聞の見出しはかろうじて見れる程度だ
発行された年号だけでも分かれば良かったのだが・・・ 他に何か情報はあるだろうか。
中程に気になる小さな記事を見つけた。
「世界で三番目の汚染区画に認定」
汚染区画・・あまり聞きなれないフレーズだが、記事によると、この汚染区画というのは
なんらかの事故、化学汚染、生物的災害などの要因で、長期的に生命に悪影響が及ぶ状況が
生まれ、土壌の洗浄が困難、または不可能であると判断された場所が、大きな区画防壁
で囲われて、出入禁止とされる場所。 のようだ
世界で三番目・・他にもそんな場所が存在しているという事か。しかし
汚染が酷いからって、貴重な国土を放棄するとか、国の偉いさん方も大胆だな。
・・・・・・
もしかしてここは・・・なんらかの事故が起きた汚染区画で・・・
すでに破棄された場所・・・
中にある全部・・・破棄・・・・てことは・・・・・
い・・・いや、駄目だ! 弱気になるなッ!! なんとか術を得て
こんな場所から、おさらばするんだ!
よしッ! そうとなれば、他に記事はないか・・・俺は残されていた
他の新聞も眼を通した。
しかしこれといった情報はないようだ。
まぁ・・このくらいか。俺は新聞を置き、キヨスクの中を漁り始めた。
おッ! これは・・・そこにあったのは小さな缶詰。手のひらに収まるくらい小さく
缶詰だというのに、紙箱の梱包がなされている。随分仰々しいな。
俺は紙箱を破き、中を取り出す。それは牡蠣の缶詰だった。 どうやら酒の肴と
して作られた缶詰のようだ。まぁ酒は無いが、食えるならと俺はプルタブに
指を掛けた。
・・・・・・
・・・・・・・・・あ・・・開けられない・・・・
右手に力が入らない。小指を失って妙に力が入りづらくなっている。
俺は缶詰を地面に置き、右手で缶を押さえ、左手でフタを開けた。
開けて香る燻製の香り。すこし甘く感じるこれは桜チップでの燻製だろうか
中には大粒の牡蠣が八個も入っている。俺は早速一つ口の中に入れた。
噛んだ瞬間に広がる牡蠣の風味と、独特の磯の香り。柔らかく、口の中で
溶け、濃いミルクのような甘み。そして燻製の香ばしさもより一層、味の濃さに
厚みを持たせている。なるほど・・・これはお酒が欲しくなるッ!!
一通り食べ、俺は満足した。気が落ち着いたのか、急に眠気が俺を襲う。
こんな状況で意識を失っては駄目だ・・・そうは思いながらも、体が
いうことを聞かない・・・俺のまぶたが段々落ちてくる・・・
俺はその場に倒れ、深い眠りについた・・・
汚染区画・・・区画防壁・・
もし行き着く先にあるのが「生存」でないとするなら・・・
ここまで足掻く理由は・・・・なんだろう・・・・・・・




